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第5章 45


 肌寒い雨上がりの朝、訓は一人で森の中にいた。

 

 丈の長い草が地面を覆う豊かな森の中で、訓のいる一画だけが茶色い土肌をむき出している。訓が置いた不自然に白い大きな石は、月日が経ってもこけ一つその身に纏わない。石の側にひっそりと隠れたロザリオが、宝石のような雨粒を散りばめて健気に地面に直立している。

 訓はそのロザリオを取り上げ、そっと拭いた。彼の努力のおかげで、ロザリオはまだ錆びる気配を見せない。

「……昨夜、由迦たちが夢に出てきたんだ」

 訓が独り言を囁く。誰も聞く者はいない。まだ夜も明けきっていない早朝である。

「あいつら、今頃どこで何をしているんだろうなあ……」

 訓には決して知り得ない。我が子のように愛した子どもたちが今も健やかでいるのか。そもそも、何人が生き延びたのか。

「秀、英路……。もう、二年が経ったよ」

 ロザリオを元の場所へ戻すと、訓は溜息をついた。二年! 英路の死から始まった悪夢のような日々が、二年も続いている。

「それなのに、まだ俺には分からない。神が我々をどう導こうと思っておられるのか……」

 両手を組もうとして、訓は面食らった。神に祈りを捧げる時、最初に何を言えばいいんだったか? 手の組み方は? 何を訴えようとしていた?

 遙か高い空の上を、鳶の長い声が飛んでいった。だんだん小さくなっていくその鳴き声に聞き入るうちに、訓は祈りを忘れて秀の墓の前で呆けていた。


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