サクサクトロトロ!魔法みたいなホットサンド
スマホを置いて車の外に出た。聞いたことのない鳥のさえずりが聞こえてくる。
ひんやりした空気の中でぐーっと伸びをする。
体はまだ固いけど、よく眠れた。それに━━
━━スマホのおかげで気分は高鳴っている。
「おはようございます。眠れましたか?」
マリアが声をかけてきた。
「おはよう、うん、よく眠れたよ。マリアは大丈夫?」
「それは良かったです。私も最初に寝かせてもらったから平気ですよ」
話しながらテントの方を見ると、交代したマリアに渡した分のシュラフからジークが起き出してきた。
軽くストレッチをしている。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう」
私たちが起き出してきたから、ムニャムニャ言いながらアンも起きてきた。
皆が起きたので、朝ごはんにする。
作るのはホットサンドメーカーでハムチーズサンドだ。
2分ほどでできあがるのがいい。
最初は遠慮していたけど、昨日のフライドチキンやコーヒーで、三人は期待の目がすごい。
「ええ?それってパンなの?白いよ?!」
「まあ!とても柔らかいのですね」
「白いし、こんなにふわふわしてるとは…それを焼いてしまうのか?贅沢だな…」
みんな食パンに驚いている。こちらは違うのかな?
「こちらは違うの?」という私の問いにアンが答える。
「固いパンをスープに浸してクタクタになったところを食べるんだよ。それか最初から煮込むか。投げられたら怪我するほど固いよ」
「それは…すごいね…」
「チーズも固いよ。こんなに薄くてプルプルした柔らかいチーズなんてないよ」
ジークが実際にチーズを取り出して見せてくれた。
「うわ、本当に固い!石鹸みたい…これ、刃物が無かったらどうするの?」
「バキッと手で割る感じだな」
「ひえぇ…」
随分と違うんだなあ。私も、頑張って慣れていかないと。
アンが言った。
「あっ、ハムも薄いんだね。持ち歩いている干し肉は固くて顎が疲れるよ。塩辛いし私は好きじゃない」
「携帯食も色々と大変なんだねぇ…そうそう、パンは茶色のもあるよ。おしゃれだなと思うね」私がそう言うと、
「茶色がおしゃれ?!」驚かれた。
話しているうちに出来上がった。
「挟んで焼くとはな。端がくっついたぞ…どういうことだ?
魔法の刻印みたいなものが出たな…?」
ジークは不思議がっているけど、私も原理は知らないから詳しくは言えない。
作った順にどんどん食べていってもらう。焼けたパンの香ばしさとチーズのいい匂いが漂う。
「すごいよ!サックサクのトロトロだ〜!」
パンのサクサク具合、とろけたチーズに驚いたアンが思わず立ち上がったようだ。
パンを挟んで焼くなんて考えもしなかった、とマリアはベタ褒めだ。
「固いパンも挟んで焼いたら食べやすくなるのでは?」
「それはいいかもね。今度、水をかけるか、バターを塗ってから焼いてみようか?」
マリアは添えて出したスープの甘い美味しさにも感動している。
「こちらは豆や麦をドロドロに煮込んだものなのですよ」
「へぇ〜そうなんだ。それも気になるね」
ジークもホットサンドを食べながら、
「昨日のコーヒーに引き続き、スープもお湯を注ぐだけとは…」
とても感心していた。
「異世界の技術はすごいんだな!」
デザートに、安売りしていたのでつい衝動買いしてしまったシュークリームを出す。
アンは「すごいおいしい〜〜!口の中でスッと消えるよ!いくらでも入る!」と2個目に手を伸ばす。
甘いものが大好きだとわかったマリアはうっとりした顔だ。
「この白と黄色の泡は何でしょう…!まるで甘い雲を食べているようです…!雑味のない突き抜けるような甘さ…これは至高の食べ物です!」
クリームはあるけど、こんなにやわらかくふわふわしたものではないらしい。
「この薄い生地もすごいな…この中にこんなふわふわしたものを入れるとは…!相当な技術か魔法が必要だろう…」
ジークはひっくり返して見ている。クリームがこぼれ落ちそうだ。
そんなに喜んでもらえて、買っていて良かったなと思う。
(今は食べるのが一番だけど、早くスマホをみんなに見せたいなあ)
食後にはアンが水浴びしたいと言い出したから、手動のポータブルシャワーを出してきた。
電気不要なのがいいところだ。温水を入れて使う。
アンは外でお湯を浴びれると大喜びだ。お湯は自分が用意すると張り切っている。
聞いたところによると、高い位置に設置された水槽から管を通して、高低差で水をジョロジョロと落とすものはあるようだ。
ただし水圧の関係で、ポータブルシャワーのように快適ではないらしい。
マリアも綺麗に出来るのは嬉しいらしくソワソワしている。
ジークは仕組みが気になるようで、あちこちから見ていた。
「それとね…」
朝に車で見つけた大きな袋を持ってきた。服から下着まで揃う、有名な大型量販店のものだ。
従姉妹一家の買った物が入っていた。この間、我が家へ遊びに来た時の忘れ物だ。
部屋の邪魔になるから、と姉が車に積んだまま忘れていたのだろう。
私も荷物をどんどん積み込んで、よく確認しなかった。
少し拝借することにした。シンプルだから全員着れるはず。
ジークにはちょっと小さいだろうけど。
「まだ新品だから、良かったら使ってね」
それぞれの歓声が上がる。
「この赤い紋章…!異世界にある高名な服飾ギルドに違いない!」
(いや、近所の店だけど)
外袋を見て興奮気味のジークの言葉に、つい心の中でつっこんでしまう。
「わあっ!綺麗な服と下着!ありがとう!」
アンのように魔術師は何かとお金がかかって、服は後回しなようだ。
「ありがとうございます…!こんなにパリッとした綺麗な状態で売っているのですね…!すごいです!絹より繊細な…なんでしょうこの布は…!」
マリアもパーカーとワンピースに目を輝かせている。
「なんと滑らかで美しい袋に入っているんだ…!ありがとう!これは高価な魔法の保存袋に違いない!中の布を使うなんてもったいない!是非家宝にしたいところだ!記念にもらってもいいか?!」
更にジークは、なぜか内側の袋そのものに喜んでいた。
「別にかまわないけど…使わなくていいの?」
「開けたくない…」
「…まあ、それならそれでも…」
三人の興奮が落ち着いたところで、順番にシャワーを使う。
(…これを忘れていった従姉妹達は消えた私のことを知ったかな…)
ふとそんなことが、頭をよぎった。
探しているか、それともまだ気づいていないだろうか。
従姉妹たちの笑った顔が浮かんだ。
読んでくださりありがとうございます。次回は来週の日曜日、3/15(日)の19時頃に更新予定です。




