表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/132

第5章 24(子どもたち 2)

「この煙草は、西洋から取り寄せた一級品でな。香りが段違いだ」

「いくらするんですか?」

「まあ、越南銀を三十枚ってところだな。一箱で」

「うわ、すごい」

 感心する英和を随龍が笑う。

「そんなに高値でもない、我々にとってはね。順化か嘉定に来れば半日で稼げる額だ」

 こっそり聞いていたロンテが溜息をついた。

「どれ、吸ってみるか?」

 随龍が英和に差し出したのは、小さな絹の袋だった。指でいじると、さらさらと音がした。

「それも、西洋の煙草ですか?」

「いいや、煙草じゃない。もっと強烈に効くものさ」

 こうして吸うんだよ……と手ぶりで説明する。つられてロンテや翠瑠も身を乗り出した。

「この粉を、鼻からゆっくり吸い込む。すると、まるで楽園に昇ったような心持ちになるのさ」

「楽園?」ロンテが声を上げた。「本当に?」

「ああ。イギリスという国で大流行の逸品だ。越南でもいずれは広めようと思っているの

さ。__おっと! 今は一人分しかないものでね。英和くんだけ特別に試してみるがいい」

「いいんですか?」

 袋に向かって伸ばされた英和の手を、横からそっと掴む者がいる。千暖である。

「煙草もいいけど……そろそろ出発した方がいいんじゃない?」

 その言葉で、子どもたちははっと立ち上がった。英和も素直に手をひっこめる。ただ一人随龍だけは、鼻白んだ顔で溜息と共に煙を吐き出した。

 一ヶ月余りかけて、商隊は順化に辿り着いた。その間、拓が顔の傷から入った毒で体調を崩し、志毅と英和が彼の両肩を支えながら進んだ。

 当然歩みは遅くなる。随龍の部下が主人に文句を言った。

「ガキどものせいで、進行が遅くなる。置いていけませんか?」

「まあそう言うな」

 一人馬に乗っている随龍は、愉快げに笑ってとりなした。

「子どもでも、何かと役に立つ。順化についてから、今までの迷惑を取り返せばいい」

「あの山猿が、何の役に立つんで?」

「いろいろさ。手駒は多い方がいい。せいぜい懐かせておかねばな……」

 実際、随龍は聖歌隊に対して親切に振る舞ってみせた。高熱にうなされる拓に、清の薬を飲ませてやったし、熱の下がった拓がまだふらついているのを見ると、何と自分の馬に乗せてやった。初めは脂ぎった男たちを恐れていた翠瑠や由迦の警戒もほどけていった。

 ただ、商人と子どもたちの仲がひどく険悪になった時があった。志毅や千暖が荷物の中を覗こうとしたのだ。この時ばかりは随龍も血相を変えて怒鳴り散らした。間に挟まった無関係の子どもたちが心底震え上がるほどに。

「情けで同行させてやっていることを忘れるな」

 と、華僑は言った。身の危険を感じた子どもたちはひたすら謝り、千暖と志毅は男たちからの嫌みを一身に引き受けた。 

 だが、惨めな時間とはしばしおさらばだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
随龍……! この人、アヘン扱ってるのか!!!!!! 武器だけじゃなかったんですね。 子供にアヘン……うさんくさい人だなあとは思っていましたが、まさか子供にアヘンまで。 アヘンはだめで、戦争に加担させる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ