至宝の使い方
テーブルに並べられた十本の剣のうち、一番左端の剣をジークは手に取る。
それは真っ黒に輝いた黒曜石のような剣であった。
長さとしては肘から指先までに到達するほどだ。剣にしてはそこまで大きくないものの、かと言って小刀のように短くもない。
重さは1kgもいかないだろう。形は中世ヨーロッパのロングソードを縮小したような感じである。
それをじっくりと細部まで眺める。
「綺麗なもんだな。なんでこの剣だけ魔力付与に成功したんだろ?素材が良かったのか?いや、元はただの鉄だしな」
この剣は黒曜石で出来ているというわけではない。
元はどこにでもあった単なる鉄剣だ。そこに闇属性を注ぎ込んでみたところ、漆黒の剣へと変化したのである。
様々な剣で試してはいるものの残念なことに、今のところはことごとく失敗している。銅、銀、金なんかは全てダメだった。こうして成功しているのは鉄だけだ。木製もなかなか上手いところまでいったが、ついには魔力に耐えきれずにひび割れてしまった。
まずなぜこんなことをしているのか。それはゲームとかでよくある属性付与がこの世界でもできるのではないかと思ったのが始まりだった。そして剣の実験後に調べて判明したのだが、どうやらこの世界でも属性付与をおこなうことは可能らしい。
現にこの剣がうまくいっているのがその証拠である。
ただこの世界の属性付与武器は物凄く希少で、高価なようだ。そしてなかなかお目に掛かれないので、俺も実物は見たことが無いしそこらへんの武器屋でも取り扱ってない。
武器屋の店主いわく属性付与をさせるには専用の職業、スキル、ギフトが必要なようだ。
そう思うとなぜ自分は属性付与に成功したのだろうか。そしてもしかしたらまたできるんじゃないかと思って、今も剣を握っているのだ。
「武器鑑定」
鑑定魔法を口にする。
すると3D上になって武器の細部の情報が浮かび上がっていった。
鉄製ロングソード中 闇属性付与(感染)
重量 0.6kg
剣身 50cm
価値 ???
製造年代 5日前
効果 闇属性強化
―――――
ふむ、なるほど……。
なんだよ感染って。
属性付与だけで良くないか?感染って何に感染してんの……?剣は病気にかかるのか?
実に奇妙な鑑定結果が出た。感染という表示もおかしいが価値が未確定なのも謎すぎる。こちとら詳しく知りたいために魔法を使ってまで鑑定してるのに、なぜに教えてくれないのか。
とりあえず感染と付くこんな恐ろしいものは封印しておくべきだろう。とはいえ自分は職業やスキルによって病気を完全に超克している。
しかし他の者はそういうわけにはいかない。もしこれが本当に感染性で、誰かに何かのウィルスを移してしまったら大変だ。公然の前で持ち運べるわけがない。もしかすると最悪バイオテロになってしまう。この表記が誤字、または自分の解釈違いと願うばかりである。
「せっかく上手くいったと思ったのにな。これもいわく付きか。餅は餅屋って言うし、魔力付与の真似事はやっぱりするべきじゃないのかもな……」
分かっていたことではある。しかし落胆するのも無理はない。
もしかして魔力付与に成功したんじゃないの。っていう、こちらの淡い期待を返して欲しい。
その最中にとある武器をジークは思い出した。
それは仕込み刀の存在である。
いやいやいや……。
誰もいないのに手をブンブンと振ってしまう。それは図星というほかなかった。
ま、まあ……。あ、あれはあくまでも杖が前提だから。その次に実は中に刀身が隠されていて、暗殺もできますよっていう、言わばオマケみたいもだ。だからあれは杖なのだ(断言)。
まぁそんなことは置いといて、目の前の剣たちをどうにかしよう。うん。
「とりあえず残りのやつもやってみるか」
重い腰を上げて魔力付与を行っていく。
…………。
その後もやはりというかことごとく失敗する。中にはボロボロになって崩壊する剣さえ出てきてしまった。
そして最後の一本である銀製の剣だけが残される。それを手に取った。
「銀は一度失敗してるからもう期待は皆無だわ。そういえば銀ってヴァンパイア特攻あるよな?するとこの剣は今回の事件に持ってこいか」
なんかそう思うと勿体ない気さえする。
ジークは整理整頓があまり得意な方ではない。物に情が移ってしまったり、いつか使うでしょ……的なことを考えてゴミ溜めを作ってしまうタイプの人間だ。だからこの剣が今すぐゴミになってしまうくらいならここは辞めておいて物置にしまった方が良いと、頭の片隅のもう1人の自分が叫んでいる。
ただ、今は心苦しいものの断捨離を選択しなければならない。だってこんな剣をいつまで取っといてもしょうがないし、まずこれは自分の所有物ではなくデス・フォールの残留品なのだから。
それに失敗するとは限らない。もしかしたら成功するかもしれない。
そう思うとジークの行動は早い。早速魔力付与をおこなっていく。
手順は至って簡単。剣を握ってなんの属性でもいいから流し込めばいい。
すると……。
「おぉ!!」
今まで通り闇属性を付与している。
しかし今までのとは明らかに反応があった。キラキラと紫色に輝き始めたのだ。そして闇の霧が剣を覆っていく。
「すげぇまがまがしいな。ゲーム中の武器強化が成功したみたい。もしかして魔王の剣でも生まれるのか?」
そして闇の霧は霧散した。剣にはなんと変化が起きていた。持ち手や鍔、剣身に紫色の結晶がいくつもくっついていたのだ。
結晶は光を反射せずとも自らキラキラと輝く。まるで宝石で飾られた剣のようだ。
「これは……!」
……カッコいい。
浮かび上がった感想はそれであった。
しかしあまりにもカッコよいのでしょうがない。それにかなり厨二臭い見た目をしている。
これを例えて言うのならばファンタジーゲームの最高レアが星5で、最低レアが星1だとしたら、この剣は星4くらい。そこは星5だろと言われそうだが、あえて星4ということで表現としては分かりやすくしたつもりだ。
それにしても、まさかこんなものが出来上がるとは。結晶もついているしこれはさながら結晶剣とでも言うべきか?
そうとなればすぐに鑑定だ。
ジークは先ほどの魔法を唱えた。
銀製ロングソード大 (闇の結晶、感染付き)
重量 1.5kg
剣身 95cm
価値 ???
製造年代 今日
効果 闇属性適正化 腐食ダメージ カルマ値低下
――――――
相変わらずダサい…。闇の結晶、感染付きってなんだよ…。わざわざ闇の結晶って表示するくらいなら名前は結晶剣とかでいいじゃん。それに感染は付けるなよ。
まぁ相変わらず酷いものだが、これは成功したといっても過言ではないのかもしれない。効果も先ほどのものより強力だ。
「しかし困ったな……」
この剣が付与に成功したのは嬉しいが一つ問題がある。
そう、自分は剣を扱わないのだ。