第5章 34(集合)
「志毅が来ない」
夕方、ロンテが苛々と足を踏み鳴らす。子どもを抱っこした拓がそれをなだめた。
「まあまあ、もう少し待とうぜ」
「いや、その必要はない」
随龍が冷たく言い放った。「来ない者は放っておけ。君たちだけでついてくるんだ」
不満を訴えるロンテたちだが、商人たちにせっつかれると従わざるを得ない。
通されたのは、豪奢な華僑の屋敷だ。ロンテは随龍たちと共に訪れたらしい。女子と男子で部屋を分けられ、まず夕食を出された。見たことないほど豪勢な料理だった。
食事が終わると、女子は風呂に入れられた。体の垢を落とし、少女たちの上気した顔に、召使いたちが白粉をはたいた。唇には鮮やかな紅を引いた。どぎついほどの化粧だが、後で様子を見に来た随龍は納得したようにうなずいた。
「明日の朝、出発だ」
そう言い渡された女子たちは、顔を見合わせた。
「どこへ行くんです?」
「今に分かる」
随龍は口の端を吊り上げた。ロンテが黙って冷ややかに彼を見つめた。
一方の男子二人は、何をしていたか?
庭園の離れ小屋で鉄砲を一丁ずつ渡され、戸惑いながら商人の話を聞いていた。
「お前は体格が良いから、一段と火力が強いそっちの銃を使え」
と、拓に。
「そっちのお前は、ひょろいから軽いものを」
と、英和。
「これで何をするんです?」
「何でもだ。商品の調達に、お頭の警護に、面倒な奴の始末もな」
二人はごくりと唾を呑む。
「それって……」
「今まで面倒見てやった恩を忘れるなよ……」
その時、拓の後ろから、小さな子が顔をのぞかせた。商人が即座に見とがめた。
「西洋人の顔はよく分からん。男か、女か?」
「えーっと……さあ……」
商人が子どもの着ているぼろを掴んだ。慌てて拓がその手をとめる。
「まあ、いい。物好きに売れば多少は金になるだろうて」
思わず身震いした英和に、商人が小さな袋を握らせた。
「怖いなら、これを吸え。たちどころに元気になる……」
彼が去った後で、二人はすとんと腰を下ろした。拓の膝の上に、子どもが乗ってくる。




