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第5章 20

真っ暗になった視界に脈絡もなく現れたのは、幼い頃の記憶だった。どうして今になって思い出すのだろう。とっくの昔にフランスに帰国した宣教師が幼い訓を囲んで笑っている。慌てて目を開くと、華がいる。嫌な記憶を振り払うために訓は華の首筋に口をつけた。華がぞっとするほど艶めかしい声を漏らした。


 声変わりもしない少年と同じ高さの声が、再び訓の記憶を呼び起こす。甲高い男児の悲鳴が辺りに響き、すぐに途絶えた夜。助けを求めた少年は口を塞がれた絶望に涙を流していた。


 訓は華から顔を離した。目を閉じていた華がいぶかしんで目を開ける。何でもないと笑い、訓は華を地面に敷いた衣の上に仰向けに寝かせた。


 華は訓を待っている。顔を近づけると、彼女の瞳に自分が映っているのが見える。西洋人そっくりな自分が。


 父親も__アドラン司教も、こうして訓の母親と交わったのだろうか。不意に訓の頭をこの問いが支配した。裸になって、若い女を獣のように押し倒して。その時、父親は何を考えていた? どうして、そんな行為が平気で出来た?


 だって、性交は司祭のタブーなのに。神に仕えるための約束を、父親は老齢にさしかかってから破ったのだ。肖像画で見たような太った体で? 今の自分のように? 他の司祭や見習いには貞潔清貧を説いておきながら?


 神が見ていると信じているのならば、何故誓いを破れるのだ。フランスでは守っていた貞潔を、大南でなら破っていいと何故思った?


 __それは、現地人の女を見下しているからではないのか。同じ人間ではなく、はけ口にするための人形だと思っていたのではないのか。あの宣教師と同じように。訓の父親への嫉妬と恨み、悪魔に憑かれたような欲情を子どもだった訓に向け、同じような仲間を集めて獣のように襲いかかったあの司祭どものように!


 猛烈な吐き気が訓を襲った。訓は両手で口を塞ぎ、必死に衝動をこらえた。華が不安げに訓を見つめている。

「訓さん……?」


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