推理
ゼラが立ち去った後。
ジークとラフィーは二人だけになる。
そんな中、ラフィーは口を開いた。
「あの女は今回の事件に関わっていると思うの。
それこそ、この国を襲っている主犯格の一人かもしれないよジーク」
「それは流石に考えすぎなんじゃないの?
どんな根拠があるんだ?」
「そんな証拠はないの。
でも私は匂いだけで相手がどんな種族か分かるんだ。
あの女はエルフのような耳をしているけどエルフなんかじゃない。あの女からエルフ特有の魔力の匂いが感じられないの」
「じゃあなんだって言うんだ?」
「エルフでもダークエルフでも無いのに耳が尖っている、といったらそれは魔人種しかいない。
あの女はほぼ確実にこの国を襲っている魔人の一人なんだよジーク」
「…………」
ラフィーは懸命に訴える。
その言葉を聞いてジークはつい黙り込んでしまった。
彼女個人の主張ではなく、種族特有の能力で彼女が魔人だと分かったなどと言われてしまったら、それは本当にその可能性が増してしまう。
人の予測は当てずっぽうでも、種族特有の感は騙されない。つまり彼女が魔人だという可能性はかなり高まることになる。そして彼女が人喰いの一員だということも。
「それに加えてねジーク。
あの女はこの街にあんまり滞在しないで色んな場所を点々としているって言っていたでしょ?」
「……そうだね。
でもそれは商人の護衛が目的なんじゃないの?」
「この国の各地が襲われていることを考えてみれば、あの女がいろんな場所に行っているのは怪しいと思う。冒険者の仕事としてではなくて、この国の壊すために各地を点々としているんじゃないかって私は思うの」
「………」
これについてもぐうの音も出ない推論だ。
彼女がもし魔人、特にヴァンパイアだとするならば、各地に行っているのは商人の護衛なんかじゃなくて、街や村を荒らし回るためである。
その予測は自分の胸にストンと落ちてしまう。
なぜ11歳であるラフィーはこれだけの推理ができて、前世と合わせて34歳になる自分は、こんなことも分からなかったのか。
いい加減自分のバカさが嫌になってくる。
だから彼女に再び質問する。
「じゃあ彼女の冒険者仲間の件はどう思う?
朝馴染み同士で仲良くやっているのは憧れるって言ってたけど、俺としてはさっきの話を聞いた限りグルだとは思えないけど…」
あの時のゼラの瞳は本物に見えた。
二人の関係性を羨ましく思っているのだろう。
少なくとも彼女の語っていた二人が架空の人物、または彼女の手の者だとは思えない。
それにわざわざ二人の紹介をしておいて、ジークを一緒に冒険者に誘うと言うのは無理がある。
なぜなら後日バレるからだ。
「私もその二人は事件に無関係なんだと思う。
あの女だけは全てを知っていて、その二人は騙されているんじゃないかって。あの女は真実と嘘を織り交ぜて話しているんだと思う。都合の悪い部分、つまりあの女が魔人だってことは隠しているんだよ」
「それはあり得そうだな」
………。
あまり考えたくはない。
彼女が魔人でこの国を内側から食い潰しているなど。
「じゃあ俺からも少し弁明させて」
ラフィーはコクリと相槌を打つ。
それはゼラに対する態度と180度異なっている優しい反応だ。
「ラフィーに止められたけど、俺は別に自分達の素性を伝えるわけじゃ無かったんだよ。
彼女には旅をしているって言いたかったんだ」
「そうだったんだねジーク。
私はてっきり自分達がブラック・ヴァルキリーだって告白するのかと思ったの」
「ふふふ、まさか。
そんなことは言わないよ、少なくとも今はね。
でもさ、よくよく考えてみて。
彼女が俺たちを騙しているのと同様に、俺たちも彼女を騙してるって俺は気が付いたんだ。
だから彼女を責める気になんてなれないね」
彼女がダークエルフだと偽っている。
または人喰いのヴァンパイアだということを隠している。例えそうだとしてもそれはこちらも同じだ。
自分はステータスこそ改変していないものの、彼女に真実を偽っていた。
鑑定装置を上回るほどの実力を持っていることを打ち明けなかったは何を置いてもこの自分。
彼女が自分の鑑定結果を操作していたとしても、自分は非難できない。
それに自分はブラック・ヴァルキリーという闇の組織に所属していることも告げなかった。
「カフェに向かう前は少なくても不満げな顔をしていたのに、彼女と話している時はまったく怒っていなかったのはそれが原因なの?」
「うんそうだね。
いっときは彼女に騙された、なんて思ってたけど、よくよく考えてみれば自分も騙してたんだってね」
「でもそれは似ていてまったく違うことだと思う。
ジークはあくまで自分の本当の姿を隠すために嘘をついたのかもしれないけど、あの女は他人を食い殺しているのを隠すために嘘をついたんだよ」
「それはつまり…単なる身分詐称と人殺しを隠すために身分詐称したのじゃ罪は違うってこと?」
「私はそう思ってるよジーク」
「なるほどねぇ。
まぁ俺は法学に関しては全然詳しくないからそういうことは分からないんだけど」
「……?」
こちらの意味が汲み取れずラフィーは不思議そうな顔をしている。
まぁこれはかつていた現実世界の法律と掛け合わせた軽いジョークみたいなんものだ。
実際、こちらの世界とあちらの世界の法律に関して自分は無知なのでまったく分からないのだが。
「それと、俺が彼女と冒険者をすることに許可したのはどういう理由?
てっきり全力で拒否してくるんだと思ってたよ」
「私が提案を呑んだのはあの女が本当に魔人だと言える証拠が欲しかったの。
だから一緒にジークに着いて行こうとした」
「だったらごめんね」
「ううん、でもいい
ジークだったらあの女を見破れると思うから」
「分かった。
代わりに俺が彼女のことを確かめておくよ。
この街で吸血鬼の情報が入りにくい以上、ここで無駄に終わろうとも彼女を調べるのは悪くないからね」
「うん」
次はやっと戦闘パートです。
今回の章は話が多すぎて大変だ。
後で次も出すかもしれません。