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【完結】薔薇の王子、幸運の翼  作者: 黒井ここあ
第三章 勇気、凛々として

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26、〈ギフト〉は真昼の星(1)

 不規則に揺れる大地を不安に思いながら、グレイズは〈ビュロウ〉にて殿(しんがり)を務めていた。

 レイフに連れられて〈ビュロウ〉に集められた村人たちも、〈花の都〉(カル・ナ・ブラーナ)に骨を埋めるのだと言っていたけれど、地震が始まるやいなや、身を寄せて神に慈悲を請いはじめた。

 セルゲイがここにいれば、鮮やかな手のひら返しにあきれかえりそうなところだ。

 グレイズは、無理も無いと憐れんだ。災難について、大概の人間は、実際に己に降りかからなければ想像がつかないものなのだ。そう、グレイズはよく知っていた。

 人々が身を寄せ合っているところへ偵察に出ていたキールヴェクとレイフが戻ってきた。


「状況は?」


「逃げよう!」


 グレイズが問うのと、ずぶ濡れのキールヴェクが言うのは同時だった。


「エウリッグが、ドラゴンの死体みたいなのと戦ってくれてる」


 若い娘たちと共にいたマルティータが息を飲んだ。


「そんな! エウリッグだって弱っていますのよ!」


「でも、神様同士の戦いだよ、お姫様。おいらたちには何もできない。嵐がきたときみたく、じっと我慢するか、逃げるしかできない」


 魔術師はマントを脱いでしずくを払った。

 そしてそれを、赤子を抱くグウィネヴィアの上にかけてやっていた。


「そろそろ〈海豹女(セルキィ)〉号が一度戻るはずだよね。雨をやり過ごすにしても、ここよりずっとマシだと思う」


「わかった。私たちは引き上げよう。セルゲイとユラムは?」


「それが……」


 レイフが引き上げた二つ目のゴーグルの下、露わになった灰色の瞳が悔しげに歪んでいた。

 遍歴学生は、手にしていた望遠鏡で見た一部始終を王子に語って聞かせてくれた。

 魔剣で怪物となったクリフォードと戦うエウリッグ、海賊の男と何やら言い争う中で負傷したセルゲイ、彼をかばい海賊との熾烈な一騎打ちをするユラムなど、まるで地獄絵図だ。


「そんな……」


 グレイズは頭が真っ白になった。

 レイフが言った通りならば、セルゲイは海賊に殺されてしまった。

 しかも、何度も何度も全身をめった刺しにされて。

 心臓が、鷲掴みにされたようだ。

 よろめいた王子を、妻が支えてくれる。彼女の身体の温かさが、現実を物語る。

 まだ話したいことがあった。馬術も、剣術も教えて欲しかった。

 どんなエールがおいしいのかも聞いていない。夜遊びだって話に聞いただけだ。

 パブで聴かせてくれたあの素晴らしいリュート歌曲の弾き語りもまだまだ聴き足りない。

 それに、あの時は茶化したが、彼にも恋人がいたかもしれない。


「セルゲイ……!」


 まだ、友だちらしいことを何もしていない。そんな場違いなことばかりが頭をよぎる。


「グレイズ。まだ望みはあるわ」


 しっかりとしたアルトが、王子の耳に届いた。グウィネヴィアだ。


「聞こえる。ユーリが言っている。騎士はまだ生きている。いつまでもつかはわからない。けれど、ユーリの血を彼に飲ませてあげれば助かるかもしれない」


「本当か!」


 グレイズは顎を上げた。


「身体に合えばいいのだけれど」


 グレイズが急ぎ駆けだそうとするのを、マルティータが全身で止めた。


「お待ちになって!」


 王子が焦りに振り向くと、二人の姫君が彼を見つめていた。


「炎のように熱く煮えたぎる勇気、それが、あなたの〈ギフト〉だったのですね」


「マルー?」


 グレイズは突然違う話題が飛び出したのに、驚いた。

 王子と公女は〈ギフト〉を持たぬ非才同士として孤独を分けあい、愛しあうに至った。

 確かに、そのはずだった。だが、思い当たる節もある。

 叔母の神子姫ミゼリア・ミュデリアは、二人の〈ギフト〉に言及したことがなかった。

 あんなにも二人を追い詰め、苦しめていたものなのに。


「わたくしにも、〈ギフト〉があったように、あなたにもおありでした。誰もわからなかったのよ。おわかりになりますか? ペローラに来てから、あなたの心に灯が灯ったのを。あなたの炎はずっと、誰にも――あなた自身にも見えない、心という大地の下で燃え続けていらっしゃったんだわ」


 王太子妃の言葉に、学者がすかさず反応する。


「言い得て妙だ。ここも火山性の島だし、ペローラの島々に鉱物の名前がついているのも納得だし、すぐ地下にマグマがあるに違いない! そうだよね?」


 グウィネヴィアが頷く。


「ええ。このあたりは火に愛された地域なのよ」


 グレイズは彼を拘束している細く白い両腕をやんわりとほどいた。


「つまり、どうすればいい?」


「あなたの心でこの島の燭台に火をお付けになって。蝋燭から蝋燭へ炎を移すように」


「そんなことができるのだろうか」


 マルティータの銀の瞳がグレイズを貫く。


「信じておりますわ」

ここまで読んで下さりありがとうございます。更新を待たずに最後まで読める書籍版はコミックマーケット107でもゲットできます。幻想文学の黒井吟遊堂は2025年12月31日コミックマーケット107二日目【西1ホールむ08a】の配置。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。


次の更新は二日後ぐらいだと思います。手動更新。アラートおすすめ。

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