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第5章 23

 訓に明一人が会いに行ったのは、出発の直前だった。ぼんやりとピエトロの墓の前で槍を磨いていた訓は、明に気がつくと力なく手を挙げた。

 真正面から見ると、訓の目元もほのかに赤かった。この何週間かで彼は随分と老けた。くすんだ顔の肌に、深い皺が刻み込まれていた。

 昨夜のような怒りはもう明にはなかった。訓が何かを言う前に、明は一方的に宣言した。

「嘉定に着いた後は、華さんと一緒にフランスに渡ります」

 訓の反応を窺ったが、さしたる動揺も見せずに彼は聞いている。感情が抜けてしまったのではないかと不安になった。

「フランスで、華さんを幸せにするつもりです」

 訓はあっさりとうなずいた。

「君も華さんも、ずっと心穏やかに過ごせるように祈っているよ」

 昨夜以来、華と訓は顔を合わせていない。ここに華を呼ぼうか提案したい衝動に駆られた。だが、それが双方にとってどんなに酷か分からないほど明は愚かではなかった。

 それでも、言葉を重ねずにはいられなかった。

「華さんに__」

 訓は、明の言葉の途中で首を振った。

「ありがとう。だが、これ以上何も言うことはない」

 明は頭を下げた。別れた後で、訓が目を片手で覆ってうつむいているのが視界に入った。



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