第1話 背徳のATM
騒音著しいパチンコ屋で賽河湊がボヤく。
「今日も大繁盛なこったね」
普通の声だが、周りに賽河の声が聞こえることはない。彼の持つ歩行器変わりのT字杖の音さえも遮り、聞こえない。
昔、交通事故に遭い杖を使い始めた。完治して二十一年と愛用し続けた為、歩き方はまるで足が悪いと思われる有様でバランスも悪い為、腰痛持ちだ。
T字杖を止めれば済む問題なのだが、彼にはT字杖に愛着がある為、今更と止めることなんて出来ない。T字杖自体が賽河の一部と言っても過言ではないのだから。
「しかし。今の六号機は本当に出ていないな。データーもひでぇったら。昔の四号機が懐かしいったらない」
諦めの表情で、ため息を吐く賽河の視線には、昔の漫画や、今のWeb小説からアニメ化された作品の筐体が店舗内ホールを彩るのが映る。
それに対して、昔ながらのジ〇グラーや沖ド〇なんかもタイプやデザインを変えて現役中だ。
「昔は八百枚以上が当たり前で、借金しても返せる見込みがあったからしてた連中もいたってのに。まぁ、今の筐体じゃあもう無理なこった。千円で四十六枚。BIGが二百十枚前後にREGが九十枚前後。ATでようやっと千枚出るかどうかで、たった一回の単発で終了ってんなら次が来る前にご破算よ。引き下ろしの出来ないATM業界とはよくも言ったもんだわ」
グチグチと業界の悪口を、もごもごと言いつつ、賽河の目は輝き筐体を選んでいる。
少ない金で稼ぎたい、ハイエナ狙いならデータを見るが賽河はそうしない。好きな筐体があるのなら、前日や前々日のデータを見て、鼻息荒く打ち始めるが賽河はそうでもない。
「今日はこの筐体で慣らし打ちをして、ダメなら他の奴に鞍替えをしてって感じで、よぉー~~し! 諭吉よ! GOー!」
毎回適当にこれだと感じた筐体を打つ。あまりに適当で1日の負債が最高で、十五万円をパチンコ店と名乗るATMにお布施をしてしまったことがあるのだが後悔はない。
損失金額を聞いた助手の立花が悲鳴を上げて寝込んでしまったことがあった。
その後は、立花がATMから何日かに分けて朝から晩まで座り、引き戻すという鼬ごっこをしている。
ちなみに立花の相性がいい筐体は、バジリス〇と北斗の〇などである。そのときの立花は必死だが、回収後は毎回と「私は何をしてんだ?」と頭を抱えた。
無計画に何もデータ視ずに今回、賽河が諭吉を入れた筐体は九十年代。小説と映画で恐怖を斡旋させた幽霊が毎回と呪いループさせる若干古い作品なのだが賽河は気に入っている。
手が落ちる衝撃も堪らない。
「今回も沢山、呪って下さいよー~~貞子さぁ~~ん」
【リ〇グ】
この筐体選びが引き寄せたのか、間もなくバラエティー筐体エリアで――人が死ぬ。




