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第4章 16

「兵糧が盗まれた?」

 顔をしかめて文懐は鋭く聞き返す。

「どこのどいつだ、狼を操るなんて」

「嘉定にそうした輩はいませんか」

「聞いたこともないな。ひょっとすると、シャムの妖術使いかもしれん」

 腕を組んで考え込む文懐の前には、疲労困憊した様子の少年が座り込んでいた。空の茶碗を地面に置いて、大きく呼吸している。

 この子が使者か。訓はそう察した。文懐が斬り捨てた宦官の首を宮廷に届けたと噂だ。よく生きて戻ってこられたものだ。

「踏んだり蹴ったりですね」

 燈__明の父親が呟く。

「言うな。士気が下がる」

「この上さらに何かあったのですか?」

 訓が尋ねると、文懐はゆっくりとうなずいた。

「こいつ、使者の福がだな、しばらく順化に留まって宮廷の動向を探ってくれた。宮廷は俺たちの挑発に見事に乗ってくれたそうだよ。だが……」

 燈が渋い顔を作る。年下の文懐の無鉄砲さを嘆いているように見えなくもなかった。

「宮廷は、反乱討伐のために二将軍を大軍と共に派遣したらしい」

「二将軍!?」

 訓より先に後ろの子どもたちが大げさに反応してみせた。

「お前ら、何か知っているのか?」

「いいえ、全く」

 ミゲルがけろりとして答える。

「ただ驚いてみせただけ」

「こういう時だけ声を揃えやがって。普段の練習でももっと集中しろ」

 咳払いが聞こえた。燈が顔をしかめている横で、文懐は笑いをこらえているようだ。

「二将軍はな、皇帝直轄の最強武官だ。本当は四将軍とまとめて呼ばれている。精鋭部隊と驚異の強さを備えた順化の番犬さ」

「四将軍のうち二人は、北圻で起きた農文雲の反乱にかり出されている。そこで残りの二人が南圻にあてられたという訳なのだ」

「どんな人たちなんですか?」

「こら! 文懐様になれなれしい口を……」

「訓、落ち着けよ。俺がそんなことで怒る人間かね」

 文懐はセシリアに笑いかけた。彼女の顔が赤くなる。

「我々が立ち向かわねばならないのは、大龍将軍と、王姉妹だ。大龍はとてつもない大男で、龍の生まれ変わりを称する戦の達人。王姉妹は珍しい女の将軍で、しかも一つの冠を姉妹で分け合っている。並大抵の男より遙かに戦略に長けた名将と専らの噂だよ」

「女の人なんだ……」

 子どもたちは驚いている。訓は思わず、華が二人に分裂して銃を撃ち放しながら襲いかかってくる様子を想像した。

「つまり我々は、想定よりも遙かに少ない武器と兵糧で強敵と戦わねばならないのさ。武者震いしてしまうね」

「笑い事ではありませぬ……」

「落ち着け、燈。誰だろうが撃退するのみだ。何なら俺が指揮を撮ろう」

「いやいや、大将として下がっていただかないと……」

 燈と文懐の関係が何となく見えてきた。

「兵士たちには警戒態勢をとらせろ。女子どもは社で守り、兵糧の管理を任せるのだ。無駄に進むよりも、この森に囲まれた社で迎え撃つ方がいい」

「森に火を放たれたら?」

「水源の場所と避難経路を確認させておけ。森を拠点とはしても、いつでも離れられるように。旅支度をしておけばいいかもしれんな」

「御意」

 休んでいた福が立ち上がり、駆けだした。

「待て待て、どこに行く?」

「皆にご命令を伝えてきます」

「お前はもっと休め。回復したら禁軍どもの見張りをさせたいのだ。通常の伝令なら……」

「私たちがやります!」

 セシリアが元気よく手を挙げた。

「任せた。さあ行け、訓の弟子たち」

「はい!」

 文懐は子どものあしらいも上手かった。



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