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野望

 ふっふっふ。


ヴァレジストは優雅な笑みを浮かべた。

そして口を開く。


「どうやら読みは当たったようです。

どんな相手だろうと私の目を誤魔化すことは叶いません。たとえそれがフェンリルであろうとね」


「そのようでございます。

流石は御慧眼をお持ちのヴァレジスト魔法長」


ロンリーフォーのドーム頂上の屋根に、ヴァレジストは浮遊していた。隣を見れば副魔法長のシエルが急な傾斜の上に魔法なしで立っている。


彼らの視線の先は遥か彼方。

遠くて細かいのために普通の者ならばよく見えないが二人は違う。

自分達の目線の先にとある対象がくっきりと見える。


それを見ながらヴァレジストは納得したように鷹揚に頷いた。


やはりあの程度の雑魚では歯が立ちませんか。

まぁ致し方ない事ですが、それでも彼がフェンリルという確証を得られただけでも大収穫。

実に良い人柱になってくれましたね。


意味深なことを考えているヴァレジストは口を開く。


「それに思った通り氷魔法が主属性ではないようだ」


するとその発言で気になることがあったのか隣のシエルがこちらを見てくる。


「先ほどの影のような魔法は一体なんだったのでしょうか?闇魔法、それとも妖術や禁術の類ですか?」


「ふむ…詳しことは私も分かりかねます。

もっと近づけたなら話は別でしょうが、気付かれる場合も考慮するとそれは難しい。

恐らくですが魔法やスキル、ギフトを使用して魔人達を蹴散らしたのでしょう」


「あの男はギフトを使えるのですか?」


シエルは驚いた顔をする。

それに対してヴァレジストは至極冷静であった。


「その可能性は非常に高い。

少なくともこんな短期間で名を馳せたり五公爵の一人を打ち負かしたというのならば、ギフトの一つぐらい保持をしていてもおかしくはない」


シエルの表情が渋くなっていく。

副魔法長という立場である以上、ギフトがどれだけ危険な固有能力かは当然把握している。

ギフトは魔法のように、いや魔法よりも危険な存在にも関わらず保持者が限定されるためである。


経済状況や才能の有無に比例するが、魔法を一つ覚えるくらいなら多くの者ができる。

しかしギフトというものは生まれながらの才能でほとんどの者はその力を持っていない。


それはシエルも同じだ。

副魔法長であるシエルはギフトを一つも持っていない。しかしそれは特段おかしいことではなく、それだけギフトというものは希少価値が高いということなのだ。


数多の戦場を駆け抜けた歴戦の戦士と戦闘経験のないギフト持ちの一般市民の場合では、状況によってギフト持ちの市民の方が危険な可能性があり得る。

とかくそれが攻撃系ギフトの場合、歴戦の戦士だけでは留まらず何千人何万人もしくは国全体が滅ぶ危険性があるのだ。


攻撃系ギフト保持者は歩く核爆弾。

そんな強大な力を五公爵を倒したフェンリルが持とうものなら、この世のパワーバランスが崩壊してしまう。


それは知識人という立場を除いて常識的に考えても危険すぎる。

そう思ってシエルは戦慄を抱いているのだ。


そして話を続けた。


「そうなるとかなり厄介な相手かと。

あの女は確かに強いですが、流石にギフト持ちのフェンリルの場合、一人で対処可能という話は…」


「そんなの無理に決まっているでしょう」


ヴァレジストは素直に言い切る。

実際、危惧をしているのかといえばそうではなく、どうでもよいという感じの声だった。

そして説明を続ける。


「それ以前にあの女が五公爵を倒した彼に勝てるわけがない。不意打ちをすれば、もしかしたら善戦はするもしれませんがそれでも勝てるということは万に一つもない」


「ではなぜあの女に任せたのですか?」


ヴァレジストはニヤリと笑う。


「実はあの女の処理に困っていたのです。

そもそもあれは魔人国から派遣された、アドバイス兼見張り役のようなもの。下手な行動をすれば、有る事無い事告げられて我々が不利益を被りかねない。

ですので吸血鬼の方々と我々帝国の方で内密に連携して、あの女を処理することに決めました」


「なるほど、確かに魔人国は我々の味方ですが完全に我らを信頼しているのかといえばそれはあり得ない。少なくとも彼らの心底には魔人至上主義が根付いている。だから我らと手を組むことにデメリットを感じた場合、裏切ったとしてもおかしくはない」


妙に納得をした表情のシエルにヴァレジストは微笑んだ。


「そういうことです。

敵の敵は味方と言いますが、我らの周りには敵しかいません。しかしそんなことは魔人国も気付いていない訳がない。だから我々帝国側と魔人国は、王国という綱を利用して綱引きをしている真っ最中です」


いや、


「その表現は正確ではないかもしれません。

正確にいえば狸と狐の化かし合いというところでしょうか」


「ふふっなるほどそれは面白い」


「で、話を戻しますがフェンリルの処理は吸血鬼の親方さんにしてもらいましょう。

彼も人智を超えた力を持つ吸血鬼の始祖なので相手にとって不足はないでしょう」


「それは実に良い考えですね。

この国を荒らすという役目を持った吸血鬼共とフェンリルを戦わせることで我々帝国の被害を絶無にし、なおかつ役目を終えた吸血鬼という邪魔者を排除する。そしてその前に魔人国のあの女をフェンリルに消しかけて、魔人国に情報を流すことを防ぎ盲目になった魔人国を操る」


「その通りですよ副魔法長」


「ありがとうございます」


シエルは深くお辞儀をする。

落ちたら即死という高所にも関わらず二人はお互いに笑い合った。


そう、全てが上手くいっているのだ。

今自分達の周りに転がっている難題を退かせば帝国かつてない程に繁栄するだろう。

そうなれば帝国の渇望している世界征服もそう遠い話ではない。二人は未来の帝国に対する理想郷を描いていく。


「王国はもうじき滅びますが、魔人国も、魔人国に戻りたがっている負け犬の吸血鬼や魔人共も、もうすぐ滅びます。最後に笑っているのはこの我々、ガラン帝国だけです」


大声で叫んでいるというわけではないが、ヴァレジストの声は大きく街へと拡散していった気がした。

 


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