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遠くの地で

 ジークが魔力付与を行った日から遡ること2日前。


 とある場所に乗馬した二人の者がいた。


 1人はフードを被っており、もう1人はフードを下ろして、長髪の金髪を晒している。


 長い金髪はリザであった。眩しい朝日に照らされて、神々しく金色の光を反射している。


 そしてもう1人の方もフードを下ろす。赤い髪をポニーテールでまとめた青い目の女性。それは言わずもがなエイラである。


 彼女は口を開いた。


「ここも襲撃があったみたいね……。小さな集落みたいだけど生き残りはいない。襲われたのは昨夜ってところかしら?」


 自分の視界で収まる小さな集落。しかしその一帯は荒れ尽くされて火が出ている。畑も厩舎(きゅうしゃ)も民家も小さな教会も、全てがことごとく破壊されている。


 そんな光景を見ていると、後ろのリザが喋り出した。


「私もそう思うよ姉さん。この村は破壊されてからまだ新しい。現に火が出ているの見るに、相手は昨日の夜間に暗闇に紛れて集落を襲ったんだと思う」


「それが普通よね。やっぱり相手は油断ならない。リザはこの村を探索してくれない?私はとりあえずジークに報告するわ」


「うん分かった」


 そう言ってリザは綺麗な顔で頷くと、馬を小走りにさせて出来立てほやほやの残骸を見て回る。


 自分は何気なくそんな後ろ姿を一瞥したのち、周囲や(うえ)を見渡す。一面に広がるのは青く澄み渡った空と新緑が美しい草原、そして遥か遠くに見える白い山脈。


 長閑で平和な光景だが視界を村の残骸に戻すと途端に今ある現実に戻されていく。


 そんな状況下の中、彼女は片手を耳に当てた。


通話(コール)


 すると……。


「ほわ〜〜眠て……おぉっエイラか!?なんかあった?」


 随分と呑気のジークの声が聞こえてきた。それに対して若干呆れながらエイラは口を開く。


「また壊滅した村があったわ。小さな村だけど、まさか高原のこんな場所にまで被害が及んでるなんてね」


「どこだその村?」


「標高が1000mに達するサリ高原の小さな村よ。今いる現在地を教えるから地図を開いてみて」


「しっかしねむてぇなぁ〜。ん…地図開けだと?了解しました」


 彼は忙しなく動き始める。するとこちらにまでガサガサと何かを漁っている音が聞こえて来た。そんな音を聞いて自分も馬に積んだ荷物の中から茶色の革で作られた、この国とその周辺国の一部が載った地図を広げる。


「……準備できました」


 彼の眠気混じりの気が抜けた声を聞いて自分も説明を始めていく。


「まずブルー・パレスの位置は分かるでしょ?このブルーパレスの点から指を横にスライドさせると一つの点があって、それがジルドね。そしてそのジルドからかなり右上にギザギザと線が伸びたシルム山脈があるでしょ?そこから少し下の部分にサリ高原があるんだけど、その左地方に私たちはいるわ」


「ここか。ん……軽く300kmはブルー・パレスから離れてるんじゃないか?この短時間で随分と移動したんだな。そういえば300kmもあれば東京から名古屋手前ぐらいまでには行ける、そう思うと凄いな」


「何その場所は?とうきょうとなごやってどこにあるの?」


「ゴホン。あぁ〜今のは独り言だから気にしないで。そういえばリエルも2日前にブルー・パレスから出てったぞ。そして王都の方へ向かうって言ってた」


「え、そうなの?リエルさん一人で大丈夫かしら……」


「リエルもれっきとした騎士だし俺も大丈夫だとは思う。しかし流石にこのご時世、彼女一人だけでは何かあったらまずと思って、彼女にはブラッドレイス数体を共周りに付けさせた。あの連中が守ってくれる限りこの国でリエルに勝てる者はいないと思うぞ」


「それなら大丈夫ね。それと私達が王都へ行くのを知ってリエルさんも王都へ向かってるの?」


「そうみたいだ。まぁ詳しくは彼女と連絡を取り合って確認してくれ」


「ええ分かったわ。ちなみにブルー・パレスの方は大丈夫そう?」


「こっちはなんとも穏やかだ。果たして連中は影を潜めてるのか、それとも退いたのか分からないけど。そのおかげで俺とラフィーは昼寝ばっかしてるが」


 だからそんなに眠たそうにしているのかと、エイラは納得した。


「そんなにお気楽なのね……やっぱり東部地方が何かと被害が大きいみたい。東部って言ったらガラン帝国と位置的に近いし、何か関係してるのかしら?」


「それはありそうな線だ」


 ジークもそうだがエイラも薄々と感じ始めている。


 この事件が単なる吸血鬼の暴走ではない事を。少なくとも以前からこの国では人喰いの化け物が蠢いている。それでも今よりは穏やかで、時には人間と共存してきた。


 そんな中でこれほど大規模に吸血鬼や他の化け物がこの国で人間を食い荒らす。これは背後に何者かが立っているとみて間違い無いだろう。少なくともアンデルン王国と関係が悪いガラン帝国は、王国の弱体化を切に願っている筈だ。


 この事件の裏には暗い暗い影が隠れている。


「こっちの方でそこらへんの調査も続けてみる。じゃあこの辺で切るわよ。リザばかりに調べさせても大変だもの」


「ああ分かった。じゃあリザにもよろしく伝えといて」


「リザもジークに会いたがってたよ。……それじゃあね」


 エイラは片手を下ろす。そして胸に手を当てた。


 ジークとはしばらく会えないけど、この国を守るために私たちの名前を広げるために頑張らなくちゃね。


 そんな事を考えると、少し先で馬を走らせているリザの方へと向かうのであった。



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