29 隣国の公爵夫妻
ミーナ様のお姉さまからお返事が来た。
すごく嬉しかったようで、ぴょんぴょんと跳ね回っている。
「これからもお姉さまって呼んでいいって!
姉妹だから当たり前よ、ですって!」
刺繍の入ったハンカチが一緒に入っていたそうだ。
見せてもらったが、可愛らしい花とリボンの刺繍だった。
すごい上手。
もしや、すごい淑女なのでは?
あんな節穴王子にはもったいないかもしれん。
「ねえ、セリーヌ、お姉さまが子供のころに読んだ本を教えてくれたの。
こちらの図書館にあるかしら?」
「探してみましょうか?」
う~ん、と考えたミーナ様。
「セリーヌは今から生徒会ではなくて?大丈夫、私自分で探してみるわ」
何という成長!
みたか、節穴王子!
マリアンヌ様達が一緒に行ってくださるということで、ミーナ様は図書館へ、私もそちらに行きたいが、悪魔からは生徒会の手伝いに戻るように言われてしまった。
「ミーナリア嬢は見張らなくても大丈夫なくらい成長したんだよな?」
むちゃくちゃ良い笑顔で言われたら、反論のしようがない・・・。
生徒会室に行くと、節穴、じゃなかった、ギルバート王子が暗い顔をしている。
またなんかしたのか?
面倒ごとしか持ってこんのか、こいつは・・・。
「セリ、来週にミーナリア嬢の両親が来る」
げ、あの馬鹿親か!
何しに来るんだ?
「リリーシャに手紙を書いただろ?公爵夫妻にはなかっただろう?
その話が公爵夫妻にも伝わってしまって、手紙を書けない状況なのかもしれないから、様子を見に来たいとごねられてしまって・・・」
ごねられてしまってって・・・、弱腰だね。
節穴に弱腰、器の小さい、心のあだ名がどんどん増えるな、残念王子よ。
「それはミーナリア様には?」
「まだ伝えていない」
はよ教えたれよ。
「その、公爵夫妻の学園の接待をお願いしたいと・・・」
だ~れ~に~?
まさか・・・悪魔がニヤッとしてうなずいた。
いやいやいや、他国の公爵夫妻だよ?
自国の公爵夫妻だっていやなのに、なんでだよ。
目の前が真っ暗になる。
何か粗相をしたら、今度こそ本当に処刑?
「セリ、そう怯えなくていい。学園でのミーナリア嬢の様子と、少しの時間お茶をしてもらうだけだから」
もらうだけって・・・え~~、簡単に言うなよ。
むう
「マリアンヌ嬢たちに手伝ってもらうといい」
仕方ない、マリアンヌ様達にお願いすると、喜んで手伝ってくれることになった。
ミーナリア様はちょっと顔をこわばらせている。
甘やかすだけの親たちだからな、今のミーナ様を見たら何を言い出すかわからんし。
「セリーヌ様、大丈夫よ。私達がご一緒しますから」
にっこり。
女神たちが肩に手を置いて励ましてくれる。
なんて心強い。
拝んどこう。
ミーナ様も真似して拝んでいる。
ぷぷぷっ。
皆で笑ってしまった。
本日はとうとう公爵夫妻の到着だ。
サロンに案内してもらうことにしてある。
バーンといきなり扉があいた。
「ミーナちゃ~~~~~ン、パパですよぉおお」
うわ、強烈。
ちょっと薄いオジサマと、後ろから引き留めようとしているミーナ様の面影のあるオバサマ。
「みーなちゃ~~ん、パパがきたよぉ、どこにいるんだい?」
目の前に居るだろうが!!
かの国には節穴しかおらんのか?
「お父様、お母様・・・」
ミーナ様が声をかけると、驚いて目を見開く。
「ミーナ・・・ちゃん・・・?」
「はい、お久しぶりです」
「その恰好は?」
ふふっと笑って、ミーナ様はくるりと回った。
「お父様たちに会うので、お友達と一緒に考えました。似合いますか?」
「・・・」
「ミーナちゃん、その、話し方が・・・」
「ふふっ、これも教えていただきましたの。私、もう幼い子供ではありませんから」
「・・・」
公爵夫妻は言葉もないようだ。
なんか言えよ。
「まあ・・・」
公爵夫人がフルフルしている。
「そうだ、可愛いミーナちゃんがなんだか地味になってしまって・・・
しゃべり方も!それでは王子殿下の心を射止められないではないか!」
はぁ?何言いだすんだ、うっすらおやじ。
マリアンヌ様達からも怒りのオーラが出ているが、隣国の公爵、黙るしかない。
「どういうことだ。可愛いミーナちゃんが不自由のないように、王子の婚約者になれるようにとエシャール国にまで留学させたというのに」
ミーナ様は大きな目に涙をこらえている。
実の父親が、自分の事が分からず、頑張った成果に駄目出しまでされたのだ。
怒りが湧いてきて、殴ろう、と決意を固め、一歩前に出ようとしたところ、
ガツンと音がした。
うずくまる公爵・・・の後ろには扇を振り下ろした公爵夫人?
怒っている。ものすごーく怒っている。
「な、何するんだ「だまらっしゃい!!」」
またしても扇で殴る。
あの扇・・・普通じゃない音がするんだけど?
「皆さま、お騒がせいたしましたわ、お恥ずかしいところを」
ほほほ、と扇で顔を隠して公爵夫人が軽く頭を下げる。
「ギルバート殿下、少しだけミーナと、娘と3人で話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「え?あ、あぁ」
「ありがとうございます。それでは失礼して」
公爵夫人は公爵の襟首をつかむとサロンの隅に移動していく。
「ミーナ?」
「あ、はい」
ミーナ様もあわててついていく。
クロード様がその他の皆を別の部屋に移動させた。
ギルバート殿下も落ち着かない様子だ。
しばらくして、カイト様が来た。
様子見のため、カイト様だけはサロンに残っていたのだ。
「ギルバート殿下、アレクセイ殿下、お越しいただけますか?セリも」
何故私も?
ついでにクロード様とウェステリアの1名も付き添いについてきた。
サロンに行くと、がっくりとうなだれている公爵と、にっこり笑う公爵夫人、
ミーナ様も笑っている。
「エシャール第2王子殿下、ギルバード殿下、大変失礼いたしました」
公爵夫人がカーテシーをする。
「あぁ、よい。それで、何があった?公爵?」
「こほん、失礼ながら、私からご説明いたします」
公爵夫人が話始めた。
確かに自国にいる際は、ミーナリアを溺愛していた。
夫人の目にはミーナリアがいつまでも幼児のままのイメージだったのだ。
だから、着飾ったり化粧も派手にして、可愛がっていたつもりだった、と。
さらに、夫である公爵が娘のために、義娘の婚約者を交代させようとしたことも疑問に思っていなかったと。
勉強や努力が嫌いな娘は、王宮で暮らすのが幸せだと思っていたこと。
義娘は賢く美しいので、公爵家を継いでも縁談は来ると思っていたこと。
ある日、義娘からお茶の誘いがあり、王宮に行くと手紙を見せてくれたそうだ。
それを見た夫人は、義娘からミーナリアは今周囲に恵まれ、人として、令嬢として成長しているから、見守ってあげてほしいとお願いされたそうだ。
実際にミーナリア様に会った瞬間、その言葉がすんなり心に落ちた、と語った。
「わたくし、お茶会の後、この人にもちゃんと伝えましたのよ?
それなのに、可愛い娘には王子の嫁になるのが一番楽だ、などと・・・。
娘が楽しそうにお友達と一緒に選んだと、その笑顔を見ればわかりますでしょうに、この人は・・」
公爵がますますうなだれる。
「ギルバート殿下、私たちが間違っておりました。今までの事、謝罪いたします」
あれ、今、公爵夫人のドレスが揺らめいてなかった?
「ぐうっ」
公爵が痛そうに顔をしかめてる。
「その・・・、申し訳・・ありませんでした」
公爵も頭を下げた。
そっか、公爵夫人はちゃんと見てくれてたんだ。
よかったね、ミーナ様。
そのまま、サロンに他の人たちも戻り、無事にお茶会を済ませられた。
ミーナ様は始終嬉しそうに公爵夫人と話している。
それをうらやましそうに見ている公爵。
ぷぷぷっ。
ミーナリア様はそのままこちらで留学を続けられることになった。
公爵夫妻とギルバート殿下たちは一緒に帰国することになった。
公爵が改心すれば、婚約者様への脅威もなくなる。
「ミーナ、楽しくね」
「はい、お母様、お手紙書きますね」
「みーなちゃ・・・いや、ミーナ、父にも手紙を・・・」
手を伸ばす公爵の手をぴしゃりとたたく公爵夫人。
「気が向いたらでいいわよ」
だそうで、ぷぷぷぷぷぅ。
嵐のようでした。
薄いのは頭です。




