秘密基地って憧れるよね。
「しっかしここに来て2ヶ月弱か〜。そろそろ他の場所へ移った方がいいのか?でもあの男と約束したし、もう少しここにいた方がいいのかもな〜」
ジークは後頭部に両手を当てて夕方の道を呑気に歩く。
リエルとラフィーと出かけてから、かれこれ一週間が経過し、怪奇殺人の事件を追ってからは三週間弱が経っていた。
怪奇殺人の件はこの街ではあまり進展がない。自分がやる事が多くて忙しいのと、相手が大した動きを見せないからである。
果たして敵は潜伏しているのか、それとも自分が分からないだけなのか、はたまたこの街から立ち去ったのか、正直よく分からない。
また街を出たエイラとリザと定期連絡はしているのだが、むしろそちらの方が重大な事件が多発しているとのことだ。被害の酷いところであれば村一つ消滅した場所すらあるようだ。
そして彼女達の報告によって分かった事がある。
それは相手が魔人、特にヴァンパイアの集団ということだ。エイラはその連中が村を襲っているのを見たとのことで実際戦闘も行ったらしい。数人は倒したようだがこちらの強さに気づくと相手は撤退したと言っていた。
このことから、どうやら相手は無闇に人間を襲っているのではなく規律が多少なりとも取れているという。
油断ならない相手なのは確かだが、そこから読み取れることもまたあった。それは相手がどこかの組織に所属しているという可能性が浮上してくることだ。どこかは分からないが国かもしれないし、ヴァンパイアや魔人の組織があるのかもしれない。
とにかく現時点では情報不足。リエルも二日前に旅立ち、エイラ達と合流してそこらへんのところの調査を進めている。
まぁなんやかんやで、この街に残っているのはもはや自分とラフィーの二人だけになった。ちょっと寂しいがラフィーがいてくれるだけで十分である。
それとそういえばあの騎士長様と先日バッタリ出くわした。その時は貴族風の戦闘衣装で呑気に街中を歩いていたのだが、こちらに気付いたようで近寄ってきたのだ。
突然のことでびっくりしたが、話を聞いてみると、どうやら俺に協力して欲しいらしい。協力してほしい件というのはこの国のことで、その中にやはりというか怪奇殺人の件も含まれていた。
どうせなら協力した方がこちらも得る情報が多いので手を組んであげることにした。すると騎士長さんは感動したように喜んでくれた。
あの時は広場で出くわした時の威厳ある姿とはえらい違って、こちらに対して敬語や謙遜もしてきた。すごい変わりようで一瞬呆気に取られたものの、彼の本当の姿は正しく好青年であった。
とはいえこちらの協力も無料じゃない。今この国で起こっているさまざまな騒動が収まったら、こちらに対して少しの領地と大きな謝礼をすると約束してくれた。
ちなみに領地というが山奥にある土地を少しばかり貰うだけだ。あちらがなぜそんな土地を欲しがるのかと訊ねてきたがちょうど実験がしたかった。
黒魔術師がやるようなおどろおどろしい闇の実験を。流石にこんな街中ではできないので、山奥の土地をよこせと言ったら素直に渡してくれることになった。
それと大きな謝礼だが、とにかく色々くれるらしい。金品はもちろんのことそれ以外も渡してくれると約束してくれたので楽しみにしている。
「ふふふ〜ん」
音楽や歌の才能がからっきしなジークの下手くそすぎる鼻歌や道へと広がっていく。
そんなこんなで歩いていると、自宅近くの巨大な倉庫群へと入りある一つの大きな倉庫の前で止まる。
チラッと左右を確認し、誰もいないことを確かめると鍵をポケットから取り出す。
それをドアノブに挿して回していく。
すると扉が開き、その中にジークは入っていく。
「………」
中はやはりというか広大な空間が広がっている。それはもちろん、荷物をここに留めておきどこかへ流す役割を持つ倉庫なので当たり前なのだが。
しかしこの倉庫の中にあるのは物資ではない。では何が一体置いてあるのかというと、それは大量のアンデッドであった。
夜の騎士や霊廟の守護者、不死の神官、その他諸々のアンデッド達である。
何も知らずに入った者なら失神しそうな光景がここに広まっているが、もちろんこれらは自分が創り出したものなので驚くも何も日常風景。
ここにアンデッドを配置しているのはもちろん警備のためである。自分達以外の部外者にここの居場所を知られたら、これらを動かしてそれを排除するし、侵入させないようにしているのである。
「どうもどうも。お疲れ様っす」
この世の地獄から現れたような者達に対してこのように呑気な挨拶をしてみたりもする。
「………」
しかし、やはりというかノーリアクションだ。
たまにはラフィーなどを見習って「おかえり!!」なんて一言でも言ってくれたらと思ったりもするのだが、どうやっても言ってくれないようだ。
恐ろしい顔だが案外ツンデレなのかもしれない。
そうポジティブに思っておこう。
ある程度歩くと階段を下っていく。
細く薄暗い階段だがもはやここを上り下りするのも慣れたものだ。
階段の降りた先に鉄の両扉がそびえている。その鉄の扉に右手の人差し指につけた紫の指輪を近づける。
すると紫色に輝いて、その重々しい扉は広がっていった。扉が開いた先にはお城のような立派な廊下が続いている。倉庫の中にあるとは思えない立派な西洋チックな廊下である。
「ただいま〜」
そしてその中にジークは入っていくのであった。
眠すぎました。