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恋の始まり

エリックは、地区オーディション会場を後にした後も、その結果に対する違和感を拭いきれずにいた。


「デザイナーベイビーのグループが勝った……」


何度もその言葉を反芻した。彼らは最適化されていない。だが、心を動かす力があった。


試験終了後、エリックは自然と会場の外にいた。冷たい風が頬を撫でる中、彼の目に飛び込んできたのは、寂しげな表情を浮かべた少女だった。彼女はどこか気になる存在だった。最適化された者たちがひしめく中で、どこか異質に見えるその彼女。


「君は……?」


エリックは思わず声をかけた。彼女は驚いたように顔を上げる。


「私? 私は……ただの落選者よ。」


その言葉には、どこか自嘲の色があった。彼女のアバターも、決して派手ではなかった。デザイナーベイビーのように洗練されたものでもなく、ナチュラルのように独自の個性を放つものでもない。むしろ、デザインとしては一般的であり、彼女が何故ここにいるのか、エリックは不思議に思った。


「でも、頑張っていたよね。」


エリックの言葉に、彼女は目を見開いた。


「見てたの?」


「……うん。」


彼女は照れたように微笑んだ。その笑顔は、今までエリックが見たどのデータよりも、どの最適化された感情表現よりも、鮮やかだった。


「私はエリス。」彼女は名乗った。「エリックは、どうして私に声をかけたの?」


エリックは言葉に詰まる。なぜなのか、自分でもはっきりとは分からなかった。ただ、彼女に強く惹かれた。それだけだった。


夜の街灯に照らされると、肩まで流れる淡い銀色の髪が微かな光を受けて滑らかに輝き、風にそよぐたびに星のようにきらめいた。彼女の瞳は深い琥珀色をしており、月明かりを映し出す湖のように透き通っていた。その目で見つめられると、エリックは自分の中の感情が微かに揺らぐのを感じた。


彼女の肌は白磁のように滑らかで、夜の冷たい風にほんのりと赤みを帯びていた。その頬のわずかな色づきすら、彼女の儚さと美しさを際立たせていた。


「……君のことを、もっと知りたいと思ったから。」


エリスは少し驚いたようだったが、やがて穏やかに微笑んだ。


「じゃあ、私の話をするね。」


「私の声や表現で、誰かを励ませるような存在になりたかった。でも、結局は何も残せなかった……。」


エリスの瞳がわずかに潤む。エリックは彼女の手を握った。その手は震えていた。


「まだ終わってないよ。」


「え?」


「オーディションに落ちても、そのような存在になれる方法はある。」


彼女の目が大きく見開かれる。


「一緒にやろう。僕は君を見ていた。君の表現には、本当に力があった。」


エリスは唇を噛んだ後、少しだけ笑った。


「……本当に、変わった人ね、エリックは。」


その日から、二人の挑戦が始まった。


デザイナーベイビーとして生まれながらも、完璧であることに疑問を抱き始めたエリックと、遺伝子レベルでは完璧だったにも関わらず、心の中で何か欠けていると感じていたエリス。


二人は共に自分の「完璧」でない部分を受け入れながら、新たな道を切り開いていこうと決意する。



エリックとエリスの絆がさらに強まった中で、エリックは自身の夢に向かって挑戦を続けていた。彼の夢は、世界中で認められる存在として、他の人々にインスピレーションを与えることだった。全国的なオーディションでデビューを果たすことも目標の一つだ。しかし、どれだけ努力しても、結果は思うように出なかった。


エリックは自信を持って挑んだが、リハーサルを重ねても納得のいく成果は出なかった。何度も何度も鏡の前でポーズを練習し、動きを調整し続ける中で、次第に心が折れていくのを感じた。


彼は自分が完璧な姿を作り上げられないことに苛立ち、焦り、そして無力感を感じていた。周囲からの期待が次々と彼にのしかかり、それがエリックの心に重くのしかかった。


そんなある夜、エリックは再びエリスのもとへ足を運んだ。エリスは彼の沈んだ顔を見て、何も言わずに彼を迎え入れた。


「また上手くいかなかったんだね?」とエリスが優しく言った。


「うん、何度も練習したけど、全然ダメだった。どんなに努力しても、思うようにいかない…」エリックは肩を落として座り込んだ。


エリスはその言葉に黙って耳を傾けた後、静かに言った。「でも、エリック君、失敗って必ずしも悪いことじゃないよ。」


「でも僕は…完璧じゃないとダメなんだ。」エリックは言いかけて、言葉を詰まらせた。


「完璧じゃなくても大丈夫だよ。」エリスは穏やかな微笑みを浮かべて言った。「あなたが完璧じゃなくても、私にはあなたが大切だし、あなたの成長を見守ってる。それに、失敗を重ねることで、次に進む力が湧いてくるんじゃないかな?」


その言葉に、エリックは少し驚いた。しかし、その温かな言葉が心に響き、少しずつ自分を受け入れられるようになった。完璧な姿を追い求めるあまり、彼は自分がどれほど成長してきたかを見失っていたのかもしれない。


「君がいるから、僕はまだ挑戦し続けられるんだ。」エリックは静かに言った。


エリスはにっこりと微笑み、エリックの手を握りしめた。「私はあなたが挑戦し続けることを応援してる。完璧な成果が出なくても、あなたのその努力が私には一番大切だよ。」


その日以来、エリックは失敗を恐れず、再び挑戦を続ける決意を固めた。エリスと共に歩む道のりは、必ずしもスムーズではないかもしれない。それでも、二人の支え合いがあれば、どんな困難も乗り越えられるという確信を持つようになった。

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