第6章 5
訓を入れた檻は馬車に固定され、順化への道のりを進み始めた。凹凸のある道を無理に通り抜ける度に馬車は大きく揺れ、終始気分が悪い。一週間ほどかかる旅の中で訓の世話をしたのは、驚いたことに翠瑠と英路の両親だった。彼らの顔を見るのは実に二年ぶりだ。翠瑠の面影がある母親と、英路が年を取ったような父親が檻の側にぴったりとくっついていた。
彼らが世話人兼見張りを買って出た理由はすぐに分かった。彼らは訓を深く恨んでいた。囚われの身の訓を絶えず罵り、嬲り者にすることで子どもの復讐をしているようだった。訓が一言も反応しないことに気がつくと、食事の器をわざと檻の中でぶちまけ、腐っていく飯から漂うひどい臭いを嘲った。二日経ってとうとう空腹に耐えきれなくなった訓は、皆が見ている前でカビの生えた飯を這いつくばって飲み込んだ。その夜腹痛を必死に訴えても、檻から出ることは許されなかった。
順化に入城してから、訓は一度だけ檻から出され、着替えさせられた。新しく用意されていた衣は、囚人を表す濃い青色である。ずたずたの汚れた黒い衣をはぎ取られた時、これ以上更に何かを失ったような虚無感を覚えた。
着替えの前に、公衆井戸の前で体を洗われた。宮廷への面子を気にした王姉妹が、体をきれいにする時間をとろうと主張したらしい。すっかり垢じみた裸体を古い軽石でこすられ、素肌に血が滲む。思わず呻くと、処刑の時はこんな痛みじゃないぞと笑われた。
南からはるばる運ばれた反乱の首謀者は、都の人間にとって随分面白い見世物だったらしい。小さな子どもたちの一団が訓に向かって石を投げる。巻き添えを食らいたくない翠瑠の父母は、しばらくの間傍を離れ、訓を衆目のど真ん中に置き去りにした。彼らが戻ってきた時、訓の額は大きく腫れ上がっていた。悪ふざけを止めようとする大人は一人もいなかった。
訓が顔を上げ、群がる民衆を少しでも見渡していれば、気がついたかもしれない。数少ない悲しみの表情を浮かべた者たちに。そしてさらにその中に、よく見知った顔があることに。
しかし、今の彼にそのような心の余裕はない。ただ早く時間が過ぎてくれと願い、地面に突っ伏して誰にも顔を見せまいとすることで精一杯である。




