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第5章 47

 明命十五年(西暦1835年)五月一日、王碧翅・大龍軍の兵士が近隣の住民を反乱軍に荷担したとして虐殺した。その事件をきっかけとして、再び大規模な戦闘が始まった。生き延びた住民は復讐のため進んで反乱に加わった。

 森を焼けという大龍の主張に碧翅は反対した。

「妹が手紙をよこしました。何もかも燃やしてしまっては、首謀者を捕らえられない。我々がよしというまで皆殺しは待てと」

「黎文懐を生け捕りにするのだな」

「それも、太利殿が計画していらっしゃるのでしょう。私たちは言われた通りに動くだけですわ」

 しかし、大龍が突然、胸を押さえてうずくまった。予期していたことではあった。

 協定を破られた文懐が激怒し、大龍の心臓たる宝玉を粉々に砕いたのだ。仙人が文懐の魂を縛ったが、一度割れた命は戻らない。凄まじい声で呻く大龍を碧翅が支えた。

「王将軍、これを受け取れ」

 絶え絶えの息の下から大龍は碧翅に言った。渡されたのは、陶器でできた小さな龍だっった。手の平で包み込めるほどの小ささなのに、精緻な細工が全身に施されている。

「我が龍の……血を受け継ぐものだ……都の地中深くに埋めてくれ」

 碧翅は大龍の意図が分からず、黙ったまま聞いている。

「いつの日か、この国がまた脅かされた時、この龍は目覚めるだろう」

 その言葉を最後に大龍は動かなくなった。しばらく時間が経つと、大龍は碧翅の目の前で大きな蛇に変わった。傍らにいつもいた仙人はいつの間にか姿を消していた。

 大龍の復讐を果たすつもりなのか、文懐を苦しめるために仙人が森を暴れ回る。獣の群れが通り過ぎた後のように木がなぎ倒され、人々が下敷きになる。川や井戸の水が干上がっていく。しかし、反乱軍の狙撃手が仙人の眉間を鉄砲で撃ち抜くと、術は自然に解けた。仙人の正体は大きなむじなだった。我々は獣に振り回されていたのかと文懐は複雑な気分になった。


 仙人を仕留めた狙撃手はフランス人であった。だから、ロンテと同様に仙術など歯牙にもかけなかったのだ。宮廷軍の将軍碧翅のみで、彼女は残された大軍を一人で指揮しなければならなくなった。



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