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第5章 11


 一方、文懐はひたすら宮廷軍の兵士を相手にしていた。時には二、三人でかかってくる兵士たち。若いのがいれば、老年にさしかかったと思しき男も混ざっている。水の鎧は、刀で振り払うとあっさり雲散霧消した。


 熱い。気づけば汗だくになっていた。一人一人は文懐の敵にすらならない。だが、連続して襲いかかってくる相手を休みなくたたき伏せているといつかは限界がくる。


 火をつける役目を担った部下が、こっそりと文懐の様子を見守っている。文懐が合図をすれば、いつでも爆発を起こすことができる。だが文懐はまだまだその時を引き延ばす。


 あと少し、もうちょっと。少しでも敵をここに集めたい。どうせ教会を壊してしまうのならば、できるだけ大きな見返りが欲しい。キリスト教徒である兵士のためにも。


 若い兵士が撃った弾が、文懐の頬をかすめた。お返しにこっちも一発撃ってやった。足下に転がっていた敗北者が呻きながら起き上がろうとするので、蹴り倒した。


 燈の叫び声が耳に飛び込んできた。

「もうよろしいでしょう!」

 文懐は思わずうなずく。だが少し不満だった。まだ自分は戦える。もっと敵を引きつけられる。

 もっと大物をこの場で殺せたら、いうことないのに。例えば、王姉妹とか__

 文懐の体が動かなくなった。周りも一瞬動きを止めて、それから我に返ってまた近づいてくる。

 しかし文懐はそれに備えることができない。手も足も首から上も、まるで石像になったようにかちんと固まっている。

 これは、何だ。思考ばかりが高速で回転する。体が悲鳴を上げているのか。それとも、敵の仕業か。左手から鉄砲がすり抜けて落下した。

 家来が呼んでいる。敵の兵士が、まさに刀を振り下ろさんとしている。だが、文懐は何も応えることができない。

 横から誰かが体当たりした。文懐は胴にしがみつく何者かと共に、教会の壁に激突した。痛みで一瞬気が遠くなる。体を持ち上げられ、窓から外に放り投げられた。

 燈の絶叫がした。文懐の代わりに点火係に命令したのだ。一瞬光が弾け、火柱と共に轟音が森を揺るがした。

「文懐様……!」

 文懐はようやく首を動かし、自分を救った者の正体を知った。汗と血まみれの双だった。

「お前か……」

「ご無事で……何よりです」

 双は動揺のあまり涙を浮かべていた。それを見ている内に冷静さを取り戻す。

「爆破は成功したようだな……?」

 駆け寄ってきた別の家来が、興奮して成果を告げた。こちら側の者は無事に直前で脱出した。教会に集まっていた宮廷軍の兵士たちはほとんどが爆発に巻き込まれ、死んだかひどい傷を負った。味方の歓声が上がる。

「さっきは死を覚悟したよ」

 息を吐いた文懐の体を、再び硬直が襲った。双や燈が驚いて文懐を抱え上げる。怪我人のようにして救護所に運ばれるのが少し悔しかった。


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