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野望

 なんだかんだあって部屋から出たジークは時間を確認しようと右腕につけた腕時計を見る。


「まだ5時半か、どうしよ」


 帰宅時間が5時前、この部屋から出たのが5時半。


 ラフィーに帰ってきたことは伝えたが、それでも先程の部屋には30分ほどしかいなかったことになる。自分としては夕食までの時間を潰そうと寄っていたのだが予想以上に早く出てきてしまった。


 ちなみに夕食はラフィーが作ってくれているので問題ない。11歳でなぜ料理を作れるのかというと、それはエイラとリザのおかげである。


 彼女たち二人は料理のイロハをラフィーにみっちりと教えた。吸収が早かったラフィーは調理スキルをぐんぐんと磨いていったのだ。


 その影響もあってか、この組織で料理ができないのはもはや二人だけとなった。それは言わずもがな自分とリエルである。


 まず自分としてはやりたい気持ちは山々だが、何せ料理ができるエイラとリザの二人に囲まれて育ってきたので、やる必要がないのである。それにまず農村では女性が食事を作ることが当たり前なので料理をした試しがあまりない。


 ではリエルはというと、彼女の方も料理をする意欲はある。実際、リザ達から調理を教わっている光景を見た事が何度もあった。しかし彼女は料理が下手なようで中々上達しない。だから教わって結構経つのだが、料理の腕は大した事がない。というかほとんどできないのであった。


 以前、練習の成果を見せようとジークだけに料理を振る舞ってくれることがあった。あの時は本当に酷かったものだ。まず、調理過程でいろいろなものをぶちまけていた。そして卵やポテトを焦がし塩と砂糖を間違えた。


 その時に飲んだスープがあまりにもしょっぱすぎて今でも忘れられない。とりあえず一口目で吹いてしまった。


「クソまずい」


 なんてことは流石に言えるはずがなく、冷や汗垂らして苦笑しながら「美味しい」と伝えたのだが、彼女の方もこちらの考えていることはお見通しで、泣きついてきた。


 あれ以来、彼女は料理に対してトラウマを持つようになった。こちらも地雷は踏みたくないので彼女の前で料理関係の話はなるべくしないように心掛けている。


「いやいや、これじゃあ立ち話みたいなもんだな」


 扉前で思い出を振り返るのも良い。しかしどうせなら時間を有意義に使うためにどこかで時間を潰そうではないか。


「あそこに行くか」


 急に閃いたように豪華絢爛な廊下を一人歩いていく。


 しかし気分が良い。だってこんな場所を歩けるのだから。


 どこまでも続くカーペットに大人な色合いの黒い壁。言わなければここはまるでお城や宮殿のようだ。

何度見ても実に立派なものである。


 そもそもこの場所はデス・フォールからぶん取った秘密基地である。その後、自分達で暮らしやすいようにリノベーション、改造した。


 ブラックヴァルキリーの第一拠点をスティン家にすると、ここは第二拠点。


 分かりやすいように自分達でも名前をつけた。その名は「女神の巣」ヴァルキリーという名前にピッタリの素晴らしいネーミングセンスだと自分の中では思っている。


 そんな女神の巣は20の部屋+2つの巨大空間で成り立っている。内訳としてはまずジークの部屋、彼女達の部屋、リビング、バスルーム、書斎部屋、実験部屋、薬草調合部屋、武器管理部屋、防具管理部屋、それ以外の物置となっている。


 先程の部屋は武器管理部屋だ。そしてこれから2つの巨大空間のうち1つへ向かおうと思っている。


 歩くこと30秒弱。


 ようやく目的の場所に辿り着いた。入口は強固な鉄の扉で塞がっている。少し重い金属の持ち手を下げて中に入っていく。


「……………」


 中は恐ろしく静かな空間。それでいて非常に奥行きがある。例えるならば誰もいない体育館のようだ。物寂しくてどこか冷たい雰囲気が漂っている。


 しかしこの空間には大勢の者がいた。それは生者ではない。壊れたロボットのように音もなく、ただ佇んでいる数百体のアンデッドたちである。そのアンデッドたちは五列横隊、六列縦隊の計30体を一ブロックとし、それが五ブロック横に並んでいる。


 自分から見て右から順に戦士部隊、盾部隊、弓矢部隊、魔法部隊、騎馬部隊だ。


 見栄えが良くて中身も恐ろしく強い。全てのアンデッドが各職業に特化した上級のアンデッドたちである。全ての統率は自分が握り、脳内で命令するだけで簡単に動いてくれる。また疲れを知らず恐れも知らない。


 人間では成立し得ない完璧な部隊。このアンデッドと自分はまさに一つの存在なのだ。


「フッフッフ…ハッハッハ!!」


 自然に笑いが込み上げてくる。


 果たして何が面白かったのだろうか。


 アンデッドが並んでいる光景が面白いのだろうか。


 ……違う。


 アンデッドが巨大空間にいるのが面白いのだろうか。


……違う。


 では果たして何が面白いのだろうか。


 それは自分の計画が着々と進行しているということからの笑いであった。この軍団が出来上がれば自分はこの街を支配することが可能。誰であろうとこの軍団を打ち破ることはできない。


 しかしそんなことつまらないことはしない。


 真の目的はこの軍団を更に増産して、自分が世界を牛耳り、聖も闇も支配する、完全な裏の支配者になること。その目的のためには誰であろうと容赦はしない。そして邪魔するものは全て死滅させる。


 そしてそうなれば、もはや誰であろうと俺を止めることは出来ない。一方的に世界を変革することができる。この世界を手のひらで転がすことが可能だ。


 今はその計画の第一段階。だから騎士長には領土を要求した。どんな辺鄙(へんぴ)な土地でもいいからそこを足がかりにしてここから世界へ進出していく。騎士長に条件を提示した深い幽谷の森はその計画や行動にうってつけ。


 もはや自分のやる事なす事全てがうまくいく。あとは自分達に歯向かう、どこかへ潜んでいる吸血鬼どもを滅ぼせば良い。これを順風満帆と言わずして何と言おうか。


 あぁ楽しみだ、実に楽しみだ……。


「世界よ待っていろ。遅かれ早かれこの我、蒼翠のフェンリルが世界を支配することになる。ハッハッハ!!」


 笑い声が広大な空間に響いて、反響していく。


 その声はもはや魔王であった。




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