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第5章 37 子どもたち

 飴を皆で回し食べ、たまたま見つけたトンボや小魚を生のままかじり、泥水を衣の切れ端で漉して飲みながら、丸三日かけて平野を抜けた。木々がうっそうと繁った山の中に入ると、今度は急な坂をひいひいあえぎながら登る。

 大きな葉の木やシダの茂みをかわしながら、不気味な山道をひたすら進む。鳥の声が騒がしい。英和の腹が大きく鳴った。彼は鳥の丸焼きが大好物だった。

 知っている果実を見つけたそばからもいで口に放り込み、空腹を満たす。千暖は固まりかけの樹液から虫を追い払い、木肌からはがして舐めてみた。渋くてとても味わえるもんじゃない。

 ほどなくして、ほどよく開けた野原を見つけ、誰からともなくへたり込んだ。何日もまともに休んでおらず、体が限界だった。拓は、独と名づけた子どもを地面に下ろし、あっという間に眠りに落ちた。

 他の子どもたちも、思いっきりあくびをして、各々ましな居心地を見つけてくつろいだ。交代で見張りを立てようと藤が提案したが、誰もやりたがらない。

 が、どこからともなく野獣の絶叫が聞こえ、一同浮き足だった。

「山猫かしら?」

「狼かも」

「いいえ、きっと虎よ!」

 ロンテが叫び、英和が銃に弾を込めた。しかしその時、野原を取り囲む木々の上からいくつもの人影が落ちてきた。そして、あっという間に聖歌隊に槍の穂先を突きつけた。

 緑の変わった衣をまとった、見知らぬ人々だ。ロンテはまず、彼らが華僑ではないらしいことに安堵した。しかし、敵意をみなぎらせた彼らの顔を見ても、とても華僑より簡単だとは思えない。

 翠瑠の鼻先を、鈍く光る槍の刃がつついた。ひっと息を呑む翠瑠を見て、相対する背の低い少年が笑った。意地の悪い笑みだった。

 ロンテは胸を張って彼らを見つめた。彼女と向き合う中年の男が、仲間たちに何事か命じた。すると彼らは槍を下げたが、子どもたちの動向を厳しく見張っている。

 ロンテは深呼吸した。

「あなたたちの森に勝手に入り込んで、ごめんなさい。敵対するつもりは全くありません。私たちは、ここからずっと南の社から来ました。……戦から逃れるために」

 男は少しだけ目線を動かした。ロンテをはじめとして、ここに来たのはぼろぼろの格好をした子どもばかりだ。中には、四歳程度の幼子もいる。

 ロンテは祈った。彼らを説得できますように。訓先生のように、真心を相手に届く話し方ができますように__。

「私たちの話を、聞いて下さいますか?」

 頭目と思しき男の後ろから、大きなお腹を抱えた女が現れた。彼女が聖歌隊を見る目はちょっぴり優しい。胸に灯った希望を勇気に変えて、ロンテは、聖歌隊の仲間たちは、自分たちの物語を語り始めた。



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