第5章 10
「黎文懐は教会にいるぞ!」
誰が発したかも分からない叫び声に導かれ、碧翅と紅翅は兵を教会に集中させた。頭目を討ち取れば反乱はもうほとんど鎮圧したも同然だ。多くの兵士がそう確信して突き進んでいる。
反乱者たちの死体を踏み、姉妹も兵士たちの後を追う。
紅翅が碧翅を仰ぎ叫んだ。
「私たちの手で首を取ってしまいたいわね! あと一つ手柄を立てれば、私たちはもう自由の身よ!」
碧翅にだって分かっている。だからこそ、あまりにできすぎた話だと警戒してしまう。
「落ち着きなさい。罠かもしれない」
「碧姉様は慎重過ぎるわ」
「だって、おかしいと思わない?」
妹の鎧に指を引っかけ、強引に足をとめさせた。
「大将のいる場所がばらされたというのに、反乱軍の兵士が近くにいなさ過ぎる。普通は黎文懐を守るために、なんとしても私たちを食い止めようとするでしょう」
「それだけ人望がないんじゃ?」
頭上から甲高い声が響いた。
「黎文懐を殺せ! 奴は教会だ! 南に真っ直ぐ進め!」
その時碧翅は確信した。
「やっぱり罠だわ。木の上にいるのは向こうの連中。理由もなく文懐の居場所を触れ回るはずがない!」
碧翅は並走する部下に命じた。
「兵士たちを呼び戻しなさい。嫌な予感がする。殊更に今文懐の首を狙う必要はない」
「おっと、それはさせない!」
樹上から落ちてきた椰子の実が、部下の頭に命中した。気絶する大男。見上げるとほんの子どものような少年が笑っていた。
「アンヌの仕返しだ。僕が相手になる!」
碧翅と紅翅は刀を構えた。子ども相手でも容赦はしない。
「望むところよ。来なさい、坊や」
少年は短刀を手に飛び降りた。女だと思って舐めているのなら、後悔するがいい。碧翅が先に刀を振り上げた。




