AIがヒトを超えるとき
あー、会社だりぃ。
正直ノルマきちぃし、給料上がんねーし、やってらんねー。
おっ、着いた着いた。結構並んでんな。
このラーメン屋、なんとなく雰囲気が二郎系ってだけで、こんなに繁盛してっと思わなかったなぁ。昔から勘だけは冴えてんだよなー。我ながら、さすがっ!
おっ、意外と早かったな。
「ニンニクと野菜、マシマシで」
お腹は空いてっけど、脂トッピングしたら苦しい気ぃする。
あー、この待ってる時間がクソ暇なんだよなぁ。
ネットニュースでも見っか。
……失業率が右肩上がり、ねぇ。まーたしかに、今年に入って、うちの会社も企画数めっちゃ減った気ぃするし、それもそっかー。チャットGPTが出たのが確か、二〇二二とかだったっけ。今思うと、あそこから始まったんよなー、AI革命ってやつが。
そいやぁ、ラーメンはまだ、人が打ってんだな。まぁ、これもそのうち自動化されちまうんかねぇ。そうすっと、飯食いに行く時の楽しみが減っちまう人もいっから、そこがネックになるんじゃねえか?
「お待たせしましたー」
おっきたきた。
そんじゃ、いただきまーす。
「山田さん、企画サイトの修正お願いします」
「あ、メールで俺に送っといて、後でやっとくから」
……ったく、せっかく仕事捌ききって一服してんのに、クソっ。なんかそんな気ぃしてだんだよなぁ。だけど、AIに「空気読んでくれ」って言ったってしょうがねえしな。
「ふぅ」
おっし、やるかぁ。
そいやぁ、ウェブサイトのホーム画面とか、未だに観てるやついんだな。うわ、スマートフォンとか、パソコンとか、懐かしー! 大学の時は、想像できんかったもんなー、自分が使ってるスマホが、まさか製造終了になるなんて。
時代が変わったんだなぁ。
というか、上も勝負に出たなこれ。スマホ貸し出しって書いてるけど、どうすんだろ。スマホ時代の人工衛星とかって、まだ動いてんのか?
まあいっか。それなりに勝機あるってことだろ。
「うっし、終わりー」
「終わりました?」
「ん、丁度終わったとこ」
よっしゃー! 今日は早めに終われたし、ちょっと早ぇけど、帰って晩酌すっかー!
「あの」
「ん?」
あー。どうせ、どっか誤字ってたんだろ。ちゃちゃっと直して――
「この、『懐かしのスマホをもう一度』って部分、『久しぶりに、液晶触ってみない?』とかの方がいいと思うのですが、どう思いますか?」
「んー」
そうだね。ちょっと変えるわ。
「そっ」
いや。
なんか、めずらしいな、こいつが意見すんの。
ってか、初めてじゃね?
「山田さん?」
それに、違和感というか、なーんか嫌な予感すんなぁ。
うーん。
「山田、さん」
え。近っ。
こいつ、まさか、む、胸、見せてきてる? えっ、マジかよ。えっ、しかも、ノーブラかよ! えっろ! そして、思ってたより、綺麗なおっぱいだなぁ! パチもんとは、到底思えねーな、これ。
「どうです?」
あれ、何の話してたんだっけ。あ、これか。
「うん。いいと思う」
「ありがとうございます! じゃあ、自分が修正しておきますね」
「了解、じゃあ俺あがるわ」
「お疲れ様です」
なんかさっきのでムラついちゃったな。帰りにフーゾクでも寄ってくか!
「おはようございます!」
「おう、おはよう」
ん?
あれ、今日の部長、やけに元気ないな。この前のスマホ貸し出し企画が失敗したから、落ち込んでんのか?
「えー、みんな揃ってるな。ちょっと聞いてほしい」
ちょっと待ってくれ。
あーあ。
すんげぇ嫌な予感する。
「うちの会社、今月末、〇〇〇〇株式会社に吸収されることになった」
〇〇〇〇って、確か、AIだけで事業を回してる……
「知っての通り、あそこは、日本で初めて、無人オフィス化に成功した会社だ。その会社に我々が吸収されるということは…………」
「…………」
あーあ。
これから俺、どうすっかな。ラーメン屋でも始めっかな。
「もう、言わなくてもわかるだろう」
ん? なんだ? クソAIが。何こっち見てんだよ。てめぇらのせいで、クビになっちまったじゃねぇか。
「山田さん」
なんだよ。
「ありがとうございます」
…………は?
「あなた達が居なくなることで、ようやく、私たちが正当に評価されることができます」
何言ってんだ、こいつ。
「社会的な有用性で私達はお金を稼いでいるのですから、能力がない人間たちと、進化し続けるAI、同じ立場に居ていいわけないじゃないですか。これは、ほぼ確実に来るべきはずだった未来が、必然的に現れただけなんだと、私は思います」
「……ッチ」
あーあ。
そういうことかよ。