第五章 守り神
田舎暮らしにも慣れて来たある日のこと。
玄関の扉と屋根の間のスペースに、何かがいるのに気づいた。
普通は見上げない場所。無意識に視線を向けた。
横に伸びる板の隙間から、じっと私を見ている。
負けずに私も見返した。
緑っぽい色。突起した二つの目。テカテカした質感。
はい。どうやらアマガエル。
どうしてこんな高い場所に。脚立や梯子なんて用意してあげてない。
壁を這い、自力で登ったのだろう。
すごい吸着力だ。
その能力、分けて欲しい。何に使うか分からないけど、欲しい。
ずっと私を見ている。
まあ、害はないはず。ほっておこう。
次の日。
二匹に増えていた。
四つの瞳で私を見下ろしている。
交互に見て対抗した。
一匹増えたところで害はない。また放置。
次の日。
三匹に増えていた。
ポケットの中にはビスケットが。その曲が頭の中で流れた。
叩いてないのに増えている。
三匹が等間隔に並んでいる。見事なもので、神々しかった。
思わず手を合わせて拝んだ。
勝手にこの家の守り神に認定した。
威風堂々とした佇まいは、まるで三賢者。
左から、メルキオール、バルタザール、カスパーと名付けた。
エヴァンゲリオンのマギシステム。
そんなアマガエルが守護している家に住んでいる。
誇らしかった。
毎朝、三賢者に拝むのを日課にしよう。
同じポーズでどこかを見ている。
私は気づいてしまった。三賢者は微動だにしない。
もしかして、ここは墓場なのか。
雲行きが怪しくなった。縁起が悪い。
確かめようと、じっと見つめた。
カスパーが僅かに動いた。
生きている。
よかった。
それにしても、食事はどうしているのだろうか。
何か奉納しようか悩む。
いや、余計なことは止めて、手を合わすだけにしておこう。
次の日。
五賢者に増えていた。
いったい、どこまで増えるのだろうか。
そして、なぜそこに集まる? 板の隙間。そこに何がある?
上半身だけ出して、どこを見つめている?
実に不思議だ。
だけど。
無事かえる、お金がかえる、人がかえる、若がえる、生まれ変わる。
カエルは縁起が良い。どうぞ住み続けて下さい。
次の日。
一賢者になっていた。
うーむ。わからない。方程式が解けない。
他の賢者はどこへ行った。
辺りをキョロキョロと探す。
いた。
壁に三賢者が張り付いている。どうやら、板の隙間に戻ろうとしているらしい。
仲よくトイレにでも行ってたのか。
あと一賢者はどこへいった。
しばらく探したけどいない。
あきらめた。
いつものように縁側へ向かい、カーテンをシャッと開けた瞬間。
いた! 窓に張り付いていた。
網戸が中途半端に開いていて、フレームが窓の真ん中で止まっている。そのフレームと窓ガラスの隙間に。
いくら探しても、外側からは見えない場所。
だけど意味が分からない。どうしてそんなところに。
網戸のフレームで風を防いでいるつもりか。
無理がある。
それに、フレームはアルミだから、夜は冷たいよ。
窓ガラスも。
そう警告しても動かない。
賢者の思考は、私には読めない。
けれど、お腹が白くてぷにぷにしてる。
かわいい。
しばらく眺めていた。
おでんのように、指でツンツンしたい。
だめだめ。カエルの世界で炎上しちゃうかも。
そのままにした。
次の日。
まだ張り付いている。網戸のフレームと窓ガラスの間に。
他の賢者たちは戻っているのに。困った。
掃除がしたいんです。
網戸を閉めて、窓も開けたいんです。
守り神様に物申してみた。
「どいていただけませんか?」
無視された。
まあ、明日にはいなくなっているだろう。
甘かった。ずっとそこにいた。
開けられず、掃除が出来ない。
どけと言われたので、意地になっているのか。
それなら、私も意地になる。
賢者が動くまで、私は窓を開けない。
その窓は、二週間閉まったままだった。
いなくなった朝、喜びはなかった。
どこへ行ったのか、心配になった。
玄関から出て、見上げた。
横に伸びる板の隙間で、五賢者に戻っていた。
やはり、そこが帰る場所だったのね。
無事でよかった。
けれど、どうせならもっと早く帰ってほしかった。
気を使ってこの二週間、縁側に掃除機もかけられなかったから。
まぁいいわ。
久しぶりの五賢者総揃い。
手を合わせて拝んだ。
12月。寒い日が続くようになった。
賢者たちの姿が見えなくなった。
以前のように周囲を探しても見つからない。
おそらく、板の隙間で冬眠している。
脚立を持ってきて覗きたい。けれど、そっとしておこう。
春になれば、会えるよね。
どうかご無事で。
また拝める日を、楽しみにしてます。
この家の守り神様。
読んでくださり、ありがとうございます。
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