序章
俺はあの時、ただ立っていた。
青く澄んだ綺麗な空が、少しずつ灰色に、黒色に、そして火の粉を撒き散らしながら、汚れていく。
一瞬、とても大きな音がしたが、その後は何も聞こえない、何も見えない。何も感じない。
目は開いているはずなのに、まるで目を瞑っているような感覚だった。
少しずつ視界が開けてきて、目の前に大きな穴ができたのが見えた。
その穴はとても大きく、向こう岸がぎりぎり目視で見える程だった。
こんな大きな穴を間近で見たのは初めてで、俺は奥深く、底が暗くて何も見えない穴を自然と見下ろしていた。
これは明らかに以上だった。でもなぜか驚きや恐怖を感じなかった。
それは昨日から修学旅行で日光に来ていて、普段体験しないことを感じて日常から遠ざかったからだろうか。
ついさっきまで目の前で堂々と凛々しく建ち、いつの時代だか忘れたが、その時代の独特の雰囲気を醸し出していた神社は、一瞬にしてなくなった。
そしてさっきまで、修学旅行というイベントの雰囲気に当てられたのか、異様にテンション高く盛り上がっていたクラスメート数人も、同じく一瞬にしていなくなった。
穴をよく見てみると、それは陥没したのではなく、何かを噴出したような感じだった。
だが、水が噴き出したり、ましてやマグマが溶け出してくるような気配はなく、なぜか少し安心した。
「……」
次の瞬間、何か穴の底から昇ってくるのが見えた。
それは水でもマグマでも、ましてや人ではなく、なんとも言えないものだった。
揺らめきながら、淡く輝いたり、黒くくすんだり、手に取れそうもなく、まるで生きた積乱雲のようだった。
「人の心?」
俺がそう口にした時、それは俺の目の前まで上がってきて止まった。
それを見た時、綺麗だと、悲しいと、美しいと、妬ましいと、嬉しいと思った。
なぜそう感じたのか、自分でもよくわからなくて、理由を考えているときには涙が出ていた。
「……!」
その瞬間、なぜかそれが優しい人のように感じた。決してそれは人の形はしていないし、何かされたわけでもないのに、これはとても優しいものだとわかった。
そしてそれはゆっくりと近づき、何かを伝える人の心のように優しく俺の胸の中に収まった。
これがすべての始まり。この世界の真実の始まりだった。