自立型兵器
エリックとエリスは息を切らしながら、都市の外れへと逃げ続けた。
闇に覆われた山の中へと踏み込んだとき、背後ではなおも自立型兵器が追跡を続けていた。上空からサーチライトを照らし、機械仕掛けの兵士たちが無機質な声で命令を交わしている。
「エリック、このままじゃ……」
「まだ終わらない……!」
二人は斜面を駆け上がりながら、ようやく小さな洞窟を見つけた。内部はひんやりとしており、奥に進むと、そこには古びた石造りの城のような構造物が隠されていた。
「……城?」
こんな場所に遺跡があるとは思いもしなかった。だが、今はそれを考えている余裕はない。彼らはすぐに城の中へと足を踏み入れた。
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しばらくの間、静寂が訪れた。
だが、それも長くは続かない。
洞窟の入り口に、無数の赤い光点が瞬く。カメラアイだ。そして、彼らを追い詰めるように、自立型兵器「Eraser」たちが次々と侵入してきた。
「ターゲット確認。抹消を実行。」
鋼鉄の身体を持つ兵士たちが一斉に武器を構えた。その瞬間、エリックはエリスを守るように立ちはだかる。
「エリス、先に行け!」
「そんなの無理!二人で戦うの!」
エリスは近くの武器棚に目を向け、そこに置かれていた一本の剣を手に取った。金属製の柄がずっしりと手に馴染み、刃には微かな光が宿っている。
「これなら……」
エリスは息を整え、敵の背後を狙うように静かに動いた。だが、次の瞬間——
「警告——敵意検知。」
センサーが即座に反応し、兵器が一斉に振り返った。エリスの動きを正確に捉え、すかさずレーザー砲が発射される。
「っ——!」
回避する間もなく、エリスの肩をかすめる光線が弾けた。衝撃で後方へと弾き飛ばされ、彼女は石畳に叩きつけられる。
「エリス!」
エリックが駆け寄ろうとするが、無慈悲な兵器たちは次の攻撃の準備を進めていた。
「くそっ……どうすれば……」
彼らの攻撃は正確無比。生半可な武器ではまるで歯が立たない。だが、そのとき——
エリックの目が、兵器の装甲のわずかな継ぎ目を捉えた。
「待て……あいつらの装甲の関節部分、光が少しだけ違う……」
彼はそれが弱点であることを確信する。
「エリス、あそこを狙うんだ!」
痛みをこらえながらエリスは剣を握り直し、震える足で立ち上がる。そして、意を決して突撃した。
兵器が再び攻撃を仕掛ける。しかし、エリックが囮となって注意を引きつけた隙に、エリスは刃を振りかざし、関節部分へと深く突き刺した。
「——ッ!」
機械の駆動音が急激に乱れ、兵器の動きが止まる。
「効いた……!」
エリスの剣が装甲の継ぎ目を貫いた瞬間、兵器の駆動音が乱れ、その巨体が揺らいだ。
「やった……!」
だが、安堵する暇はなかった。
「警告——戦闘パターン変更。」
兵器は即座に新たな戦術を採用した。崩れかけた個体を見限るように、他の機体が素早く動き出す。そして——
「エリス、危ない!」
エリックの叫びも間に合わず、鋼鉄の腕がエリスを捕らえた。圧倒的な力に抗う間もなく、彼女は宙へと引き上げられる。
「くっ……離せ!」
彼女はもがきながら剣を振るうが、敵の装甲には届かない。兵器の無機質な瞳が淡く輝き、処理命令を下す。
「ターゲット捕獲。排除プロトコルを実行。」
エリックの心臓が凍りつく。エリスが捕まったままでは、彼女を巻き込まずに攻撃することはできない。自立型兵器の赤いセンサーが不気味に光っている。金属の手がゆっくりと近づき、エリスの肩に触れた。彼は必死に策を巡らせる。だが、その間にも兵器の手から伸びた鋭利な刃がエリスへと迫る。
「エリス!!」
兵器たちが一瞬動きを止める。その隙を突き、エリスは渾身の力で敵の腕を蹴りつけた。バランスを崩した兵器がわずかに動いた瞬間、エリックは即座に跳びかかる。
「エリス、目を閉じろ!」
彼は手にした短剣を、兵器の関節部へと突き立てた。金属が軋み、火花が散る。そして——
エリスは重力に引かれるように地面へと落下した。
「くっ……」
エリックがすぐに駆け寄り、エリスを抱え起こす。
「無事か?」
「……なんとか。でも、あれは……?」
彼女の視線の先、城の奥から現れた光が、まるで意志を持つかのようにゆらめいていた。
「まさか……この城自体が、何かを隠してるのか?」
一方、兵器たちも異変を察知し、再び彼らへと照準を向ける。
時間はない——この戦いの鍵は、城の奥にある。
「行こう、エリス。」
二人は負傷した体を引きずりながら、光の差す方向へと駆け出した。
背後では、追撃の足音が響いていた——。