第5章 4
入り口に立っていたのは、背の高い兵士だった。
「さっきから話を聞いていれば……天幕を破壊するだの、逃げるだの……」
兵士は怒り、剣の刃を四人に突きつけた。
「やはり、ただの投降者ではなかったのだな。死ね!」
兵士が剣を振り上げる。狭い天幕の中を逃げ惑う子どもたち。しかし、とうとう翠瑠がつまづいて転んだ。嬉々として刃を振り下ろそうとする兵士の間にアンヌとイザベルが立ちはだかる。ジャンは兵士の後ろに回って思い切り鎧を引っ張った。
「ぎゃっ」
兵士が姿勢を崩した隙に、アンヌとイザベルが飛びかかって剣を奪った。しかし兵士の力も強い。ジャンとイザベルを押さえ、それぞれ片手で喉元を締めつけた。
剣を握って後じさりするアンヌに向かって兵士はゆっくりと言った。
「仲間をくびり殺されたくなければ、剣を返せ」
「返しても、どうせ私たちを殺すでしょう!」
「さて、どうかな?」
兵士はイザベルの首に力を込めた。息が出来なくなり、彼女の顔がみるみる白くなっていく。
これだけの騒ぎだ。すぐに応援の兵士が来てしまうだろう。判断する時間は一瞬しかない。翠瑠を庇いながらアンヌは剣を持って兵士の前に進んだ。
兵士がにんまりと笑う。「良い子だ。そのまま来い。妙な気を起こすなよ……」
ジャンが息絶え絶えに叫ぶ。
「駄目だ! 渡したら……」
「分かってる。でも、このままだとイザベルとジャンが死んじゃう!」
「おれたちのことなんて……」
「そんなこと絶対に言わないで!」
アンヌは兵士を睨みつけながら叫んだ。今度こそ、勇敢にならせて。失敗を、早く取り返したいの。
イザベルを苦しめる兵士の手が、少しだけ緩んだ。その瞬間をアンヌは逃さなかった。
兵士の顔に、刃を横から叩きつけた。
顔を切り裂かれた兵士が濁流のような悲鳴を上げた。血が目一杯噴き出して、地面とアンヌたちに降りかかる。きっと外にも気づかれてしまった。
拘束から逃れたジャンが、のたうち回る兵士を押さえつけた。震える手で兵士の顔から剣を抜いたアンヌをイザベルが抱きしめた。
「アンヌ……」
「ぶ、無事でよかった、イザベルさん」
「ごめん。ありがとう。アンヌのおかげ」
それは違う。視界を遮る血を拭いながらもアンヌは自覚している。私のおかげじゃない。私のせいだ。知らないこの男が傷ついたのも、今四人が今まさに危機の中にあることも。
銃声がすぐ近くで轟いた。勢いよく入り口の布をめくり上げたのは、訓だった。
「アンヌ! イザベル、ジャン、翠瑠! 逃げるぞ!」
「は、はいっ」
珍しく焦っている訓の胸元から、一通の書簡が覗いている。だが質問している時間はない。天幕を飛び出して、辺りを包囲されていることに気がついた。
華が鉄砲を撃っているおかげで、周りの兵士たちはかかってはこない。しかし、このままではいつか追い詰められてしまう。
「爆薬を持ってきたそうだな? 今も手元にあるか」
「はい!」
ジャンが爆薬の袋を訓に渡した。訓はつけ木を擦って火を灯し、袋の中に入れた。
「先生!」
訓が袋の中身を周囲に兵士の前にぶちまけると同時に、激しい音と共に火が弾けて地面を吹き飛ばした。
「今の内だ!」
訓の指示で四人は走った。華もすぐに追いついてくる。鉄砲を抱えたまま、爆弾を点火しては後ろに投げ、追っ手や砲手を妨害してくれた。
森の中に逃げ込んで、子どもたちはその場にへたり込んだ。
だが、次の試練はもう始まっているのである。
「さて、お前たち」
訓が口を開いた。その低い声を聞いた途端、聖歌隊の三人は震え上がった。これまでにないくらい訓が激怒しているとすぐに分かったからだ。
クレティアンテの司祭たちも集まってくる。どれだけ話が大きくなっていたのか。セシリアたちをつい恨んだ。
訓がゆっくりと、抑えた口調で尋ねる。
「どうしてこんな馬鹿な真似をしたんだろうな?」




