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第5章 18

 訓の側にいるのは、華だけだった。ランプをかかげ、彼女の顔を照らす。いつもと変わらない笑顔がそこにあることに安堵した。

「嘉定に出発するのは?」

「明日の昼ですよ」

「華さんも行ってしまうんだな」

 思わず漏れた独り言のような弱音に、訓自身が驚いた。一緒にいてほしいと言うつもりはなかった。ただ、自分を包む強烈な寂寥への悲鳴が口から溢れただけだ。


 皆、訓の側からいなくなってしまう。最初に父親、そして訓を司祭に預けてさっさと実家に帰ってしまったらしい母親。英路、秀、他の子どもたち、華……


 華がそっと訓の肩にもたれた。照らし出された彼女の瞳は輝いているように見えた。

「……もう休みましょう。疲れていらっしゃるでしょう?」

「そうだな」

 寄り添って歩いていると、ほんのりと体が温かくなっていくような気がした。

 兵士が雑魚寝している家に戻ろうと訓は思っていたが、まだ人の姿も見えない木々の間で華が立ち止まった。何の前触れもない。

 訓は戸惑う。

「華さん……?」

 具合が悪くなったのか。華は顔を右手で覆い、左手はそのまま訓の肩に預けていた。

「どうかしたのか?」

 華は口を開かない。ただ、ふらっと訓の胸元にもたれかかった。

 訓は思わず華の背中に手を回し、その場にしゃがみ込んだ。まさか、実はひどい怪我をしているんじゃないだろうな。怪しむ訓に身をさらに寄せ、華は浅い呼吸を繰り返す。

 体が密着していると、彼女の鼓動がよく感じ取れた。早い。ただ自分の脈もうるさいほどに体の中から叩いていた。

「華さん」

 もう一度呼びかける。華はようやく、顔を上げた。互いの距離があまりに近いことに訓は驚く。


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