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第6章 16
象の鼻が後ろから伸びてきて、訓と翠瑠を巻き取った。
背中に放り投げられた訓たちをつかんで引き寄せる者がいる。背中に乗った、見知らぬ少年である。変わった衣をきて、耳や首に金の飾りをいくつもつけていた。
別の象に乗った志毅が叫ぶ。
「帰るぞ!」
象はゆっくりと動き始めた。兵士が射かけた矢も、象の皮膚は貫けない。
刑場を離れようとしている。しかし大切な人がそこに残されたままである。
「高文司祭!」
遠くなりつつある柱の側に倒れた高文と、早々に逃げ出したマルシャン。兵士たちの格好の的だ。高文が危ない。
訓は叫んだ。高文を起こすために。頭に浮かんだ最初の呼び名を繰り返した。
「父さん!!」
その時、象の歩みが止まった。志毅がひらりと飛び降り、柱のところへ走って戻った。高文を抱き上げ、また駆けてくる。
二人を乗せると、象は再び歩き出した。翠瑠が笑っている。しかし彼女は同時に泣いていた。ぼろぼろと涙を流しながら、嬉しそうに新しい仲間の少年を紹介した。
翠瑠の話を聞いているうちに訓は意識を失った。
 




