転生悪役令嬢だけどヒロイン作ったった
前世でたまたま暇を持て余した時に読んだ記憶がある漫画とほぼ同じ世界に転生しました。
どうも、悪役令嬢です。
えっ、私このままだとヒロインとヒーローに断罪されて人生転落コースを辿るの……?
あ、ちなみにヒーローは王子様です。マジモンの王子様です。
けれども悪役令嬢の婚約者ではないです。
婚約者がいる相手だとどうしたってヒロインちゃんが略奪したって事になっちゃうからね。創作だとそこら辺は話の展開次第であまり気にならない場合もあるけど、でもやっぱほら、ふとした瞬間に冷静に考えちゃったらさ……純粋に楽しめなくなるっていうか……
悪役令嬢は家柄その他申し分なし、と自他共に思ってるけどまだ王子の婚約者の座を手に入れていないので、そういう意味ではヒロインちゃんと同じように王子様に見初めてもらうために頑張るのである。
ある……のだけれど、あまりにも空回りすぎて最初はともかく王子様とヒロインちゃんが徐々にいい雰囲気になっていくのを見て焦りに焦って、それやったら駄目だよ、っていうのをやらかして最終的に恋敗れてしまうのだ。
……そうして今までヒロインちゃんの足を引っ張ろうとしてやらかしたあれこれについても追及されて戒律の厳しい修道院に追いやられるのだ。
ただ、道中とても危険らしいので話の中では修道院行き、ってなってるけど多分アレ途中で事故か刺客かで悪役令嬢亡き者になってるんじゃなかろうか。ストーリー上で明言されてないけど、その手前のあれこれがあまりにも不穏すぎてそういう疑いを捨てきれなかったっていうね……
とりあえず死にたくないでーす。
ぶっちゃけ原作の悪役令嬢と中身が別物なんで王子様の事もどうでもいいデース!
でも物語の修正力とかそういうのがあったら困るのでとりあえず手を打つことにしました。
ちなみに原作まであと三年です。
三年あればどうにかいけるか……?
悪役令嬢はヒロインと違って金と権力を持ってるので三年あればどうにかなるっしょ。
そういうわけで、頑張るぞー!
――というわけで三年が経過しました。
貴族たちが通う学園にヒロインが入学するところから原作スタートです。
元平民のヒロインちゃんは父親が元貴族で、叔父に引き取られて貴族の仲間入りを果たしました。
そこら辺は似たような話がいくらでもあったから、とりあえず割愛。
ちなみに父親が元貴族なのは駆け落ちして平民になったからです。
貴族になって日が浅いので、他の貴族令嬢と比べると粗が目立つヒロインちゃんですが、そこが王子の目に触れて気になるあの子……となっていくわけです。
そしてそんなヒロインではなく自分を見てほしい悪役令嬢ですが、しかしやる事成す事全部裏目に出てヒロインの株が上がるばかり……ってのが原作ですが、私もこの日に備えてきました!
さーてどうなるか見物ですね!
メーデーメーデー!
どうやらヒロインちゃんも私と同じ転生者っぽい。
何故ならそっと様子を窺ってたんだけど、人の少ない場所でひっそりと、原作通りのスタートね。この流れでいけば何も問題なさそう……! なんてほくそ笑んでるのを目撃しちゃったのよね!
同じ転生者として仲良くできないかな? って思ったけどなんか無理そうだったので、諦めて本来の作戦を進めていこうと思いまーす!
ちなみに私は特に王子に何かアクションを起こす必要はないです。
高みの見物と洒落込みますか!
――というわけであっという間に半年が経過しました。
ヒロインちゃんは王子様とどうなったかっていうと、上手くいっていません。
それどころか相手にされていません。
どうしてか?
それは王子様が既に他の女性に惚れてるからですね。
惚れてるお相手よりもヒロインちゃんが魅力的なら原作の通りに進んだかもしれないけれど、残念ながらヒロインちゃんの魅力が足りなかった……!
ヒロインちゃんは原作通りに進まない展開にイラついて、なんとよりにもよって王子様が惚れてる相手に対して嫌がらせを始めてしまいました。
ヒロインちゃん、それは悪役令嬢のやる事なのよ……
原作では私がやるような嫌がらせをヒロインちゃんがせっせと王子の想い人にやらかしています。
わざわざ彼女の教室に忍び込んで、ロッカーを無理にこじ開けて私物をズタボロにしたり、通りざまに突き飛ばしたり足をひっかけたりして彼女に怪我をさせたり。
み、みみっちぃ……!
原作読んでた時はあえて思わないようにしてたけど、身分の高い悪役令嬢のやるこっちゃねぇですわ……!
権力があるならもっとそれを有効活用しなさいよ、って原作の悪役令嬢に言いたいくらいみみっちぃ嫌がらせすぎますわ……!
でも低位身分の元平民っていうヒロインちゃんがやると妙にしっくりきますわね……!
って事はやっぱ原作の悪役令嬢の嫌がらせって平民仕様だったってコトなのでは……?
なんて訝しむまでもなかったですわね。
王子様の想い人、エリーゼ子爵令嬢は、我が家の寄子ですの。
領地は王都から離れた場所で、大自然に囲まれた長閑な土地。
って言えば聞こえはいいけどまぁ普通にド田舎ですわ。
そんな領地でのびのびと育ったエリーゼは、王都やそれに近い領地で生活している令嬢たちと比べるとまぁ……洗練されている、とはとてもじゃないが言えないけれど。
でも、ちょっと考えてみてほしいの。
低位身分の貴族の娘で、高位身分の令嬢と比べるとお高くとまってるように見えなくて、天真爛漫で表情もコロコロ変わる。
何か、思い至りません?
そう、これだけならヒロインちゃんとそこまで変わらないのです……!
勿論、そういう令嬢は他にもいます。
けれど、王子様はそういう女性なら誰でもいいというわけではなかったでしょう。
人にはそれぞれ好みというものがありますものね。
そして原作を思い返した上で王子様の好みを考えた結果、エリーゼこそが私の作戦に相応しいと思ったの。
なにせエリーゼ、見た目はヒロインと同じような可愛い系で天真爛漫でにこっと笑った顔がとても愛らしい。
髪や目の色はヒロインと同じではないけれど、そこそこ似ているのであとは原作ヒロインに寄せて見た目を整えれば王子様ったらあっさりと陥落したわ。
確かに最初、ヒロインと出会いはしたけれど。
元平民という部分で物珍しさもあったかもしれない。
そうして、周囲のお高くとまった我侭娘たちと比べると素直な部分もあって、そういう点を好ましいと感じたかもしれない。くるくる変わる表情、裏のない言葉。そういうのが、お疲れモードな王子様の心に染みわたったのかもしれない。
なにせ殿下の婚約者はまだ決まっていない。
なんで年頃になってもまだ決まってないの? って思われそうだけど、それには神殿からの予言とか神託とかいうのが関わってる。
無理に決めた政略結婚ではなく、王子が直々に選んだ相手と結ばれる事でこの国は更なる発展を遂げるであろう……とかなんとか。なんかそういうのがあったせいで、国王陛下や王妃様が勝手に他の家との縁を結ぶ事もできなくなってしまった。
神の言葉に背けば最悪この国は滅びるかもしれないとなれば、勝手に決めるわけにもいかない。
実際他の国でそういった神託を蔑ろにした結果、とんでもない事になったなんて話もある。
それが本当に神託に背いたからそうなったか、はわからないが、それでも関連性がないとも言い切れない。
なので王子様は現状フリーなのである。
また殿下も見た目は大層よろしいので、そんな殿下に見惚れる令嬢の多い事。素敵な王子様に見初められたい、なんて恋に恋するような乙女の憧れを具現化させたみたいな見た目をしているものだから、学園内で令嬢の視線を辿っていけば最終的に殿下を発見できるとまで言われる始末。
原作の悪役令嬢も、その中の一人だったのよね。今は違うけど。
ともあれ、ヒロインと出会ってちょっと心揺らいだ殿下だけど、その後でヒロインちゃんの上位互換みたいなエリーゼと出会った事で。
王子様のヒロインちゃんへの印象は薄れてエリーゼによって上書きされてしまったのよ。
確かに天真爛漫で素直なヒロインちゃんは物珍しかったと思う。
けれども、平民時代の暮らしが長かった事もあって礼儀作法とかある程度学んだといっても、ふとした瞬間そういった不作法な面がひょっこりと出てくるのだ。
殿下も一応彼女が元平民とわかっているから多少は目こぼししていたようだけど、それでもそれが何度か続けば目に余るわけで。
そこに、殿下が内心不快に思わない程度に礼儀作法ができていながら、更にヒロイン同様天真爛漫で笑顔の素敵な令嬢がいたのなら。
内心でちょっと不満に思う部分のない相手と一緒にいる方が、ストレスもないものね。
まだヒロインちゃんに完全に恋に落ちる前だったからこそ、殿下はエリーゼに惹かれてしまった。
かくして、本来のヒロインちゃんは後から登場したエリーゼにその立場を奪われて、自ら悪役令嬢の立場になってしまったのよ。
ヒロインの座を得た、と言ってもエリーゼは生まれた時から貴族なので、自分より立場の低い元ヒロインちゃんに嫌がらせを受けた時点で、対処した方がいいんじゃないか、と思ったようなのだけど。
それは私が止めたわ。
とても腹立たしいだろうけれど、それでも耐えてほしいと説得した。
勿論エリーゼはすぐに納得はしなかったものの、けれど私の説得で考え直した。
私は嫌がらせを受けているエリーゼを慰め、友のためにむしろ元ヒロインちゃんをどうにかしようか? と言う立場である。そしてエリーゼはそんな私を引き留める役。
ただ元ヒロインちゃんを自由にさせていたわけではない。
彼女にももしかしたら何か事情があるのかも……と相手を思いやるかのような言動を周囲に言いつつ、元ヒロインちゃんを好きにさせた。そうする事で元ヒロインちゃんはますます増長して嫌がらせは悪質になっていく。
勿論あまりにも酷くなりそうなものは私がそれとなく対処して、友を案じる友人と、いかにもなヒロインムーブをするエリーゼの図を周囲に認識させた。
やってる嫌がらせがいかにも平民らしすぎて、こっちがやり返したら逆にオーバーキルになるっていうのを周囲も理解していたからこそ、最終的にどういう決着をつけるのか――余計な横やりを入れるでもなく、周囲もまた静観に徹していた。
結果として。
愛しのエリーゼが嫌がらせを受けているという事に殿下がとうとう解決に乗り出す事となった。
殿下も気付いてはいたけれど、それでもこの程度の事なら取るに足らない事ですもの……と困ったように笑うエリーゼに、殿下も即座に行動に出られなかったのだ。
エリーゼ曰く、
「何かが気に入らなくて嫌がらせをするにしても、どのみち一時的なものでしょう。そのうち飽きると思うのです」
そんな風に言われてしまえば、殿下もエリーゼに何か考えがあると察したようだ。
結果として元ヒロインちゃんは、泳がされてるとも知らずせっせと悪役令嬢としての行動をどんどんやっていって、そうして最早言い逃れもできないくらいの証拠を積み重ねてしまった。証拠も証人も充分すぎる程に。
そうして原作と同じくクライマックスの舞台で、元ヒロインちゃんはエリーゼと殿下に揃って断罪された。
エリーゼがヒロインムーブをして、謝ってくれれば今までの事は水に流しますよ、と言ったけれど元ヒロインちゃんは謝らなかった。
だって、本来ならそこにいるのは自分なのに。
なのにそこにいるのは自分ではないのだ。
奪われたのだ、と元ヒロインちゃんが思ったのは間違いではない。
元ヒロインちゃんにとっては、本当の自分の立場を取り戻そうとしただけ。自分こそがそこにいるはずなのに、何故かそこにいる邪魔者を排除しようとしただけ。速やかに自分の居場所を返してくれるのであればいいのに、図々しくも居座っていた方が悪い。
元ヒロインちゃんの言い分はそんな、私以外にとって意味不明のものだった。
それから元ヒロインちゃんは私の方を見て、更に喚いた。
本当なら嫌がらせをするのは私のはずなのに! って。
まぁそうね。原作では確かに私が悪役令嬢。
けれど、私が嫌がらせをする事なんて有り得ない。
だってエリーゼは私の友人ですもの。
私はあくまでもエリーゼと殿下の恋を応援する立場。嫌がらせなんてするはずがない。
それに、身分という壁もエリーゼと殿下が本当に結ばれるのであれば、私の家が後ろ盾となってエリーゼには相応の家に養子に入ってもらって王家に嫁ぐのに相応しい身分を用意する事も宣言しているわ。
たとえ身分が違おうとも、その壁を乗り越えて結ばれようと努力するエリーゼのため――要するに私の今の立場は悪役令嬢などではない。サポートキャラよ。
勿論王家入りをするとなれば、エリーゼだって今までのように天真爛漫なままではいられない。けれど、それは公の場での事であって、殿下と二人きりの時は今まで通りに振舞う事なんてエリーゼにとっては何の問題もない。
王家に嫁ぐ事も見越して、前々から密かに高位貴族としての勉強も始めていたエリーゼだけど、殿下が好きになったエリーゼを損なう事のないようにしつつ、淑女の仮面をかぶる事も覚えたので周囲も身分がどうだとか、そんな風には言わない。
エリーゼだけではなく私にまで何やらわけのわからない事をまくしたてた元ヒロインちゃんは、かくして原作の悪役令嬢が辿る道を行く事になった。
戒律が厳しくそう簡単には出てこれない修道院へ、送られる事となったのだ。
元ヒロインちゃんを引き取った男爵家は多少のペナルティを受けたものの、家を潰されたり処刑されたり、なんて事にはならなかった。
本来のヒロインちゃんであったならそんな事には絶対ならなかったし、あれは中身が転生者だったせいっていうのもあると思うので。
そうしてエリーゼは王家に嫁ぐ事になんの問題もない身分を養子入りする形で得て、無事に王子様と結ばれました。
なんでも聞けばエリーゼは幼い頃実は幼い殿下と出会っていた事があったらしく。
その時からずっと彼に恋をしていたようなのだ。
けれども彼女は地方貴族の取るに足らない娘。
きっと忘れ去られているだろうし、出会ったとしてもう彼が自分を見てくれる事はないだろう……
そう思っていたのに、そこに私が声をかけたのが切っ掛けで彼女は見事王子様と結ばれる事になったのである。
原作では殿下の幼少期のエピソードなんてなかったから、それを後から聞いた私は顔に出さなかったけど、とてもビックリしたものだわ。
ちなみにそんな幼い頃のエピソードを聞いた殿下も実は密かに幼い頃に出会った女の子の事は素敵な思い出として心の奥底にあったらしく。
私はそんな二人を結び付けたのだという事でちょっとした有名人になってしまった。
縁結びの女神みたいに言われて恋の相談がたくさん寄せられて、困り果てながらも折角だからと相談にのっていたら更にいくつかの縁が結ばれた事で、ちょっとしたどころではない有名人になってしまった。もうね、恋の相談は私にしておけ、っていうのが暗黙の了解みたいになりつつある。
その本人である私に恋の話はないのにね……?
いやまぁいいけど。悪役令嬢ルートから逃れられただけで全然いいけどね?
ちなみに風の噂なんだけど修道院に入ったはずの元ヒロインちゃんが死んだらしいよ。
……やっぱ原作の悪役令嬢、あれも死んでたんじゃないかな。
そう思うと助かったって実感も一入よ。
生きてるって素晴らしい!
次回短編予告
自身が望んだわけじゃない婚約。
そのせいで、愛する人と結ばれる事もできない。
不満を抱いた王子は、故に宣言したのである。
大勢の前で、婚約破棄を――
次回 王子様の転落と悪い女とそれから
よくあるテンプレから始まる、王子様のその後の話が気付けばメインになっていました。




