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第6章 14

 訓の右胸に、刃が差し込まれた。

 じわりじわりと、血と共に痛みが増していく。ゆっくりと刃を動かし、執行人が肉片を切り取った。

 刃が離れた時、訓は思わず悲鳴を上げた。のたうち回りたいくらい耐え難い痛みが訓を苛む。観客が、執行人の手際に歓声を送る。

 耐えてみせよう、堂々としていようという決意は早々にどこか遠くに消え去った。

 続いて、左胸に容赦なく刃が当てられた。もうやめてくれ。ひと思いに刺してくれ。訓の切実な思いとは裏腹に、執行人は粛々と作業を進めていく。

 まだ序盤の序盤だということが信じられない。三度目の入刀で訓はとうとう、恥も信仰もかなぐり捨てて泣きながら懇願した。執行人が呆れた顔で首を振り、群衆がどっと訓の意気地のなさを罵った。

 凌遅刑は、千回も罪人の体を切り刻むという。けれど、絶命するのは相当後のことだ。気絶しかけた訓の傷に役人が塩を塗り込んだ。痛みが倍増し、訓は絶叫した。

「助けてくれ」

 必死の哀願を執行人は嘲笑い、内腿に刃を当てた。訓は身をよじり、めちゃくちゃに暴れたが、頑丈な縄の結び目は決して解ける気配を見せない。

「見苦しいぞ!」

 聞こえた声は同僚のような気がした。そんなことはもうどうでもいい。誰でもいいから、俺を殺してくれ。その後に地獄に連れていかれるのでもいい。もう許してくれ。

 あまりに訓が暴れるものだから、体を縄でさらに柱に固定された。縄がぎりぎりと胸の傷を締めつけ、余計に訓を苦しめる。

 激痛で目を開けていられなくなり、鼓膜を支配しているのは自分の悲鳴だった。いっそ狂ってしまえればいい。何も分からなくなることで、どんなに救われることか。

 

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