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泥棒の背比べ

作者: 綴 詠士
掲載日:2026/02/07

「なん、だと」


 俺は盗みの成功に浮かれて、酒場でどんちゃん騒ぎしていた。


 そして、酒の臭いと熱気をまとって外に出たら、車に積んであった大量の宝石で装飾された王冠がミストに奪われていた。


 車の荷台は空っぽ。傍に見慣れぬ白いリムジンがあり、その荷台にミストが王冠を入れている。


 青い髪を腰まで伸ばし、金色のドレスを着ている。


 無意識に目線を奪われる美しい容姿に、白昼堂々泥棒する酷い内面の持ち主、それがミストだ。


 ふざけやがって!

 

 この疾風の大泥棒の宝を盗むだと? 無礼者が!

 

「ミスト! 王冠を返せこの女狐が!」

 

「あはははは! じゃあねブラッド! 間抜けな大泥棒さん! 疾風の大泥棒? 鈍足の大間抜けの間違いじゃない?」

 

「待て!」

 

 呼びかけるがミストは止まらない。

 

 リムジンに飛び乗って爆速で去っていく。

 

「俺の王冠……」

 

 我を忘れて呆然としてしまう。


 空には飛行船が悠々と飛んでいて、哀れな俺を嘲笑っているかのようだ。

 

 不意に人の気配がした。

 

 大柄でいかつい警察が辺りを囲んでいる。酔いもさめて寒気すら感じてきた。

 

「自称疾風の大泥棒ブラッドだな!? 王冠盗難の罪で逮捕する!」

 

「違いますうううう! あいつが持っていきましたあああああああ!」

 

 遠くに見えるリムジンを必死に指さすが、警察は容赦なく俺を連行していった。


 ***


「ああ、俺の華やかな生活がぁ。豪邸やプールがぁ」


 牢屋で寂しく一人で座る。

 

 どうも厳重に隔離された刑務所に入れられたようで、辺りには誰もいない。


 マジで地下の下水道みたいな薄汚れた牢屋にぶち込まれていた。


 時折吹く弱い風を感じて、自分が生きていることを実感するくらいだ。

 

 俺は暫く座っていた。

 

「ふはは」

 

 最初は怒り狂っていたが、落ち着いてくると笑みも浮かんでくる。

 

 多分、そうなるだろうという確信も込めて……。


 ***


 数日後。

 

 じっと座っていると遠くからキンキン声が聞こえてくる。

 

「触らないで! 私は黄金の義賊ミストよ! 貴方みたいなうらぶれた男が触れるものじゃないわ!」

 

「はいはい、義賊様。ほら、そこに牢屋がございますから、くつろいでくださいね!」

 

 俺の向かいの牢屋に女がぶち込まれる。威勢の割にあっさり牢屋に入れられて、ガチャンと重い扉が閉められる。

 

「あんたの顔覚えたわよ! ここを出たらあんたの家から盗んでやるんだから!」

 

「やれるものならな」

 

 青い制服姿の刑務官はコツコツ音を立てて行ってしまう。

 

「ああもう!」

 

 目の前の牢屋で女、ミストが叫んでいた。

 

 俺はそんな光景を見て笑いが抑えられなくなった。

 

「あっはっはっは!」

 

「え?」

 

 ミストが驚き、こっちを見る。

 

「ブラッド!? あんたもこの刑務所に入れられたの?」

 

「そうだ。それにしても傑作だな。黄金の義賊がこんな錆びた牢屋に入れられるとは」

 

「……あんたも同じでしょうが! でもなんで捕まったのかしら。完璧な逃走だったのに」

 

 ぶつぶつ言うミストに答えを教えてやる。

 

「あの宝石箱の中には、万が一の為に通信機が入れてあったんだよ。それを教えてやったのさ」


 そのついでに刑期短縮もさせてもらったけどな。 

 

「だからね! すぐに見つかったと思った! くそ! 同業の足を引っ張る泥棒のクズが!」

 

「それはお前だろ! 俺から盗もうとするからそうなるんだよ。ざまあみろ」


 煽ってやるとミストは顔を真っ赤にする。愉快愉快。

 

「このアホブラッド! ここを出たら絶対にブラッドの全財産を盗んでやるから!!」


「ふざけるな! ただの一般人から盗むとか、どこが義賊だ!!」


「あんたも悪人でしょうが!」

 

 俺たちは誰もいない刑務所の一角で怒鳴り合っていたのだった。

 

 その後、俺たちは煽り合い、刑務の邪魔をしつつも、結局は協力して刑務所を脱獄した。


 ***


 王城で開かれる王子の結婚式。こんな最高の舞台はあるまい!


 ジェットパックを背負い、式場のステンドグラスを割って登場する。


 王子と隣国の王女が唖然とするのを見ながら、指輪を奪い取って高笑いする。


「ははは! この指輪はいただくぞ!」


「お前は! 疾風の大泥棒!!」


 国王が叫ぶ。


 王冠を盗んだ時以来に見たが、その称号で呼んでくれるのは嬉しいな。雰囲気が出る。


 思わずテンションが上がっていると、またステンドグラスが割れた。


「は?」


 上から女が飛び降りてくる。何者?


「あははは! 指輪を奪いに来たわ! さあ! よこしなさい!」


「お前は! 黄金の義賊!?」


 国王がまた叫ぶ。直ぐに分かるの凄いな。王子達なんてぽかんとしてるぞ。


 って、そうじゃない。


「ミスト? またお前か!」


「あ! ブラッド!? なんであんたがここに! 指輪は渡さないわよ!」


「ダメだ。指輪はこの疾風の大泥棒のもの。お前には渡さん」


「ふざけるんじゃないわよ! それは黄金の義賊のものよ!」


「あ! やめろミスト! 放せ!」

 

 二人で指輪を奪い合う。


 すると国王が叫んだ。


「警備隊! 捕まえろ!」


「うおおお! 捕らえろ!!」


 警備隊が襲ってくる。くそ。


 俺は背中に担いでいたジェットパックのスイッチをつける。


「じゃあな諸君。さらばだ! いい加減放せミスト!」


「あ、こら!」


 俺は指輪をミストから奪うと、そのままステンドグラスの外に飛んでいった。


 だが背中に重い荷物が乗っていた。


「おい、ミスト! 離せ!」


「絶対にヤダ! 私の指輪! 返しなさい!」


「やめろやめろ! 落ちるから!」


「返せ返せ!」


 空中で指輪を奪い合っていると、ジェットパックがコントロールできなくなって、変な方向に急加速する。


「うおおおおおおお!!!!!」


「ぎゃあああああ!!! ブラッド!!! 止めなさい!!!」


「無理だああああ!」


 そして俺たちは墜落したのだった。


 指輪は消え、ジェットパックはぶっ壊れ。あとにはボロボロの俺たち二人。


「ミストのせいで指輪が無くなっただろ!」


「ブラッドが邪魔しなければ私のものになったのに!」


「やっぱ黄金の義賊なんてまやかしだな。疾風の大泥棒こそが真の泥棒だ」


「何言ってるわけ? 黄金の義賊こそが最強ですう! 疾風の大泥棒なんてゴミゴミ。チビ!」


「それは関係ないだろ!! バカ!」


「バカって言った方がバカなんですううう!」


「お前の方がバカですううう!」


 俺たちはボロボロの姿で、ひたすら文句を言い合っていたのだった。






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