鑑定
「ところで君は悩んだ素振りをしていたが、この装置を使いたいんだろう?」
「そうなんです。
でも全く反応しなくてもうお手上げですね」
自分は困ったように鑑定装置を触っていく。
見たところ彼女はこの装置を熟知していそうだ。
だからここは彼女を頼ろうではないか。
自分ががそんな事を考えていると、
「どれどれ…私がやってみようか」
どうやら自分の思惑は叶ったようで、ずいっと彼女は隣へ来る。そして先ほどの自分と同じように右手を突き出して祈るように目を瞑った。
すると……。
「おぉすごい」
「どうやら反応したみたいだな」
水の中の水晶は眩い光を放つ。
どうやら彼女の魔力に反応したようだ。
自分はそれに感動する反面、どこかにいるもう一人の自分が不機嫌になっていった。
そして彼はこう言っている。
あれほどやって出来なかった俺にに対して、彼女はいとも簡単に反応させた。なぜだ、なぜこうも違う。
もしかしてこの装置には意志があって、美人や女性にしか反応しないのではないか。
そうでなければラフィーがあれほど早く反応させた説明がつかない。どうにか言えこのクソ装置が。
するともう一人の自分がやって来た。
まぁまぁ落ち着いてください、そういう場合もありますよ。むしろここは通りすがりのおっさんではなくて、美女が発動させたのを幸いと喜ぶべきです。
もしここで知らないおっさんが発動させてたならその時はミンチにしてました。
ねぇ、そう思うとマシでしょ?
あぁそうだな…。
しかし流石の俺でもミンチにしようとは思わないな…。
冷静な自分と激怒する自分の話し合いは冷静な自分の主張が勝利するに終わった。なんか相当物騒な事を言ってたと思うが、どうぞ気にしないで欲しい。
というわけで自分は冷静に彼女の成功を喜びつつ、装置の様子を見守っていく。
水晶の光は水面に文字を映していった。
それはまるでステータスオープンのように、彼女の詳細を事細かく記していく。
本名 ゼラ・ウォーカス。
種族 褐色妖精人 (ダークエルフ)。
年齢 23歳
職業 万能士
………。
と、何気なく見ていたが流石にまずいと思って顔を背けた。これはいわば彼女の個人情報であり、他人がおいそれと見ていいものではない。
許しもないまま、それも女性の個人情報を盗み見るなど非常識で許されざる行為だ。
「………」
「すみません勝手に見てしまって…!」
彼女の方向は向けないので別の方向を見て謝った。
そして頭をポリポリと掻いていく。
やってしまった……。
俺はなんて馬鹿な真似をしたんだ。
今考えてみれば装置同士の間隔が離れているのも覗き見防止のためだ。少し考えれば分かることなのだが何せ初めて使ったのでそのあたりのルールを全く知らなかった。しかしこれは言い訳がつかない。
彼女には誠心誠意謝るしかないのだ。
ジークは頭の中でそう反省した。
すると彼女はこちらへ声を発する。
「別に全然気にしないよ私は。
私もそのへんのルールを言っておけばよかったな。
だとすると悪いのはこの私の方だ」
てっきり怒られるかと思いきや彼女の声は優しい。
思わず拍子抜けしてしまいそうだが、彼女に甘えてはダメだ。そして強く謝罪の念を込めて反省する。
「いやいやウォーカスさんは全然悪くないですよ。
僕が非常識な事をしたまでで…」
「もうこっちを向いてもいい」
彼女は見てもいいというように許可を出す。
しかしちょっとばかし振り向きたくない。
これで本当はめっちゃ怒ってます、どうしてくれるんだ…とか言わないでね?
振り返ったら鬼面が迎えてるとか嫌だよ。
ねぇ、本当に頼むよ?
そんな事を思いつつ彼女の方を振り返った。
「ふふっ…大丈夫だよ。
私は何もなど怒っていない」
するとやはりというか彼女は優しい顔をしていた。
そこに気分を害した様子は微塵もない。もちろん信じてはいたものの、これで証明されて本当に安堵する。
危ない。
これはまさしく首の皮一枚で繋がった気分。
彼女は嬉しそうな表情をこちらに向けて口を開く。
「では今度は君の番だ。
どちらの手でもいいが片方の手を突き出して、水晶に魔力を込めるように念じるんだ」
彼女に言われた通りに実行していく。
するとなぜだがやけに集中できた。
「……そう、いい感じだ」
すると。
「凄い、やっと反応した」
「良くやった!」
ようやく自分も水晶に光を灯すことに成功した。
そしてその光は彼女のものと全く遜色がなく、しっかりと自分が成功した事を暗に証明させたいる。
正直言ってこれはかなり嬉しい。
それになぜだが彼女は自分のように喜んでくれる。
なんていい人なんだ、先ほどは嫉妬してごめんなさい。
ジークがそんなことを考えていると彼女は口を開く。
「では私は見ないでおこう」
そしてここから離れようとする。
しかし彼女に対して待ったを掛けた。
「待ってください。
さっきはウォーカスさんのを無断で見てしまったので今度は僕のを見てください」
「いいのか?」
「はいもちろん」
本名 ジーク・スティン、又はイシ?
種族 人間? (ヒト?)。
年齢 17歳〜34歳又は不明。
職業 ???
ギフト 不明。
その他、自分に関する情報が続々と出てくる。
しかしどれもこれもが曖昧で不確かなことしか書かれていない。
そんなステータスを見たゼラは言葉にできないような微妙な顔を浮かべる。
「……なんだこれは?
名前も種族も年齢も全て不明じゃないか。
この装置は壊れてるのか?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。
そうだろう。
普通はそう思うだろう。
ただ、自分としては別に驚くことではない。
なぜならこの結果になることは分かっていたからだ。
だから彼女にステータスを見せた。
自分の全ステータスの項目は半年ほど前からずっと不明と表示されている。初めはなんらかの不良や珍しい確率で発生しているのかと思っていた。
しかし今はそうではないと思っている。
まず第一に考えてみて魔法に不具合が出るなどおかしい話だしありえない。それに魔法は確率論ではないのだ。
ではこの結果はなんだと思うかもしれないが実際のところ自分でもわからない。
ただ、あり得る線としてステータス魔法を自分が無効化してしまっている可能性や、自分のスペックをステータスオープンという魔法では測れなくなった可能性が存在する。
そういう場合なら、今後ステータスオープンという魔法の上位種を習得することができれば、この問題を解決することができる。
しかし以前も言った通り、ステータス鑑定の魔法はほとんどの人が使えないのでたとえその上位種があったとしても、自分がそのレアな魔法を発見できるか謎である。
まぁひとまずこの問題は先送りにするしかやりようがないのであった。
そんなことをゼラはつゆ知らず、彼女は困惑したような顔をする。
「しかし困ったな。
こんなんでは鑑定どころではないぞ。
もちろん君は分からないと思うが、何か心当たりはあるか?」
「いえ…特には。
僕もまさかこんな結果になるとは思ってもみませんでした」
「そうか……」
もちろん嘘だ。
心当たりはありまくるがここは内緒にしておこう。
知らないふりで済むなら俺はなんでも知らないふりですませるタイプだ。
とはいえ。
話は変わるけど、このステータス鑑定には惜しいところもあるんだよな。本名とかちゃんとジーク・スティンって表示されてるし、イシっていう部分も見方を変えれば、石田圭のイシからとっている可能性もあるしね。
ただその場合は前世のステータスも表示されてるってことで恐ろしくもあるけど。
それにほら…年齢だって17歳から34歳って書いてて、この世界では17歳、前世と今世を合わせたらちゃんと34歳になるし。
……そう思うとこの結果は怖くない?
別世界のことまで魔法はお見通しっていうわけか?
こりゃあ危険かもしれないな…。
隣では腑に落ちない表情をしているゼラを尻目に、ジークは若干寒気がしてくるのであった。