第5章 41
森の中に常駐する兵士たちのために、文懐は嘉定から大量の食糧を運ばせた。新たに支配地域を広げたカンボジア南部から徴発した米や、海に浮かぶ小島から安く買いつけた魚や貝を手当たり次第に干して保存食にした。
クレティアンテの人家のほとんどは戦で壊され、あるいは解体して燃料や武器に変わっていたので、兵士たちが木を切り出して新しい家を建てた。
反乱軍の中に留まっていた十五歳以下の子どもは、嘉定やその近隣の社に避難した。子どもの犠牲を増やしたくないのは文懐もその部下たちも同意見だったのだ。
余裕が生まれた人々は、木をすいてできた空き地に畑を作った。戦が長丁場になることを見越し、日持ちの良い野菜や穀物を植えた。戦に明け暮れていた時よりも皆の顔が和らいで見えた。
しかしその中で、訓は一人だけまだ戦いを続けている。決して負けてはならない重圧を背負った戦いを、ひっそりと激しく、昼夜に渡って繰り広げている。
__文懐が大龍の玉を託したのは、訓だった。
「この玉が相手方に奪還されたら、停戦はおしまいだ。大龍が復讐心をみなぎらせて襲いかかってくるぞ」
そう重々しく念を押しながら、無造作に玉を訓へと放る。
「玉をなんとしても守り抜け。ほしい武器や助っ人はいくらでも用意してやる」
「何故私なのですか?」
「これをとってきたのはお前だ。__きっと狙われるだろうが、信じているぞ」
司祭たちの刺のある視線を肌に感じながら、訓は玉を布に包んで懐にしまった。
きっと狙われる__文懐の予想は正しかった。訓はそれから、何度も死の危機から脱出することになる。




