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最後の会談

お待たせしました。

 ブルー・パレス国王接待の館の会議室に合計14名の会議参加者とその他傍聴者が一堂に会する。円卓に座するのは騎士長カイル、魔法長ヴァレジスト、副魔法長シエル、財務副大臣、その他10名だ。


 以前出席していた議長サイエム・ドールや副騎士長アデルは例の活動のためしばらく欠席となっており、その代わり別の閣僚が出席している。ちなみにカイン斜め後ろには以前同様、シーナが控えていた。


 人員が変わったり増えたりと入れ替えが激しい会議だが、それよりも気になることがある。


 それはとある男の存在。


 他とは明らかに異なる雰囲気を発しており、周囲の者に動揺を与えていた。両隣の席の者が無意識に距離を離す程に煙たがられているのだろう。一人だけ離れ小島のようになっている。


 それを当の本人は知ってか知らずか、ただ黙々と腕を組んでどこかを見ていた。まさに我関せずの態度、全く興味を示してない。


 そんな中、真っ先に座って準備していたカイルは全員揃ったのを確認する。そして声を発した。


「今より第6回、ブルー・パレス復興会議を始めます。議長は前回より欠席のために私、カイン・グラストイラ=シャウデールが議長代行兼、副議長として執り行います。今回も有意義な意見交換が出来るように是非よろしくお願い致します」


「宜しくお願いします…….」


 カインの声に応じてほとんどの者が挨拶をして頭を下げる。一部声が低い者や頭を下げなかった者がいるがそれは先ほどの男を意識していたためだ。


「では議題の前に今回より新しくご臨席された方の紹介を行いたいと思います」


「……待てそれは不要だ。説明ぐらい私でするとしよう」


 今まで黙りこくっていた男がカインの声を遮って重々しく口を開いた。


 他の皆々は男のことを考えていたのだろう。その声で議会は一気に静まり返った。


「我の名は蒼翠のフェンリル。議長代行の申し出により今回からこの定例会議に出席することとなった。普段はブラック・ヴァルキリーという組織の長を務めているが、ここでは説明は省かせてもらおう。王国は民と土地を守りたい、我々は王国の資産を欲するという利害関係一致の元協力している。また我々の組織の内情を探るような質問は控え、過度な交流関係は無用である。我から言いたいことは以上だ」


 まるでどこかの領主のような堂々たる風格でそれだけ告げると再び腕を組んで黙り込む。


 …………。


 他の参加者は思わず唖然としてしまうが、それに対して何かを言えるほど度胸がある者はいなかった。


 カインは若干苦笑いするように話を進める。


「フェンリル様ありがとうございます。それとフェンリル様を会議に招いたのはこの私でございます。何かご質問のある方は……」


「ではおひとつよろしいでしょうか?」


 カインの説明はまたも遮られた。しかし今度の声はフェンリルではなく対面席の副魔法長シエルのもの。


 シエルは嫌そうな顔をして話を続ける。


「前回からの議長不在に続き今回はこれですか。騎士長殿は随分と良いご身分ですね。この会議は円卓が設けられているようにブルー・パレスを復興させるための平等な会議。決して個人一人が好き勝手にして良いものではない。それだというのになんですかこれは……?議長を不自然な理由で追い出した次は訳の分からないテロリスト紛いの者を会議に呼び込むとは。これは許されざる暴挙であり、副議長という権利の度を超えた越権行為ですよ?」


 そのテロリスト紛いの者がこの場に居合わせているにも関わらず、今の爆弾発言。


「副魔法長殿……!!今すぐその発言を撤回してください!!」


 カインは焦る。


 フェンリルの顔色が豹変してそうで恐ろしかった。五公爵を倒した男がこんな狭い場所で暴れたらどうなるかは言うまでもない。


 しかし当の本人であるフェンリルは腕を組んだまま沈黙を貫いている。その沈黙が返って恐ろしい。このままフェンリルが憤怒してしまえば、誰も抑えることが出来ない。


「私は何一つ間違ったことは言ってませんが。撤回するべきなのはあなたの行いなのでは?」


 そんなことを知ってか知らずか、シエルは毅然とした態度のまま睨みつけて煽る。


 しかし前回のようにキレている場合じゃない。今はとにかくフェンリルを(なだ)めることが先決だ。だからカインは頭を下げる。


「申し訳ございませんフェンリル様。我々の手の者がこんな無礼な発言をしてしまって」


「よせ、頭を上げろ。私は別に何とも思っていないぞ。確かに君達の立場からしたら私は得体の知れない不穏分子だろう。副魔法長……とやらの言い分もよく分かる」


「ほぉ……。てっきり力だけが取り柄の威張った犯罪者と思っていましたがそうでは無いようだ。私も貴方の大人の態度を見習って先程の発言を撤回しましょう」


 自信満々にそう言うがシエルは決して頭を下げない。


 そこから読み取れるのは見直してはいるが軽蔑の気持ちが無くなった訳ではないということ。現に、邪な目線でフェンリルの身体全体を伺っている。


「ところで一つよろしいでしょうか……?」


 シエルの横の席で沈黙を貫いていたヴァレジストが声を上げた。


「すみませんがフェンリル様。貴方と私、どこかでお会いしませんでしたか?」


「………。誰だお前は、まずお前の名前も知らんぞ」


「これは失礼、申し遅れました。私の名前はヴァレジスト・カウル・エヘロンシュタイン=ウィザディオンと申しまして、この国の魔法長を務めさせてもらっています」


「そ、そうか……」


 うん知ってるよ。だって昨日会ったんだから。なぜだ……。なぜこの男が会議にいる。騎士長はちゃんとそういうことを教えてくれよ!!


 フェンリルは、いやジークは内心そう思う。


「………?」


 こちらに視線を送ってくるヴァレジストから逃げて、少し離れた席のカインをジト目で訴える。しかしその努力は虚しかな。彼に気付かれずに終わってしまった。自分がハットを身に付けているせいかもしれない。


 でもなんで騎士長は言ってくれなかったんだ?いや待てよ、確かに騎士長は会議のメンバーは教えてくれなかったけどこっちからもそれについては訊かなかった。それに騎士長からしてみれば、この会議の前日にフェンリルと魔法長が会うなんて事は夢にも思っていなかっただろうし、これについては誰も責められないか?


 いやそれどころか、もしかしてあの時魔法長の話をしていたのは今日の会議のことを言っていたのか?


 ヤバイ……自分がポンコツなのかそれとも騎士長のせいなのかはたまた誰も悪くないのか、いよいよ分からなくなってきたぞ……。


 ま、まぁこれについては保留としよう。こんなことを考えたところで議題とは何ら関係ないし何より男の視線から逃れられる訳でもないのだから…。


「でフェンリル様。貴方のそのハットの裏にどんな顔が隠れているのかはわかりませんが、貴方のその雰囲気とよく似た人物と私は昨日出会っていま(・・・・・・・・)()。そうではありませんか?」


「そ、そんなことある訳ないだろう。それは単なる人違いだそうに違いない……」


 やめろ、追撃しないでくれ。そういうのが一番キツいから。


「そうですか……それは残念」


 昨日から思っていたがこの男の感覚は鋭すぎる。隙を見せずともこちらのことを看破してくるのだ。


 もしかしたら相手を見切るような魔法、スキルやギフトを使用又は所持しているのかもしれない。


 ジークは後悔する。


 昨日接近したのは間違いだったか。こんなことになるのなら魔法館ロンドへ行くべきではなかっただろうに。俺のミスだな……。




―――――




「では今回の本題に移りたいと思います。今回の本題は前回、前々回に続いて国内の大量猟奇殺人の件についてです。これについて新たな意見、情報を得た方は是非とも情報共有のほどお願いします」


「ではいいか?」


「はいお願いします」


 声を上げたのは今までの議題を始終無言を貫いていたフェンリル。全員の意識は一気に傾いた。


「この事件に吸血鬼が関わっていることは知っているだろう?それとは別に影人なる魔物もこの事件に干渉していることが判明した」


「……影人ですか?影人は山奥の薄暗い場所を好んで住処にすると言いますが、なぜこんな街中に…?」


「そんなことは知らん、ただいただけだという話だ。それと現在確認中なのだがどうやらこの大量殺人というのは東地域に顕著に見られる傾向のようだ。東といえばちょうど帝国領に接する地域が多い。それに帝国を挟んでいる魔人国にも近づくだろう。我はその二カ国が怪しいと思っている。帝国は王国の領土を欲しいがため、魔人国は何が狙いかは分からんが今回の件に吸血鬼が関与しているので、関与している可能性は大いにあり得るだろう」


 その意見にカインも頭を下げる。


「実は私もそう思っていました。初めは単なる吸血鬼の反乱かと捉えていましたが、どうやらそう単純な話ではない様子。ヴァンパイアが暴れてくれれば王国が弱体化し、帝国としては願ったり叶ったりです。それこそ裏で帝国が暗躍する辻褄が合う。では魔人国が協力する理由ですが、そうですね…詳しくは分かりませんが、魔人国と吸血鬼が関係しているのではないでしょうか?」


 カインは話を続ける。


「魔人が住んでいる国々の総称を魔界と言いますが、競争や差別によって吸血鬼やその他の魔人たちが多く追い出されました。追い出された者達は居場所がないために人間界でひっそりと暮らしています。そして我らの国にもその吸血鬼の数は多い。魔人国がそれらと関係して裏で糸を引いている可能性は否めない」


「いやそれは違うと思いますね」


 反論したのは副魔法長のシエル。今回も騎士長に突っかかるためにあえて言った可能性があるが今回は妙に真剣である。


「帝国と魔人国が画策するという可能性は万に一つもあり得ない。魔人どもはプライドが高く、人間と協力するとは思えませんので。それに帝国にメリットがあっても魔人国にメリットが無い。それより私が怪しいと思うのはお二人ですよ。騎士長殿、それにフェンリルさん」


「……どういうことだ?」


「昔の騎士長殿は陛下と随分仲が良かった様子と伺っております。それなのに今は陛下に嫌われ気味のようだ」


「………」


 カインは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「それに腹を立てた貴方は陛下のことが気に食わない、又は騎士長という立場で満足できなくなって国内にいる吸血鬼どもを操り政権転覆を目論んでいるのではないでしょうか?」


「それはどういうことだ……!?」


「なんだと、騎士長殿がそんなことを?」


 財務副大臣やその他の者が慌てふためき、シエルがニヤリと笑った。


 これは明らかに根も歯もない暴論だ。何より陛下の名を語って自分を貶めようとしている。


 いつもすんでのところで我慢してきたカインも流石に今回ばかりは許せない。硬く握った拳で円卓を思い切り叩きつける。


「ふざけるな!!そんな言い分が通じると思うな!!

証拠はどこにあるんだ!?」


 騎士長という強者のオーラを目の当たりにし、静寂に包まれる。しかし標的であるシエルは依然とニヤニヤする。


「証拠はありません、今はね。でもよくよく考えてみると貴方は公爵家の長男だ。現在この国でNO.2の家柄の男がこの国でNO.1になることを夢見ている、なんてよくある話でしょう?」


「私はもう本家の家は継がない予定だ!!そもそも騎士長をやっている時点でそんなことは分かるだろ!?」


「どうでしょうねぇ……。家を継がないなんて証拠はどこにもありませんし、ましてや長男というご身分。そう簡単に家と縁を切れるとは思えませんが。その地位だってあなたの身分によるものなんでしょう?」


「ふざけるなよ……」


 汗水垂らして自分はやっと騎士のてっぺんに昇り上がった。今まで起きた辛いことも国のため民のために、頑張って耐えてきた。それなのに、なぜ自分はこんなよく分からない男に愚弄されなくてはならない。


 ふざけるのも大概にしろ。


 カインの頭に血が上る。


「まぁまぁ、喧嘩はその辺にしといた方がいいぞ?」


 そう仲裁したのはフェンリルだ。


「議長代行が議会でブチ切れるなんてことはあってはならない話。しかしその前にお前。副魔法長といったか、我と騎士長がこの件の首謀者とでも言いたいのか?」


「そうとは言ってませんよ。ですが怪しいとは思っています。現に貴方の正体はよく分からない。これでは怪しむのも無理はないでしょう?」


「我がこの事件を引き起こしたなら、その前にわざわざ強大な五公爵を倒す必要がないだろ?それに五公爵を倒すだけの力があったら魔人の力を扇ぐなんて曲がりくねったことはせずに、この国を滅ぼすはずだ。違うか?」


「…………」


「会議だから憶測や感想を言うのは仕方ない。だが根拠のない言い分でこの場にいる誰かを不快にさせるのは非常につまらんし、そういうことは身内で考えて調査するべきだ。そして証拠がない内は口を慎んだ方がいい」


 話を続ける。


「つまり何が言いたいか……。あんまり舐めた口を叩いていると消すぞ?我はこの国の機関でもなんでもない。だから気に入らねぇ奴はこの手で好きに葬れる。そのことを忘れるなよ?」


 その瞬間、圧倒的なオーラが流れ出す。オーラという見えない威圧のはずなのに、まるでドス黒い穢れが流れ出ているよう。


 それは騎士長の覇気を超越している。獅子に睨まれた草食獣のように、あたりは冷や汗を掻きながら黙り込むしかなかった。


 そうでなければ今すぐにもこの目の前の獅子に腑を食い散らかされそう気がしてならない。


「…………」


 流石の副魔法長もこれにはだんまりだった。


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