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話し合い

「ここは良い景色だろう?

この研究所に来たからには魔法なんかじゃなくて、ここに来るべきなんだ」


高い景色ゆえの絶景を背景にゼラはそう言う。

そして優雅な姿でテーブルにあったティーカップを掴んだ。


彼女の言う通り、後ろには美しい街並み広がっている。ここからは時計塔もレル公園も望むことができた。普段地下に潜んでいるジークにはこんな場所があるとは思わなかったので少し感動ものだ。


「そうですね。

本当にいい場所だと思います」


ところで。


「ウォーカスさんはこの街に来てどれくらい経つんですか?」


「3ヶ月ほどだな。

……といってもこの街にはあまり滞在していないのだが」


「それはどういうことでしょうか?」


ジークは不思議そうな顔でそう尋ねた。

するとゼラはなぜか若干視線を落とす。


ジークにはその意味が分からなかった。


「今は冒険者として活動している影響で、この街にはなかなか居ることができないんだ」


「そうだったんですか。

冒険業をしているんですね。

僕は冒険者なるものをやったことがないんですが、どんな活動をしているんですか?」


冒険者といえば大道ファンタジーの通り道。


この世界に来たからには少なからず冒険者を体験してみたいもんだけど、なんか大変そうな気もするだよな。それに時間に余裕もないし。


ジークがそんなことを考えていると、ゼラは口を開く。


「冒険者と言っても大体は商人の馬車の護衛をしているよ。まぁそれ以外だったらダンジョンに潜ったり、魔物などを討伐したりして、報酬金をもらって生計を立てている。

あとはたまに依頼も受けることがあるな」


「そうなんですか。

それはまた夢がありそうで楽しそうですね」


「う〜ん…正直楽しいか楽しくないかよく分からないが、それなりってところだな。

それでも私には仲間がいて、彼らの面倒を見るのは楽しいことだ」


彼女は清々しい顔をした。

鑑定と同じようにもしかしたら彼女は嘘をついているのかもしれないが、自分には何故だか今の言葉は本当に聞こえる。


「ゼラさんの仲間がどんな人たちなのか気になりますね」


「私の仲間はたったの二人なんだ。

一人は君と同じような歳の少年。

もう一人はその少年の幼馴染の女の子だ。

時折、私は邪魔者なんじゃないかなって思うほどに彼らは仲が良いんだよ、ちょっと憧れるものがある」


「なんか良いですね、幼馴染同士で冒険者になるって。僕にもこの街、いや、行動を共にしている幼馴染が二人いるんですが、腐れ縁って感じで、離れられないんです。それでも二人には相当助けられてて、アホな自分は頭が上がりませんよ」


ジークはしみじみとそう言う。

これは紛れもない事実だ。

本当に彼女達にはお世話になっている。

特にリザには、まるで母親のように日常生活で面倒を見てもらっていた。

そして彼女達がいない今は自分のダメダメさを身に染みて感じるのである。


するとゼラは相槌を打ってくれた。

そして口を開く。


「そうかそうか…。

それは随分とロマンチックな関係だ」


彼女の頬がほんの少し赤くなったように見えた。

恐らくそれは気のせいだろう。


「だからその二人には頑張ってほしいですね。

冒険者で名が挙げられる機会というのは、いくらでも転がっているのかもしれませんが、幼馴染という一生で数少ない大切な人とはそうそう巡り会えませんから」


「君はかなりのロマンチストだな。

その心は大切にしたほうがいいぞ」


「ありがとうございます」


他人の幼馴染の仲が良くても自分は気にしない。

なぜなら自分はリア充爆死しろと考えるタイプでは無いからだ。どちらかというと、そんな人たちがいれば応援はしないこそクールな感じで見守る人間だ。


だってその方がカッコいいから。

それだけである。


「そういえば君たちはこの街にどのくらい滞在しているんだ?もしかしてここの生まれか?」


「いえ違いますよ。

僕たちもこの街には2ヶ月弱滞在しているだけです」


「ほう…そうか。

ではどうやら私の方がこの街の先輩だったな」


「そうですね」


ジークは一笑に付した。

すると彼女も笑ってくれる。


しかしラフィーはだけはまったく笑っていなかった。

彼女ははなぜか険悪な顔をしている。


顔で「どうした?」という風に合図を送るが、彼女は無愛想な眼差しでゼラを見たまま、こちらのことを見向きもしない。明らかに彼女はゼラの事を睨んでいて相変わらず危険視している。


はぁ…まったくラフィーったら。

ああ言ったのにまだウォーカスさんのことは信用してないんだな。別に信頼出来ないなら信頼しなくてもいいけどさ、その目はもうちょっとどうにかしようよ。


そんな事を思うのだが彼女に届くわけが無い。

だからジークは諦めた。


「私の場合は冒険者としてこの街に滞在している。

しかし君たちがこの街に来た目的はなんなのか教えてくれないか?」


「良いですよ。

僕たちはですね……」


「ジーク、その必要はない」


ラフィーがそう遮る。


「えっ?」


「この人に私たちの目的を教えたところで良いことはない。それにあなたもそんなことは尋ねない方が良い。お互いのためにも」


冷淡で無愛想、しかし明らかに敵意がある声色で彼女は忠告した。

これには二人も驚愕の表情をする。


「ど、どうしたんだ?」


ゼラは少しだけ動揺していた。


「ちょっとラフィー?

そんな言い方は無いと思うよ。

ウォーカスさんだって自分の身の上を明かしてくれたんだしここは俺たちも答えておこうよ」


ラフィーは突然こちらの耳に口を近づける。

そして耳打ちをした。


「今やっと理解した。この女は絶対に危険。

変にこちらの情報を教えない方がいい」


「……それってどういうこと?」


「後で教える」


果たして何がそんなに危険なのか。

自分にはまったくわからない。

ここまで来ると流石にラフィーの被害妄想の可能性がある。


ただそれでも、ラフィーの直感はメンバーの中で誰よりも鋭い。

だから一概には否定できないものもまた確か。

ここは彼女とゼラを比較して、相対的に決める方が良さそうだ。


「だ、大丈夫か?」


ゼラが不安そうな面持ちで聞いてくる。

それに対してジークは苦笑いをした。


「気にしないでください。

なんかラフィーは機嫌が悪いみたいでウォーカスさんに当たってしまって。

とりあえず今のは無かったことに」


「そ、そうだな。

なんかすまないな。

変な事を聞いてしまって…」


ゼラは落ち込んだような顔を見せる。


雰囲気を壊したのはこちら側。

そんな顔を見せられてはこちらが罪悪感でいっぱいになってしまう。


「あ、謝らなくて良いですよ。

それで…ウォーカスさんの冒険者チームは本当に楽しそうですね」


ジークは無理やりに話を戻した。

するとゼラもだんだんと顔色が戻ってくる。


「そうかそうか……。

もし君が良ければなのだが、今度私たちの仲間と会って一緒に冒険をしてみないか?

しばらくは何も用がないのでダンジョンや冒険に出ようって話だったんだ」


「それは楽しそうだ。

だったらぜひ僕も連れて行ってください。

ちょうど戦闘に関しては少しばかりお役に立てると思うので、その辺りの心配はいりません」


「それは随分と…」


「だったら私も連れてって」


嬉しそうなゼラの言葉にラフィーは横槍を刺した。

しかしそれでもジークは譲らない。


「ラフィーは悪いけどお家でお留守にしててね。

大丈夫だよ。一緒に冒険するだけだから」


「……まぁいい」


彼女は不機嫌な顔でそう言い放つとプイッと他の場所を見る。


彼女を連れて行かないのに大した理由はないが、ゼラを含めた他の冒険者に迷惑はかけたくない。

ただそれだけのこと。


そしてその後もそれについてゼラとジークは話し合った。都合の良い予定日や準備するべきもの、集合場所について話し合い、具体的な日を取り決めるのであった。



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