メープル味は平和の香り
崖から降り立った位置から、3メートルほど先にいる彼らの方を改めて見る。
上から見た時より、月明かりに照らされた姿は随分と汚れて見えた。
泥の中ででもすっ転んだのだろうか。
よく見ると、男の人が持ってる剣みたいな武器や鎧、女の人のローブ風な衣装や髪飾り、女の子のフード付きマントなどは随分と本格的だ。
私はゲームをするし小説も読んだりと、こういうファンタジー要素があるものは好ましいなと思う。
こんな時ではあるけれど。
(お金、かかっていそうだなぁ)
「ねえねえ、突然だけどあなた、食べ物とか持ってない?」
「えっ?」
女の子の言葉にびっくりしてると、
「おい!いきなり何を言うんだ!」
「知らない人に物をもらったら駄目ですよ」
男の人と女の人に窘められている。確かに。
「こうやって話してるからもう知らない人じゃないよ」
「それは屁理屈と言うんだ!」
「だってお腹すいた!もうずっと食べてないんだよ!」
「それはみんな同じだ!」
言い合ってる間に、どこからか、ゴゴゴゴ…と低い音がする。
「えっ?なになに?オバケ?!」
私がキョロキョロ辺りを見渡すと、
「それ私のお腹の音〜」と女の子が言う。
なんと、お腹の音とは…放っておくのも気が引けるし…
持ってる携帯食をあげたいけど、こちらは得体のしれない人だしなあ…
「食べ物はあるけど、保護者の許可もないし…あげるわけには…」と私が言うと、
「えっあるの?やった、ちょうだい!」
「こら!」
「キレイで親切そうな人だから大丈夫だよ!」
「何が大丈夫なんだ?!」
再び始まった、女の子と男の人の言い合いに、女の人は困った顔をして見守っている。
うーん、どうしたものか…
「じゃあ、私が食べてみせます。これ、私がいつも食べてる栄養食なんですよ」
いつもリュックに入れてある、ブロックタイプの栄養食を出し、封を切った。
夜の森に、甘い匂いがふわりと広がる。彼らの鼻先がピクッと動いたのを見逃さなかった。
実際に食べてみせる。
「こうやって毒も無いですし。不審ならあなたも食べて確認してみませんか?」
「うーむ…」
男の人は悩んだものの、私が差し出した栄養食を手に取り食べてみた。
パクリ。
「こっこれは…!」
「えっなに?まずいの?」
(あれ、メープル味は口に合わないかな?)
「うまい!」
私の頭の中でファンファーレが鳴り響いた気がした。
「香ばしくて甘い!これが携帯食なのか?!」
「えー!そんなにおいしいの?」
良かった。それなら大丈夫かな。
「甘い携帯食とは、珍しいですね」
甘いものが好きなのか、女の人の目がキラキラしている。
「良かったら食べてみませんか?」
しばらく考えた後、女の人も受け取った。
「…いただきます……まあ、これは…!」
どうだろう?
「しっとりほろほろです!とても甘くておいしい…!」
二人とも食べて問題無しと思ったらしく、女の子にも許可がおりた。
「わーい、ありがとう!いただきます!…これ、おいしい!いつもの固いパンよりずっといいよ!」
良かった良かった。ついでなのでペットボトル入りの水も差し出した。
「そんなに美しい瓶と澄んだ水…本当にいいのか?」
「どうぞどうぞ。気にしないで下さい」
「なんだこの不思議な手触りは…ガラスじゃない。氷のように薄くて軽い!
ん…?これはどうやってあけるんだ?」
(えっ、キャップの開け方を知らない?もしかして設定を守るためにペットボトルを使わない人たちかな?徹底してるなあ)
「はい、これで飲めますよ」
ペットボトルを開けてあげた。




