第5章 5
捕虜を奪還したことを褒めて貰えるかななんて甘い考えは、訓や司祭たちの表情を見た瞬間に消え去った。その上文懐とその家臣まで遠巻きに様子を女窺っている。
四人は連行される囚人のように、とぼとぼと森の中を歩いた。落とし穴の場所を訓が淡々と知らせた。前を行く大人の歩き方を真似すれば間違いはないが、ぼうっとしていたイザベルが一度だけ穴に落ちかけた。横を固める司祭がぶつくさ文句を言いながら引っ張り上げてくれる。穴の底に竹を削った杭が何本も立っていることに気がついてイザベルはおののいた。
食料庫代わりの民家の前で、四人は横一列に座らされた。その前に仁王立ちするのは訓だ。
家の中から、セシリアを初めとする聖歌隊の残りの子どもたちが出てきた。イザベルたちを見てほんの一瞬彼女たちの顔は輝いたが、訓の苦虫をかみつぶしたような表情に気がついてすぐにうつむいた。
訓と華が何故敵の陣営に踏み込んだのか、四人はすぐに知ることになった。セシリアたちからアンヌ奪還の計画を聞き出した訓は、文懐たちを強引に説き伏せて後を追ったのだ。アンヌやイザベルたちを返してもらう取引をするために。交換条件として用意していたのは、フランス政府にマルシャンが送った書簡の写しだった。勿論偽物だ。筆の速い司祭に数字や名前をごまかした書簡を書いてもらい、判も押さずに懐に入れて出向いたのだという。
華を連れて行ったおかげで、子どもたちの奪還は随分と容易になった。しかし、鉄砲の訓練を一時中断したり、子どもたちを案じた文懐が森の入り口付近まで出てきて状況を注視したりで、戦の準備を停滞させたことには変わりがない。
そうしたことを話す訓は終始険しい顔だった。聖歌隊の無鉄砲さがいかに軍全体に迷惑をかけたか、容赦なく責め立ててついには翠瑠を泣かしてしまった。
セシリアもさすがにうなだれていたが、涙を拭う翠瑠に尚追い打ちをかける訓にとうとう反撃した。
「確かに馬鹿なことしたってのは認めます。私が一番に言い出したんだから、私だけを責めて下さい。頑張った翠瑠を罵るのはおかしくないですか?」
「頑張った? その認識がそもそもよくない。俺たちに任せていれば、翠瑠を危険な目に遭わせることも、何より敵をいたずらに刺激することもなかった!」
訓が怒鳴る。
「ただ皆に迷惑をかけただけじゃないか。子どもでも反乱に参加するのはまだいい。アンヌが仙人にさらわれたのも、事故だと思えば仕方がない。だが、その後のお前らの行動は全て間違っていた! 何故一言でも相談しなかった? そんなに我々大人が信用できないか? そんな兵士は軍には要らん!」
こほんと空咳が聞こえ、注目がそちらに流れた。高文司祭だ。
「それは、まさに少し前の君に我々が言いたかったことじゃよ、坊や」
他の司祭もうなずいている。訓が少し気まずそうに口をつぐんだ。厳しい先生が坊や呼ばわりされたことに子どもたちは笑いを噛み殺した。
高文が珍しく前に出て提案する。
「これを機に、子どもを危険な任務につかせるのは控えた方がいいかもしれませぬ。ですがたった三人で敵陣営に乗り込んだジャンたちの肝の太さは賞賛に値すると思いませんか?」
文懐もうなずいた。風向きが変わったことを子どもたちは敏感に察した。
「相談しなかったのはまずいが、その勇敢さは兵士として合格点だ。四人は後で私のところにおいで」
ジャンたちは顔を見合わせた。
「褒められるのかな?」
「まさか。敵にどんな人がいたか、報告させられるんじゃない」
イザベルの推測が当たっていた。文懐に同じことを聞かれ、真っ先に口に出したのはあの双子の武将のことだった。




