合格者
エリックは、試験会場の片隅で立ち止まり、息をのんだ。会場には彼と同じように完璧なデザイナーベイビーたちが集い、それぞれの最適な才能を駆使し、AI開発の最前線に立つための競争を繰り広げようとしていた。
だが、その日、試験会場に別の要素が加わった。
「なんで、お前たちばかり優遇されるんだ?」
その声は、ナチュラルの一人から発せられた。
デザイナーベイビーではない、自然に生まれた人間。彼らは、社会の底辺に押し込められ、最適化されていないという理由で多くの職業から締め出されていた。しかし、このオーディションは今後のの活動者を決めるもの。リアルな見た目や身体能力が不要であるはずの分野ですら、デザイナーベイビーたちが席を独占しようとしていた。
「僕たちに敵うと思っているのか?」
隣にいたアステリオスが静かに言った。その声は冷ややかで、まるで結果は決まっているかのような響きを持っていた。
しかし、ナチュラルたちは引かなかった。
「お前たちはただ、親が望んだとおりに作られた存在だろ? 俺たちには、自分で積み重ねたものがある。」
その瞬間、オーディションは戦場と化した。
適性を測る試験は、単なる技術審査ではなかった。高度なAIが審査員として配置され、候補者たちはアバターを通じたパフォーマンスを競い合う。デザイナーベイビーたちは、圧倒的な処理速度と知識量で観客を魅了し、AIを駆使したリアルタイムの表現力でナチュラルたちを押しのけようとした。
だが、ナチュラルの一人が異変を起こした。
「感情の揺らぎを、測れないだろ?」
彼の言葉とともに、デザイナーベイビーたちの演技に亀裂が生じた。彼らは完璧すぎた。滑らかすぎて、予測可能すぎた。
一方、ナチュラルたちは、時に言葉に詰まり、間違いを犯しながらも、人間らしい魅力を放っていた。彼らの言葉には、計算ではない本物の感情があった。
エリックは、その様子を目の当たりにして、心の中で何かが弾けるのを感じた。
「……僕たちは、何をしているんだ?」
彼らは確かに最適化された人間だった。だが、それが本当に人間としての価値を決めるものなのか?
AIが審査を終え、結果が発表された。
「このオーディションの合格者は……」
会場が静まり返る。
「デザイナーベイビーのグループです。」
ナチュラルたちの表情が凍りつく。
「……嘘だろ。感情が伝わったはずなのに。」
だが、AIは続けた。
「あなたたちの演技には確かに感情がありました。しかし、視聴者が求めているのは、感情の揺らぎではなく、洗練された表現でした。視聴者に最高のエンターテインメントを提供する存在であり、計算された完璧なパフォーマンスこそが最も高く評価されました。」
ナチュラルたちは悔しげに唇を噛んだ。
エリックは静かに立ち尽くしながら、勝利の余韻を感じていた。しかし、その内心には、奇妙な違和感が残っていた。
「僕たちが勝った……だけど、何かが違う。」
彼はこの勝利に、かすかな虚無感を覚えていた。