その出逢いは必然
作者自己満足作品なので細かい事は気にしないで頂けると幸いです。
現代日本、トウキョウ。
人口約1万4千人を誇るこの大都市には様々な人間が存在し、日々の生活を過ごしている。大多数の人間は光のあたる…所謂真っ当な暮らしを送って居るだろう。だが、光があれば当然闇に生きる人間というものも存在している。
そして俺、浅野春兎は今、そんな闇に生きる人間に追い詰められ、人生の選択を迫られている。
〜〜〜
「浅野、もう逃げられ無いぞ?今度こそお友達の代わりに払うもん払うか、大人しく海に沈むか選ぶんだな。」
「クッソ…やっぱり保証人になんかサインするんじゃ無かった…!!」
俺は心の中で新しく事業を建ち上げたいから保証人になってくれと言い、その後音信不通になった元・友人の宇佐美に呪いの言葉を吐きつつ、逃げ場が無いか辺りを見回す。
狭い路地裏、後は行き止まり、目の前には黒スーツの男達、脇を潜り抜けるのは不可能、壁際に打ち捨てられたデッキブラシ……
「…行けるか?」
「何ブツブツ言ってやがる!とっとと決めねーなら今すぐぶっ殺してやる!」
先頭にいた一際ガタイの良い大男が叫ぶと同時にこちらに拳を叩き込もうと踏み出してきた。
「行くしか…ないっ!!」
それを寸前で避けつつも、壁際のデッキブラシ目掛けて跳ぶ。
視界の端、ブォンという音と共に空に突き出された拳の背後では、他の黒スーツ達が各々の武器片手に攻撃態勢に入るのが見えた。
バシーンッ!グハッ!!
間一髪、2撃目の拳を手に掴んだデッキブラシで受け流し、喉元に柄を叩き込む。
そのまま後ろにのけぞった大男の鳩尾を踏台代わりに蹴り飛ばしつつ、後ろに居る銃を構えた男の腕目掛けてデッキブラシを叩きつけた。
「痛ってぇっ!!」
「何しやがんだクソガキがっ!!」
「大人しく死ねっ!!」
思わぬ反撃に驚いたのか、口々に罵詈雑言を叫びだす黒スーツ達目掛けて踏み込む。同時に、横一閃にデッキブラシを薙ぎ払い黒スーツ達の武器を叩き落として行く。
ついでに俺をクソガキと呼んだ奴には急所への強烈な一撃もお見舞いしてやった。
「失礼な奴め、俺は今年で30だ。…ガキじゃ無い。」
黒スーツは全部で4人、残る2人も手早く片付けて、ついでに右の奴が携えている日本刀を奪って逃げよう。
そんな事を考えつつデッキブラシを構える。
「コイツ…調子に乗りやがって!」
「殺せっ!!!」
黒スーツが先程叩き落としたナイフを素早く拾いこちらに振りかぶる。が、
「遅ぇっ!!」
首筋目掛けて振り抜いたデッキブラシによって難なく沈める。
後は1人。
日本刀を大きく振り上げた男の懐に飛び込み、その剣戟をかわし胴体に渾身の回し蹴りを叩き込む。
男が怯んだ隙を逃さず、そのままアッパーカットでトドメをさす。
ドサッ
カランカラン…
倒れた男の手から落ちた日本刀の音を最後に、先程まで怒号が飛び交っていた路地は静寂に包まれる。
狭い路地には黒スーツの男達が倒れ、各々が持っていた武器も転がっている。
手に持っていたデッキブラシを放り投げ、とりあえず日本刀を頂いて、ついでに拳銃は隠しておくかと辺りを見回して見て気がついた。
倒れた男は3人、拳銃は見当たらない。
しまった、と気づいた時にはもう遅かった。
ゴリッ
後頭部に冷たく硬い金属を押し当てられる感触と共に背後から声がする。
「クソガキが…よくもやってくれたな。覚悟は出来てんだろうな?」
「いやいや、覚悟も何も、そちらがいきなり殴りかかってきたんじゃ無いっすか…」
「恨むなら雲隠れしたお友達を恨むんだな。」
「いや、もう友達でもなんでも無いんで。」
絶対絶命。
流石にゼロ距離射撃はかわす事が出来ない。
なんでこんな事になってしまったのか…昨日までは何の変哲もない日常を繰り返していた筈なのに。
なす術なしと悟り両目を閉じる。
こんな事になるなら駅前の新作デザート、並んででも食べとくべきだったなぁ。
パンッ
乾いた発砲音が響く。
…ついに人生の終幕か。
ドサッ
続けて誰かが倒れた音。
…俺が倒れた音か?
コツッコツッコツッ
近づいてくる足音。
…痛みはまだ無い。
「…えっ?」
恐る恐る瞼を持ち上げれば、瞳を閉じる前と変わらぬ景色が広がっている。
俺も変わらず両脚を地面につけて立っている。
そっと、後ろを振り返れば足元には先程俺に拳銃を突き付けていたであろう男が1人、血を流して転がっている。
そして倒れた男を挟んで正面には見知らぬ女が1人、先程見た物とは違うかなり古そうなリボルバー式の拳銃を器用に手の中で回している。
「えっ…と、何処の何方か存じませんが、助けてくれたんですかね?ありがとうございます…?」
とりあえず礼を言うと、真っ白なスーツを身に纏った銀髪の…よく見ると少し幼い印象を残した女は不思議そうに首を傾げた。
「別に助けたつもりはないんだけど?」
「でも、実際俺はこうして生きてるので助かりました。」
「そう。…そんな事より貴方、凄いのね?こちら側の人間でも無いのに、そんな棒切れ一方で武器を持った相手を倒しちゃうなんて。探したかいがあってよかったわ。」
「え…?み、見てたんですか?」
「ええ、一部始終、貴方がぴょんぴょん飛び跳ねながら敵を倒してく様をバッチリと。」
…最初から見てたなら、もっと早く助けてくれればよかったのに。
とは、心の中だけに押しとどめつつ目の前で楽しそうに笑う女を観察する。
白スーツに型落ちリボルバー、真っ赤な靴に銀糸の様な髪、明るく輝く双眸は獲物を狙う肉食獣の様に鋭く黄緑色を携えている。
「ねぇ、浅野春兎さん?ひとつ提案があるんだけれど。」
先程の発言からして偶然助けてくれた訳では無さそうだ。
探したかいがあった、こちら側の人間、ずっと見ていた。
勿論、元々顔見知りだった訳でも無い初対面の筈だ。
なのに俺の名前を知っている。
…嫌な、予感がした。
得体の知れない悪寒が背筋を這いあがってくる様な、肉食獣の牙が喉元に突きつけられ、今にも噛みちぎられそうになっている草食獣の気分だ。
段々と青くなっていく俺に向けて彼女は言葉を続ける。
「私の元で私の為に働くか、貴方が保証人になってる宇佐美俊哉の代わりに2000万を今すぐ払うか。どちらか好きな方を選ばせてあげる。…さぁ、どっち?」
ニヤリ、と不敵に笑う彼女の手には返答次第では躊躇いなく引き金を引くであろう拳銃が、ご丁寧に銃口を此方に向けて構えられている。
既に手元には武器も無く、いつのまにか彼女の後ろには先程の黒スーツとは比べ物にならないくらい厳つい男達が音も無く控えている。
最早逃げる事も戦う事も許されないこの状況で生き残る選択肢はたった一つ。
「…働きます。」
「それは良かった。」
パァンッ!!!
突如放たれた銃声。
何事かと見れば、目の前の女が真っ直ぐと天に向けて拳銃を掲げて背を向けていた。
「今この時をもって浅野春兎は死んだ。そして我等、黒曜会に新たな同胞が加わる!」
後ろに控えた男達に向け声高らかに宣言した女は、もう一度こちらに向き直って話しかけてくる。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね?私は黒曜商会27代目当主灰道の娘、灰狼よ。よろしくね、野兎君?」
…記憶が間違っていなければ、黒曜商会とはこの地域を取りまとめる商会で、裏ではチャイニーズマフィアが取り仕切っていると噂で有名だ。
一抹の不安を抱えながらも、もう後には引けない。
笑顔で差し出された狼 と名乗る彼女の手を、人生の選択肢を間違えたかも知れないという未練を振り払いつつ掴んだ。
〜〜〜
コレが俺、浅野春兎改め野兎が人生の選択を間違えた、我等がお嬢、狼との出会いの物語だ。