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第4章 11

 文懐が刀についた血糊を拭き取り、集まる社の住人に向き直った。捕虜を中心に円を描く住人たちに向かい、若き大公は声を張った。


「善良なるキリスト教徒よ、そして一部の異教徒たちよ。到着早々あなた方の地を汚してしまいすまなかった。我々は決してあなた方の生活を脅かすためにやってきたのではない。キリスト教徒と、それ以外の者が共存できる、今の生活を守るためにきたのだ!」


 今、生きて聞いている者の中で異教徒の数はとても少ない。何故なら、既に数十人の異教徒を文懐たちが殺してしまったからだ。歓声を上げるキリスト教徒の中で、不安に身を縮めている者が数人いる。


「かつて、大南の地のキリスト教徒は何度も危険に晒されてきた。黎朝下の禁教令、鄭氏の弾圧、西山阮氏の反乱による戦禍がそうだ。しかしその度に信仰を守るために立ち上がった英雄がいた!」


 文懐はぐるりと人々を見渡した。


「分かるか? 阮朝の世祖、嘉隆帝陛下のことだ。陛下はかつて賢明なる西洋人司祭と手を結び、悪逆非道なる西山阮氏を打倒した。その時にキリスト教徒が大きな助けとなったため、阮朝が続く限りキリスト教は保護される約束だったはずだ。

 それなのに! 嘉隆帝陛下の息子、明命帝はキリスト教徒を無意味に厭い、大南を再び暗黒に戻そうとしている。彼はキリスト教徒が憎いのだ。穏やかで善良なるキリスト教徒が、いつか自分の帝国を乗っ取るのではないかと妄想にとりつかれているのだ! 彼の周囲にいるのは、腐りきった宦官や隣国清からの使者どもだ。外国人を締め出そうとしておきながら、自分たちは清の悪徳役人どもと密接な関係を築いている。

 清の人間が我々に何をもたらしてくれる? 貿易を行う華僑は、その大半が二、三世代前から大南周辺に移住してきた者たちだ。彼らは生きていくのに不可欠な食料や、海の向こうの珍品を売ってくれる。だが、清の役人が未だかつて大南の民に利してくれたことがあっただろうか? それどころか、残忍な北の軍隊を引き連れて我らが大南の地を何度も蹂躙したではないか! 

 明命帝は、西洋人、キリスト教徒を敵と呼んだ。今年に入ってまもなく、ただ穏やかに暮らしているあなたたちを脅かす法令を発した(明命暦14年の禁教令)。だが自分はどうだ? 清の輩と結託して、大南が滅びる道を歩もうとしている。私にはそれがよく分かる!」


 若い娘たちが顔を赤くして囁き合っている。かっこいいわ。


 訓も舌を巻いていた。ここまで整然とした演説をしたのはこの社が初めてだった。嘉定に近い村落ほど文懐軍に協力的であったから、人々を説得する必要がなかった。


「明命帝は、必ず反乱軍を叩き潰そうと魔の手を伸ばしてくるだろう。だが、我々は、決して負けない。その理由は明らかだ。

 我々には道理がある。大南が進もうとしている間違った道を正すという強い望みは、誰にも通じるものである。今は反乱に否定的な者であっても、心を尽くして大義を示せば必ずや仲間に加わるだろう。

 そして、我々は、力強い味方がいる。まず天におわす神、そして神に仕えるあなた方司祭たち、それに数多の異国がついている。かつての嘉隆帝のように、西洋と条約を結び、シャムに派兵を要求し、華僑から武器を購入すれば、閉鎖的な宮廷軍など決して敵ではない」


 文懐が訓の方を向いた。軽くうなずいて、文懐は手招きした。


「訓、おいで」


 高文やピエトロがぎょっとして訓を見つめた。何とも決まりの悪い思いをしながら、訓はゆっくり歩いていった。


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