鏡に映る私は誰?
四人で気をつけて崖を登り、車のあるところまで歩く。
「ねえねえ、お姉ちゃん名前なんていうの?私はアン!こっちはジークでそっちはマリアだよ」
「…自己紹介する手間が省けたな」
三人の名前がわかった。
天真爛漫なかわいい女の子はアン。癖のある赤毛を二つに分けてくくり、鮮やかな青い目をしている。
剣を持ったイケメン男性はジーク。私より少し年上に見える。緩いパーマがかかったような明るくない茶髪に琥珀色の目。この世界にパーマは無いから天然だろうな。絶妙な無造作ヘアだ。
どこかお嬢様に見えるほっそりとした美人さんはマリア。長く伸ばした淡い金髪にエメラルドグリーンの目。年はジークと同じくらいだろうか。
「私は美優と言います」
「ミユウ?ミュウって呼んでもいい?」
「うん、いいよ」
偶然にも友人からの呼び名と一緒になる。
さん付けはお互い無しになった。
マリアは丁寧な喋り方だけど、私の方からは敬語は無しでいいと言った。
「それにしても…魔物が出ないな…」
前を歩くジークが小さく呟く。
(ヒッ!魔物とか!魔物がいる世界なんだ…!)
私はビクビクしてるけど、ジークは首を傾げている。
そうこうしているうちに着いた。車は、ちゃんと元の場所にあった。
…良かった、と安堵する。
中に入りライトをつけると、真っ暗闇の中に浮かぶ車がホッと出来る場所となる。
アンが興味津々に近づいて言う。
「これがクルマ?南の方で見た魔道具よりずっと大きいよ!空飛べる?」
「空は飛べないよ」
…本当に車を知らないのだろうか。
そういう、昔ながらの生活をしている地域の人達もいるみたいだけど…
「まさかこれほどのものだとは…すごいな。家がいくつ買えるだろうか」
「乗り物なのですか…お金持ちの方々でもこれほどのものは持ってないでしょうね」
ジークとマリアもそう言った。
3人は車の周りをぐるぐる回って見ている。
…こんな時だけど、洗車しておいて良かったと思った。
「ここ鏡になってる!こんなキレイな鏡、見たことないよ!…あっ…私…すごい汚れてる…」
サイドミラーを見て、アンはショックを受けている。
逃げたり転んだり砂ぼこりやらで大変だったそうだ。
何気なく私もミラーを見て固まった。
━━姿が、全然違う。
胸がひゅっと冷えた。自分の顔なのに自分じゃない。
私は黒い目で、肩につくくらいの黒に近い茶髪だ。
それが、鏡に映る私は深い紫の目に黒に近い紫の髪。
髪の長さは変わっていないけれど、顔立ちも違う。整ってはいるけれど、全然嬉しくなんてない。
「どうかしたのですか?」
固まってる私に気づいてマリアが声をかけてくる。
「…姿が変わってるの……」
「ええ?姿が変わるなんて聞いたこともないですよ」
「どうしたんだ?」
ジークがこちらにやってきた。姿が変わってしまったことを話すと、彼も聞いたことがないと首を傾げる。
「異世界人でも姿が変わる話なんて聞いたことがない。最初見た時、随分と魔力が高いんだろうなと思った。その『紫の目』で。だから警戒したんだ」
「目が何か…?」
「こちらでは誰でも知ってることなのです。
紫の目を持つものは魔力が高いと。
都会でないと中々お目にかかれませんが。
それに、特にミュウは深い紫なので相当な魔力を持っていると思います。深い色と明るい色でかなり違うのですよ」
マリアが答えた。
(そんな、ことって…)
アンが車のボディにそっと手を触れる。指先から淡い光が広がった。
……そして、真剣な表情になる。
「解析、出来たよ。監査魔法の簡単なやつだけど」
立ち尽くす私に、アンが声をかけた。
「ものすごい魔力だよ。移動魔法の、かなりのやつ」
(それは、つまり誰かが私をここに移動させたということ…)
ゆっくりと深呼吸をする。
信じたくはなかったけれど、もう否定する材料はなかった。
家族の顔が浮かぶ。もう会えないかと思うと、胸が締め付けられるようだった。




