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探偵賽河の管轄外事件簿  作者: ちさここはる
事件EP2:情事の悪臭
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第9話 探偵の素性

 口にした「行きましょう!」の言葉に立花もんんん? と立ち止まる。表情をころころと変える一回り以上下の助手。


 探偵賽河の表情は一律と変わることのない笑みを浮かべている。



「さて。殺されてしまった憐れな女よ」


『ァ……ア、ァア……ぅうう』



 賽河に呼び寄せられた新鮮な魂の線は、立体的に顔を浮かべて赤い涙を流す。


「憎いよなァ。そりゃあ、……納得なんか出来やしねえってもんだわな」


 歩行補助のT字杖を地面に叩き突いた。



「湊さん?」



 賽河の行為にはっと、立花も視線を向けた。バクバクと高鳴る胸中。耳の鼓膜に大きく鳴り響く音が堪らなく煩く、現実(リアル)なんだと状況を報せる。



「まずはどこにいるのかを教えてくれるよな?」



 立体的に広がった表情が瞬く間に、大きくと膨れ上がる。立花は、ひゅっと喉も鳴ってしまう。


 まって待って待ってっ!と。

 このままだと、と。


 はァっはァっはァっ! と立花の呼吸も次第に早いものになってしまう。


 夜明け間もない交通の便も少ない程度で、全くないというものではない。しかし、今いる路地には人通りは0だ。


 この場所で叫び声を荒げるような真似以前に、賽河の横で騒ぎ立てる訳にもいかない。ガクガクと膝も嗤い出す始末だ。


 普段の怪異事件より、寝暗く重い空気である。


 怪異事件のときよりも、今の状況下で賽河の口数も少なく、立花に一切の説明はない。


 不満of不満。不誠実とさえ思うのだが。怒りや口を挟むなどの野暮のことが、現時点で立花には敵わない事態である。


 立花は呼吸を懸命に整えた。



「っこ、ここここッ」

「っし」

「ふぁあ!?」



 困惑の想像絶する事態に、立花の口からは言葉にもならない、情けない息だけが漏れてしまう。



「この魂の帯をしっかり掴んで」


「! ふぁぃいい!」



 賽河がどこからか掴んだ、周りに浮く沢山の魂の帯の一つを立花に持たせた。


 ようやく得られた命綱を、立花もしっかりと指先に力を込めて掴む。

 


「溢れたものに押し流されようにね」


「っあっふぅうう??」



 賽河の言葉に聞き返すよりも数秒遅く。立花は、彼が言った言葉を、理解することになる。


 バン! と鈍くも大きな破裂音と同時に真っ赤な液体(モノ)が中から溢れ出したからだ。


 瞬きすらも叶わないくらいに激流だ。大昔であるが、立花が幼稚園児だった頃の話し、一度、海水浴で親が少し目を離してしまった隙に溺れてしまったことがある。


 何故か、立花は今でも夢で見る程に鮮明に覚えている。悪いことに。


 状況が今の瞬間と今が同期をし、脳がバクってしまった。何かがフラッシュバックをして、瞼の裏に浮かび上がる。


 ***


『こんな時間に何よ』

『時間なんか関係ないだろう。お前は、この時間にしか家にいないんだからな』

『それで。要件な何? あたし、眠いのよね。分かるでしょう? あたおかメタボ親父(カモ)たち相手にして来て、閉店作業からのお店を閉めて来たばかりで、……もう歳も歳だし、いつまでも若くなんかもないし。どうせなら休みの日とか、違うわね。はァ、ああ、眠いったら! 本当に帰って頂戴ッ!』

『誰に命令してんだッ! ブス!』


 ***


 バン! と頬に強い衝撃が起こる。


 衝撃で目も閉じられなかった瞳孔も開いたままだった立花の目が瞬きを数回とさせた。


 立花の歩んだ今の人生にない記憶だ。じん、と頬もかなり痛い。


 親にぶたれたことはあったが、何十万倍と越えた激痛に涙よりも恐怖を覚えた。


 真っ赤な液体が辺り一面を飲み込んだ。血の池に溺れるような恰好で、立花と賽河は潜ってしまっている状態だが。


 賽河の表情も赤い中でくみ取れないものの、口許は吊り上がっていて――怪異事件を扱っている|探偵の顔だ。



「しおり君。サーフィンをしたことはあるかな?」

「ぁ、りますっっっっ!」

「じゃあ、その要領でついておいでよ」

「! ぇ、うぇええ??」



「こうだよ」と賽河は掴んだ魂の布の上に器用にも乗り上げた。


 置いて行かれると立花も、見様見真似で布の上に立ったが、あまりの不安定さに身体もふらふらとなってしまう。


 賽河が言ったようにサーフィンの要領で腰を曲げて似て非なる猿真似を披露する。


 先端の布の箇所を掴み、勢いよく赤い液体の中、重力を無視するかのように、勢いよく泳ぎ出すのを目視した立花も後ろから猛追する。



「待ってくださいぃいい!」



 これは現実なのか。朝方の白昼夢か何かなのか。


 尋常ではない、尋常ではない、尋常であってたまるかッ! と立花も必死に喰らいつく。


 頬がじんじんと痛みが引かないどころか増すことが現実を叩きつけられている格好だ。


 探偵賽河湊――二つ名は《始末屋》


 同期で刑事でもある、腐れ縁の岸辺伯雄に立花は聞いたことがあった。


 興味があった。助手をするなら確かめたいと思ったが、それこそ賽河本人に聞くよりも周りに聞いた方がいいと思い尋ねた。



『岸辺さん。探偵なのに始末屋って、どういう意味合いなんですか? ご存知ですよね』



 ぶぶぶっ! と飲んでいた栄養ドリンクを思いっきり噴き出したときの動揺を見たとき、立花は自身の無知ぶりに、穴にも入りたい気持ちにもなった。


聞かれた方は『栄養ドリンク、結構高いのを買ったのになぁ』と立花の無知を責めることはなかった。


 岸辺が真っ直ぐに彼女を見据えた。



『始末屋の生業の意味を調べなよ』


「……って! 聞く相手を間違えたぁああ!」



 真剣な甘い面持ち(マスク)が突然に耳元で囁かれ、注がれる吐息に全身が、くすぐったくも小さく揺れる。

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