憤怒
お待たせいたしました!
あまりにも長くなったので、二分割させていただきます!!
「何かあったらこの家に集合。
それとリザちゃんに危険がないか確認お願いね」
「ああ、任せとけ」
「リザちゃんはこの家で大人しくしててね」
「分かった」
ジークとエイラ、そしてリザの3人は、自宅の前で対宗教に関する最終打ち合わせをしていた。
ジークのすることは村人への聞き込みだ。
宗教に関することや、誰か怪しい宗教に入ってないかなどを確認しに行くのだ。
エイラは山への偵察。
山で不審な動きはないか、連中はあの手紙を読んで立ち去ってくれたのかを確認する必要がある。
残るリザちゃんだが彼女は自宅で待機だ。
彼女の祖父母達は、リザちゃんがどこにいるとは知らない。自分達が行動している中、安全に匿える場所はここしか無いだろう。
「よし、じゃあ私は行ってくるわ」
「レイスが付いているとはいえ油断するなよ、相手は同数以上で来るかもしれないからな」
「ええ分かったわ、危ない状況だと思ったらすぐ逃げる」
エイラにはレイスを付けることにした。
山に行く以上、彼女が最も危険な状況に遭う可能性が高い。それを踏まえてだ。
レイスの数は3体。
全ての個体にジークが持つギフトの、死霊系最強化(1日に回数制限)を付与した。
今までギフトの使い方がわからなかったのだが、適当に祈ってみたら、なんか勝手についた。
それに、強化前と比べて格段にステータス、能力、隠密性が向上した。
本当に飛躍的に上昇したのだ。
もしかしたらギフトという能力は、その人の固有能力なのかもしれない。
エイラを確認したところ、ギフトは1つしか持っていなかった。
自分が察するに、これは生まれ持った才能の事なんだろうと思っている
エイラは手を出して合図する。
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
「ふふっ」
隣でリザちゃんが笑い出した。
「なんかお母さんみたい」
「え?俺がお母さん?」
「ううん。
エイラお姉ちゃんがお母さんで、ジークお兄ちゃんがお父さん。私はむすめ!」
「へーすごい家族なんだね…」
ほう、そんな考え方もあるのか。
確かにもう子供とは言えない俺たちの体格なら、そうかもしれないし、リザちゃんは成長が遅いだけに、娘にも見えなくもない。
ただありえない。
エイラと俺が夫婦ということは考えられない。
別に嫌っていうわけじゃ無いけど、そういう風に意識した事がない。
昔だったら…わぁ!ハーレムだ!!
みたいなこと思ってたかもしれないが、もう15年の付き合いなのだ。
と、冗談はさておき。
今はそんなこと考えている場合でもない。
ジークもそろそろ出発しなくてはならなかった。
「じゃあエイラちゃん、俺も行ってくるね」
「うん!いってらっしゃい!」
「うちの人がいるから大丈夫だとは思うけど、くれぐれも外に出ないようにね」
「うん!」
彼女は満面の笑みで大きく手を振ると、自宅に入っていった。
――――
そこから1時間後。
自宅にて。
「わぁ〜リザちゃん絵がうまいわね〜」
カスティアおばさんがそう言う。
「ありがとう!」
リザちゃんは嬉しそうだ。
彼女はお絵描きをしていた。
描いているのは草原と遠くに移る山脈の絵。
見た目がロリなので、てっきり絵のクオリティも5歳児くらいなんでしょ?と、思われそうだが、実際は非の付け所が無いぐらい上手かった。
綺麗な草原と遠くにある雪が残った山脈。
遠近感や色合いが良くて、まるでその場所にいるような錯覚を見させるほどだ。
そこにおじさんもやって来た。
「何してるのリザちゃんは?
へぇ〜リザちゃんは絵を描いてるのか。
どれどれ〜〜?……う、うっま!」
あまりの上手さにおじさんも思わずびっくりした。
――その時。
コンコンコン…。
誰かが家を訪ねて来たようだ。
一体誰だろうか?
「はーい!」
おじさんは廊下に出て玄関へ向かい、ドアを開ける。
――しかし、その行動は間違いであった。
玄関にローブを着た3人衆が入ってくる。
1人目は紫髪の長髪、ポニーテールにして髪を束ねている男。
2人目は金髪で短髪の男。
そして3人目が長髪の金髪で、細目が特徴の男。
3人目はロイである。
そして玄関に入っていきなり魔法を唱える。
「ブラスト」
「うわあぁあ!?」
ジャックおじさんは吹っ飛ぶ。
物凄い突風だ。そしてそのまま壁へ直撃する。
「きゃあ!!」
「な、なんの音!?」
廊下から怒声が響いた。
まるで誰かが吹き飛ばされた。
カスティアは心配になる。
今の声はジャックの声。
一体何があったのだろうか…。
慌てて玄関に向かう。
「な、何!?あなたたちは!?」
廊下にジャックが倒れていた。
そして謎の男3人がなんの許可もなく家に侵入してくる。
「あなたたちはだれですか!?」
「ブラスト」
「いやぁぁあっ!?」
問答無用。
彼女も容赦なく風魔法で吹き飛ばされると、意識を失ってしまった。
「え、な、なに!?」
リビングにもその音は当然聞こえた。
おそらく、おじさんとおばさんは何者かに襲われた。
では次に襲われるのは誰だろうか。
リザは息を潜めるように声を殺して、じっと耐える。
どうかこっちに来ませんように。
何事もありませんように、と。
しかし微かな期待とは裏腹に、複数の足音がこちらへ向かってくる。
その足跡はドンドンドン!というように、おじさんやおばさんのものとは決して異なる音。
い、嫌!!
誰か助けて!!
ジークお兄ちゃんたすけて!!
心の中でそう叫ぶが、ますます足跡は近づいてくる。
そして、リビングのドアが蹴破られた。
「いやぁあ!!」
「こいつだ!運べ!」
金髪で長髪の男の命令で、両脇の2人は動き出す。
「や、やめてぇ!!」
リザは強引に掴んでくる手を必死に抵抗するが、少女と成人男性だ。
力比べで勝てるはずもない。
「うるせぇ!クソガキ!!」
抵抗も虚しく、強引にひきづられる。
そんな中せめてもと、目の前の男を睨む。
リザはその男に見覚えがあった。
うちの家にたびたび来ていた宗教家の男だ。
名前は知らないが、よく家に来ては祖父母と話していた。
「なんだその目は…?」
目の前の男は苛立った顔をする。
男はリザの腹を思いっきり蹴っ飛ばした。
うえっ"ぇ!!
続けて二発。続けて三発。続けて四発。続けて…。
何度も何度もだ。
目の前の煩わしいガキの、叫ぶ余力も残さないように蹴り続ける。
「わかったかぁ!?クソガキ!!
テメェごときオモチャが喚き散らすんじゃねぇよ!!」
リザにはもう意識がなかった。
鼻水や涙を流しながら気絶していた。
「よし、連れて行くぞ!!」
そう言って、男たちはリザを連れ去っていったのだった。
――――
成果は無し、か。
ジークは両手を頭に乗せてゆっくりと家に帰る。
結局、大した成果は得られなかった。
行く家行く家、そんな宗教関係者は知らないと言っていた。
ただなぜだか、いつもは人が住んでいる家の留守の割合が多かった。
それもお年寄りが住んでいる家が、留守のことが多かった。これは果たして関係しているのだろうか。
はぁ〜〜。
もう少しそれらしきヒントがあっても良かったと思うけどなぁ〜。
本当に連中は大人しく手を引いてくれたのかな〜。
それだったら良いけど。
そんなこんなで家の前に来た。
いつもと様子が違う。
家のドアが開けっぱなしになっているのだ。
流石にこれは不用心じゃないか?
リザちゃんだっているのに…。
そんな事を思いつつ家に入る。
なんとおじさんが倒れていた。
「ど、どうしたのおじさん!?」
慌ててかけ寄るが、ひどく弱っている。
「リ、リザちゃんが、さらわれた…」
「えっ…」
「へ、変なローブを着た3人組が無理やり家に入って来て、俺を吹き飛ばしたんだ。
あ、あっちでカスティアも倒れている。
お、お母さんを助けてくれ…」
そう言っておじさんは意識を無くす。
ジークは首元に手を当てる。
幸い、息はしている。
多分身体中のあちこちを骨折している。
おじさん曰く、カスティアおばさんも倒れているみたいだ。
俺に回復術は無い。
一体どうすればいいのだろうか。
そ、そうだ!この時のポーションだ!!
ジークは急いで自分の部屋のポーションを取ってくると、おばさんを見つけて駆け寄り、そしてふりかける。
「ジ、ジークくん。ありがとう。
ごめんなさいリザちゃんを守れなくて…」
「心配は後でいいよ。今はゆっくり休んで」
その時、玄関が開いた。
エイラが帰って来たようだ。
「ただいま〜。えっ…お父さん!?」
エイラは急いでおじさんの元に近寄る。
「どうしたの!?しっかり!!」
「エイラ!俺も今帰って来たところだ」
「ジーク!!」
「お父さんは気絶している。
少しどいてくれ」
ジークは新しくガラス容器を開けると、中の緑の液体をおじさんに振りかける。
すると、青くなっていた部位がどんどん肌色へと戻っていく。
「い、いったいどうしたのこれ!?」
「分からない。おばさんもあっちで倒れていた」
「お、お母さんも!?」
「うん。
それに…リザちゃんがさらわれたようだ。
多分あの連中は懲りずに、まだこの村や山に留まっている」
「う、うそ…。リザちゃんまで…」
エイラは涙を流す。
エイラ…。
彼女が泣いているのは珍しかった。
いつも勝ち気で元気いっぱいな彼女だ。
悲しい顔をしている時は、大体無理して笑顔を作る。しかし、今回は耐えられなかったようだ。
彼女を抱きしめる。
大丈夫だというように、何も心配はいらないというように。
今の自分にできることはこれが精一杯だ。
なんでこんなことになった…。
俺は少しでも、この村のことや人のためを思って、動いてたつもりだ。
そしてあいつらには最大限警告したはずだ。
……なのに、これはどういうことなのだ。
――許せない。
エイラを抱いた右腕に握り拳を作る。
あの連中には警告や反省は効かないようだ。
これは自分の失態だ。
ならばその尻拭いは、自分でしなければならない。
この手で、直々に潰しに行こうではないか。
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