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第4章 4

「わたしも城に行きたいっ!」

「駄目だ!」

 朝早くから訓と翠瑠が怒鳴りあっている。訓はろくに寝ていないところに翠瑠が我が儘をこねたので苛立ちを募らせている。翠瑠は翠瑠で、訓が兄様に会わせてくれないのが悔しい。

「どうして、翠瑠をいつも置いていくの!? 邪魔なんてしない! 昨日だって沢山お手伝いできたのよ!」

「危険なんだと言ったろう! 剣を振り回す乱暴な男たちがうようよしているところについてくるだなんて、正気じゃない!」

「だって、兄様に早く会いたいもん!」

「大人しく待っていれば会わせてやる……!」

 咄嗟に言い切ってしまった後で訓は激しく後悔した。翠瑠への腹立ちと同じ速さで自己嫌悪が積もっていく。

「先生のわからずや! 妖怪!」

「もういっぺん言ってみろ! その生意気な口をひっぱたいて……」

「騒々しいな! 一体何事です!」

 折良く更に機嫌の悪い明が現れ、子どもじみた喧嘩は中断された。

「皆がゆっくり休めないじゃありませんか!」

「す……すまない」

「ごめんなさい」

 頭を下げる翠瑠を見て、明は少し表情を和らげた。彼はもうきちんと着替えている。

「今から俺は城に行く」

「ああ、そうでしたね。ご同行しましょう」

「すまんな」

「わたしも!」

「駄目だと言ったろ!」

「落ち着いてください。翠瑠ちゃん、確かに城内にまだ子どもは入れないよ。大公様に禁止されているからね。見つかったら怖~い牢屋に入れられちゃうよ」

「……それはいや」

「じゃあ、華さんと大人しく待っていてね」

 翠瑠はうなずいたが、訓にはあかんべをしてみせた。

屋敷を出てから、訓は明にささやく。

「助かった。どうしても聞かなくてね」

「それはいいんですけど。まだ真実を言っていないんですね?」

「……ああ。まだ、ふんぎりがつかなくてな」

「辛いことを承知で言いますが、どんなに待っても英路はもう戻ってきませんよ」

「分かっているよ」

「それに、ぼやぼやしていると埋葬されてしまいます。あの子に最後のお別れくらいさせてあげた方がいいと僕は想うのですが」

「……そうだな……」

 それっきり、明も何も言わない。最後に判断するのは訓だからだ。ずるずると秘密を抱え込むか、思い切って翠瑠を悲しませるか。

 二人とも、こっそり後をつけてくる小さな影には気がつかない。


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