謎の遊び
さぁ〜て、どのくらいレベルアップしたかな?
こちらが待ち構えているとラフィーは走り出した。
獣人の身体能力を活かした俊敏な動き。
お互いの距離は約10m。
しかしその距離を彼女は瞬く間にゼロにしていく。
彼女は俺に接近すると、パンチとキックを組み合わせた連続攻撃を放っていく。
華麗かつ強烈で、普通の者なら軽く骨は折れるほどの打撃を打ち込んでいく。
もしかしたら先ほどの俺の発言を受けて、これほど容赦のない技を繰り出しているのかもしれない。
ただこれでいい。
自分としては彼女の全力を知りたいのだから。
「うん、なかなか良い動きだ」
しかしラフィーの攻撃はジークに全く当たらない。
ジークはただ避けているのでは無い。
それらの猛攻を後ろに下がりながら最小限の動きで回避し、次に向かってくる攻撃を予測する。
そうすることで相手の動きを見切ることできる。
自分の予測では彼女は右手からパンチを放ち、続いて左手のパンチを放つ。
そして最後に左足から横蹴りをするだろう。
そう予測した俺はラフィーの右横へ移動する。
わざわざ右横へ移動したのは、パンチの後に来るキックを避けようとしたのだ。
しかし読みは外れる。
「えっ…」
ラフィーはあえて攻撃を中断した。
そしてとんでもない脚力で跳躍をする。
そうすることでジークの視界から逃れた形になった。
どこに行った?
左右を見渡すも彼女の姿はいない。
しかしそれは当たり前。
なぜなら彼女はジークの背後を突いたのだから。
「はぁ!!」
その瞬間ジークは吹っ飛ぶ。
背中に強烈な正拳突きを受けた。
純然たる力と、精錬された形から繰り出された回避不能の一撃。まるで巨大な鉄球にぶつかったかのような威力だった。
ドゴォン!!
ジークはそのまま鉄の壁に激突し、轟音が鳴り響く。そしてあたりの埃を撒き散らしていった。
気になるのはその音。
鉄の壁と人間がぶつかって出せる音では到底無い。
普通の人間であればもっと生々しいグロテスクな音が聞こえるはず。
しかしそうはならなかった。
それはつまり、ジークの身体が鉄、いやそれ以上の硬い物体で構成されているということ。
「………」
白い靄の中からジークが歩いてくる。
負傷した様子はおろか服に汚れすら見えない。
いつも通りの飄々としている男がそこにいた。
そしてジークは口を開く。
「いや〜すごい。
あれは対応できなかったよ。
ラフィーの行動を読んでいるつもりがまさか読まれてたなんてね…俺の完敗だ」
ジークは軽い拍手をする。
それはラフィーの成長、戦闘による読み合い、鍛錬された技に対する称賛だ。
この戦いにおいて自分は完敗した。
少なくともジークはそう思っている。
しかし側から見ればそんな姿には全く見えない。ジークの歩き方、立ち振る舞いは優雅さと余裕さを兼ね備えておりまるで勝者そのもの。
これを敗者と捉えるには無理がある。
そこにラフィーは近づく。
「ジークだいじょうぶ!?」
ラフィーは走ってここまで来るとこちらに抱きついてきた。そして潤んだ瞳でこちらを見上げる。
「心配しないで大丈夫だよ。
俺はいつも通りこんな元気だ。
そんなことより色々と成長したね、びっくりしたよ」
「ほんとーに、だいじようぶなの?」
「うん。本当に大丈夫だ」
「ほんとーに、ほんとーに?」
「もちろん!」
ラフィーは目を潤ませて顔を赤くしている。
それほど心配してくれているのだろう。
しかしそんなに心配するならあんなに強く殴るなよとも思うが、全力を出せと言ったの自分の方。
責任は全て自分にある。
抱きつくラフィーとそれを迎えるジーク。
二人の身長差ゆえ彼女は頑張ってこちらを見上げてきている。
あ〜やばい。
この攻撃の方が効くな。
心配しているところ非常に悪いのだが、あまりにも可愛すぎる。むしろこちらの顔の方が先ほどのパンチより大丈夫ではない。
だってロリの獣娘が、顔を赤くして泣きそうになっているのだ。可愛すぎて悶え死んでしてしまう。
だから耳をわしゃわしゃと撫でて気分を紛らわす。
これ以上この純粋な顔を直視したらまずい。
ラフィーの表情に嬉しさが混じって複雑な顔になった。
獣人において耳や尻尾は弱点。
もしそこを触らせるとするならばそれは親か、もしくは番への敬愛の証。
思えば自分も触らせてもらえなかったものだ。
もちろん触ってはいけないのだろうと薄々勘づいていたから無駄な地雷は踏まないように触らないように心がけていた。
しかしいつのまにか認めてくれた。
それはラフィーが自分を認めてくれたということなのだろう。その時はとても嬉しかった。
というか、あまりの嬉しさに感動さえしたものだ。
しかしそれにより一つ気になることが出来た。
先ほど言った通り、獣人が弱点である獣耳や尻尾を触らせてくれるのは親のような存在か、異性の好意を持っている者だけだ。
となると、ラフィーが自分に対して耳や尻尾を触らせてくれるのは果たしてどちらなのだろうか。
彼女は幼いし俺のことを親のように親しい存在だと思って触らせてくれているのかもしれない。
しかしそうでなかったとしたら…。
「うにゃあ…///」
えっ…。
ラフィーは猫のような甘い声を出した。
そしてモゾモゾと身をよじらせる。
な、なんだ?
また彼女は俺の手を掴んで、俺の手で強いくらいに獣耳や頭に手を擦り付けている。
頭が混乱していく。
一体どうしたというのだろうか。
「はぁはぁ…///」
何も出来ず、なすがままに自分の手を彼女へと預ける。しばらく俺の手を使って獣耳を触っていたが、ハッとしたような表情をすると、ようやく手を解放してくれた。
「だ、大丈夫?」
「うん……。
だ、だいじょうぶ……」
彼女は顔を俯かせて深呼吸をする。
俯いているせいで顔を見ることは叶わない。
その顔は一体どんな表情を浮かべているのだろうか。
何かの病気でも発症したのかもしれない。
しかしいつもの彼女は元気いっぱい。
彼女が持病を持っているとも何かの病気にかかるとも思えない。
では一体なんだろうか。
……まさか。
あ、あれは本当に感染性のものなのか?
そう思ったところでジークはある事を思い出す。
それは先日作り出した剣の事。
あの剣は確か、感染付きと書いていた。
彼女はまさかそれに感染したのではないだろうか。
これはまずい。
自分はなんてものを創り出したのか。
早く武器管理部屋に行ってあの二つを処分し、彼女の病気を治さなければならない。
ジークがそんなことを考えていると、彼女は頭を上げた。
彼女の瞳は潤んでいて顔を赤面させている。
先ほどの心配していた表情とは明らかに違った。
ただ、病気にかかったというような具合の悪そうな顔もしていない。どちらかというと、興奮というか…発情しているような顔をしている。
もしかして、自分が耳に触れた事で彼女を興奮させてしまったのだろうか。
しかしジークは頭を横に振る。
流石にそんなことはないだろう…。
この世界の獣人に発情期があるのかは分からないが、耳を触られて発情するということは考えられない。
だってもしそれで発情するならば、そんな場所を親に触らせたりしない。
「じーくっ…❤️抱っこして」
「えっ…?」
彼女から予想外の言葉が放たれた。
具合が悪いとかそういう事を言うのではなく、彼女はまさか抱っこしてほしいようだ。
そこにどんな意図が隠れているのか自分には全く分からない。とりあえず彼女の言葉に従うだけである。
そうして彼女を抱っこする。
「具合とか悪く無いよね…?」
「じぃーくっ…❤️❤️
そんなことよりもっと強くだいてっ……//」
「う、うん分かった…」
あまりの代わり具合に呆然としてしまう。
もはや何が何だか訳が分からなかった。
ジークはとりあえずここから出ようと入口を目指す。
彼女は一体どうしたというのだ。
こちらの胸元にすりすりと顔を擦り付けてくる。
それに吐息も荒々しくなってこちらの腕の中でジタバタと暴れる。
「じぃーくはすごいたくましい強い強いオス///
わたしのぱーとなーにピッタリ……。
ジークと…じぃーくと交尾がしたい❤️❤️」
よくは聞こえなかったが彼女は何か囁いている。
しかし最後にこうびがしたいと聞こえた。
それはいったい何の事だろう。
この世界に「こうび」という遊びでもあるのだろうか。
とにかく様子がおかしいので、彼女は少し休ませた方がいい。