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追跡者

「ジーク、こっちは帰り道じゃないけど良いの?」


「うん大丈夫大丈夫〜」


ジークとラフィーは裏通りを歩く。

裏通りは人が少なくて道のど真ん中を闊歩出来るのだが、こんな場所に来たのかは訳があった。


ジークはチラッと後ろを振り返る。

あることを除いて後ろにおかしな光景は無い。


そうこれでいい、思惑通りだ。

そして隣のラフィーを見ると口を開く。


「エイラたちはともかく、リエルはどこまで進んだかな?もうあれから一週間経ったし王都に近い場所まではたどり着いたと思うんだけど」


「連絡はどうしてるの?」


「いやそれがね取ってないんだよ。

でも何かあったら連絡するとは言ってたから多分大丈夫だと思う。それに王都を目指すという目的がある以上、リエルはエイラたちと連絡を取った方が良いから俺は後回しでいいよ」


まぁ、


「なんだかんだ心配だから後で連絡してみることにするけど」


何気なくそんなことを言うと、ラフィーは何故か意地悪な笑みを浮かべた。


「リエルのことだから連絡を待ってる。

でもあっちから連絡をしないのは、この事件に多くの人の命が掛かってるという理由で少しでも楽しんじゃダメだと思ってるから自分を縛ってるんだと思う」


「そう?

連絡くらいは別にしても良いと思うけど……」


そう思ったが、彼女の性格だ。

恐らくなんらかの問題が発生しない限り、連絡する事はためらうのかもしれない。

それが今回のような深刻な事件に関わっていれば尚更、通話がしにくいのかもしれない。


流石は堅物キャラというか、生真面目な点は治しようがない彼女の天性らしい。

良くも悪くも誇り高き女騎士と言ったところか。

そんなところが彼女の魅力なのだが。


まぁつまるところ、順調に王都への歩みを進ませてながらこちらの他愛ない連絡を待っている。

というところだろう。


多分今頃は寂しがっているんだろな〜。


気づけば自分もラフィー同様に悪戯な笑みを浮かべた。そして自分は気づいた。

ラフィーはこんなことを考えてニヤついていたのかと。


まったくお主も悪というか、なんというか。

ラフィーはこの年にして意外にしっかりしているところや、大人っぽい感性がある。

これは本当にメスガキなのかもしれない。


……あぁそれと、そろそろいいだろうか。


辺りに誰もいない事を確認して後ろを振り返る。


後ろにも当然人はいない。

しかし自分からすればそれは間違いであり、ひっそりとこちらを尾行している者が自分の目には映る。


「全くいつまでアンタらは着いてくるんだ?

バレてないって思ってるみたいだけど、俺からすればアンタらの姿は丸わかりだ。

観念してサッサと姿を表しな」


「ジーク、どういうこと?」


突然そんな事を言ったので、驚いたラフィーが見てくる。彼女からしてみればその言葉は違和感しかないのかもしれない。

それも仕方がないだろう、相手は精密な方法で透明化しているのだ。実際歩いている人はおろか、人っ子一人すらいないようにラフィーには見える。


「後ろを見ててごらん」


自分はただそう告げるのみ。

ラフィーはその言葉を信じて後ろを見続ける。


すると四つの透明な物体が現れた。

一眼見ただけでは気が付かないほどに他に紛れているが、空間に完全に馴染んでいるかと言われればそうではなくて、じっと凝視すればその違和感に気付ける。


そしてそれらは透明な何かを脱ぎ去った。

そこにいたのは黒いマントを着た何者の姿。

大きさはジークと同じぐらいだろうか。

黒いマントに覆われているせいで、まず人間かどうかも不明な者たちである。


「………」


それらは黙ってこちらと相対する。

しかし、その中の一人がゆっくりと自分たちの前へ躍り出て来てきた。


「ほぅ…よく分かったな。

一体いつから気づいていたんだ?」


それはドスの効いたような男の声。

わざと声を変えているのか地声なのか、はたまた声が枯れているのか分からないが、あまり人間が出せるような声には思えない。

その問いに対して自分は答えていく。


「いつからってそりゃ最初からだ。

魔法館の出口で透明化して俺らを待っていたんだろ?いつまで経っても攻撃してくる気配が無かったから、気付かないふりをしてあげたんだが、このまま家まで来られたら流石に面倒だと思って人気のない場所に誘導した」


そして話を続けていく。


「アンタらは俺たちの内情を探ろうとしたのかもしれないけど、逆に俺の罠に上手く罠に掛かってしまったという訳だ。

それこそゴキブリホイホイみたいにな……」


ジークは決め台詞のようにそう言う。


ゴキブリホイホイ……?


他の全ての者が首を傾げる。

それは敵だけではなくラフィーもだ。

ただそれを説明する気はジークにはさらさらなかった。


「何を言っているのか分からんが、お前も人間の一人に過ぎない。ここで貴様を殺してもなんら問題ではないだろう」


その声を合図にマントの者達は戦闘体勢を取る。

ただ戦闘体勢と言っても武器や凶器は何も出していない。恐らくマントの裏に何かを隠し持っているのだろう。


「さぁ果たして俺らをやれるのか?

お前たち程度ではいささか役不足に見える」


目の前の男は随分と余裕そうにそう言った。


ん、なんだ……?


先頭に立ったマントの者は疑問を覚える。

男の足元に黒い影のようなものが広がった。

水が地面に染みるように、それは徐々にこちらへと近づいてくる。


なんらかの攻撃手段か?

あの黒い影には踏まないほうがいいかもしれないな。


マントの者はそう考えながら仲間の様子を見る。

他の三人は準備完了というばかりにこちらに合図をする。


準備は整った。

あの男から殺傷の許可は降りてないが所詮、相手はこの町の人間。もうじき、この町には誰もいなくなるのでそんなことは気にしなくていい。


そう思って動き出す。

目指すは青色の髪の男、人間とは訳が違う脚力を持って一瞬で男に接近する。


「………」


男はまるで気付いてないとばかりに棒立ちだ。

貰った、とばかりにマントから拳を突き出す。


それはなんの変哲もないただの拳。

しかし自分の種族は竜の鉤爪のように鋭利でゴツゴツとしている。


それが男の顔面に直撃するその前に、謎の黒い影によって阻まれた。


「なんだ!?」


「ふん…」


男はニヤリと笑う

あろうことか、黒い影は地面から飛び出して自分の拳を包み込んだのだ。


これは……なんだ?


引き抜こうとするがびくともしない。

それどころか時間と共にこちらの拳を通り越して腕にすら絡みついてくる。


「アンタらが真っ黒い見た目をしてるから俺もそれに対抗して黒い影を使わせてもらった。

どう、本当の漆黒を味わっている感想は?」


黒い影とは一体なんなのだ。

闇に深い関係がある自分達の種族でもそれはよく分からない。とにかくこれは危険な物体、早めに取り払ったほうが良い。


しかしそれでも抜けない。

まるで万人に引っ張られているように腕が振動すらせずに飲み込まれていく。

焦燥感に駆られた男は怒鳴る。


「なんだと…ふざけるな!!

おいお前ら協力しろっ!」


「…………」


懸命に呼びかけるが後ろの連中は全く動かない。

近づこうにも男が妙な技を用いてきたために躊躇っているのだ。もしかしたら自分達もそうなってしまう可能性があるのは言わずとも理解できた。

それに自分達は暗殺者でない。

人を殺すために取るような上手い連携は行えないのだ。


「クソ!」


そうしている間にも影はどんどんとこちらの腕を飲み込んでくる。そうして焦った結果、片方の拳も突き出した。


しかしそれは間違い。

今度はそちらの手も影に飲み込まれていく。

マントの者はもはや冷静にはなれなかった。


「どうだ、怖いか?

自分の身体が徐々に飲み込まれるのは。

まるで流砂にでもハマったみたいだろ?」


男は再び笑う。

それは他の人間とは常軌を逸していた。


男に容易に接近した事を悔いながら、それについて考える。


こんな人間は見たことが無い。

例外はあるとはいえ、自分の脳内にある人間はいつも非力で怯えるとばかりだと思っていた。


しかしその考えは誤り。

だがそれは知った時にはもう手遅れだ。

何をしようが一度捕まった以上、この影に抗える術は存在しない。


「離せ、離してくれ!!

お前らこいつに攻撃をしろ!!」


「……!!」


超然とした恐ろしい光景に立ち尽くす他の三人は、ハッとしたように反応する。


そして接近できないと理解できた以上闇魔法を唱える。そして闇の光が男へと向かっていく。


「無駄だ」


しかし男には当たらない。

地面の影が触手を出すように伸びて魔法を捕食したからだ。実体があるものだけではなく、光という触れないものすら侵食する。


こんな攻撃は見たこともないし聞いたこともない。

三人は唖然とする他なかった。

ただ、飲み込まれている本人は必死だ。


「魔法を飲み込むだと…。

そ、それはどういうことだ!?」


「まずは一匹」


男は心臓を潰すように右手を握った。

何気ない行為だがそれは目の前の者を殺すと言う暗示に他ならない。


「うわぁぁあ助けてくれぇぇえ!!」


先頭の一人が完全に飲み込まれていく。

そしてその数秒後、男の姿はどこにも無かった。


つまりそれは闇に食われたということ。

男の存在はこの世界から完全に姿を消したのだ。


「さぁって…今度は誰が餌食になる?」


一人が犠牲になった以上、残りの自分達だ。

今度は呆然と立ち尽くした者からあの影に食われることは想像に難くない。


だからお慌てで三人はよろめく。


「……撤退だ!

石を使って撤退するぞ!!」


一人がそう口走る。

石を使って撤退、それはつまり転移石を使うということ。ただあれを使うのには少しばかり時間を要する。

10秒ほどでその動作は完了するかもしれない。

それでも、目の前で突進してくる猪のような相手に無傷で10秒耐えろと言うのはあまりにも酷な話。


それどころか、目の前の男は猪よりも遥かに危険な存在。たとえ転移石を使ったとしても全員が無事に転移できる保証はどこにもない。


それゆえに残りの二人は時間稼ぎもできない及び腰になってしまう。

そんな中、男ではなく地面の影が三人を猛追してきた。


「そいつらを食い散らかせ」


影はあっという間にこちらに達する。

それは先ほどのように水が浸透する速度とは比較にならないほどの速さ。一人が影に捕まると地面に吸い込まれていった。


「やった、これで逃げれるぞ!!」


転移石による魔法陣がようやく完成する。

そして魔法陣に乗り込む直前に、


「ラフィーそいつは逃すな」


「うん」


気がついたら男の脇にいた獣娘がこちらと肉薄する距離にまで至っていた。

転移石を使った者は焦るがもう手遅れ、強烈なパンチを食らうと石造の建物に突っ込む。


その隙にもう一人は逃げだした、というか見逃してもらった、と言うほうが正しいだろうか。

魔法陣に乗り込むと一瞬で転移をする。


そして残ったのは一人だけ。

いくら人間より身体能力が高い種族といっても、石の壁にぶつかった者は不気味な色の体液をぶちまけながら横たわる。


そこにジークはゆっくりと近づいていった。


「転移石を使ったから自分は助かると思った?

ブッブ〜それは間違い。

俺は腐ってるからそういう奴を見ると真っ先に攻撃したくなるんだ。目の前に小さく煌めいている希望からどん底の絶望に突き落とす。たまんないよな」


その姿はもはや悪魔。

これを人間といっていいのかも怪しいほどに性根を腐らせている。


「やっぱり人間じゃなかったか。

それにしてもあんたらは一体何者だ?

見たところヴァンパイアって感じもしないけど……」


マントから出た姿は魔物と言うべきか。

黒い狼が二足歩行しているようにも感じる。

これはなんという種族なのか自分には見当つかないが、まさかヴァンパイアではないだろう。

自分の中のヴァンパイアはもっと人間らしくて、吸血の時に翼や牙が生えたり目が赤くなる印象だ。


まぁこれもエイラたちから聞いた情報と自分のファンタジーによる偏見から考えられる特徴なので、実際のヴァンパイアは見たことがない。


するとマントの者はそれに反応してこちらを見る。


「俺たちはヴァンパイアじゃない…。

俺たちは影人(かげびと)という種族……」


「なるほど。

じゃあこの街や国を襲っているのはヴァンパイアとあんたらと他になんの種族があるんだ」


「それは……」


影人はそれに応えようとする。

しかしその前に男の声が耳に入った。

それはこの影人にしか聞こえない声でこう言う。


「喋り過ぎた」


……と。

その瞬間、影人は燃え上がるようにその身を焦がす。

激しい火を放ちながら炎上していく。


鎮火すると地面にはその灰しか残っていなかった。


それを見たジークは若干驚いてこう言った。


「あらま」


……と。




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