それぞれの旅路
なんか長くなりました。
「陛下もここ一年でお変わりになられてしまった。前まではあれほど民や配下に対してお優しく、情けを分け与えてくださったというのに、今では一部の人間のことしかお考えになられておらない」
アデルはしみじみとそう言った。その言葉にカインも無言の納得をする。
最近の陛下は人が変わったかというか何かに憑かれたように豹変してしまった。アデルの言う通り、それはここ一年で顕著に感じられる。
特に半年前からさらに酷くなったかもしれない。
それはちょうどヴァレジストが現れた時期と一致していた。あの男は異常なほどに国王に気に入られ、二人は蜜月な関係を構築している。
やはり……陛下の行動にはあの男が関連しているとしか思えない。何か変なことでも唆したのか?それともお得意の魔法で操っている?
カインには決定的な証拠は持ち合わせていない。
しかしこんな事は明らかにおかしい。目的は分からないがあの男は必ずドス黒い何かを隠し持っている。早くその秘密と素性を暴いて、この国や陛下を守らなくてはならないのだ。
そんな事を考えていると、
「陛下の悪口を言うなんてとんでもない。アデルさん、その発言を撤回してください」
シーナがアデルを非難する。それは先程の陛下に対するアデルの発言が気に食わなかったのだろう。
「いや、いいんだ」
カインはポツリとそう言葉を漏らした。
「えっ?」
「確かにかつての陛下は素晴らしい方だ。しかし今の陛下を見るにそうは思えない。盲目的に主人に従うのは従順な配下としては満点なのかもしれない。しかし本当にこの国を、主人を想うのならば、たとえ自分の身が危ぶまれても主人を非難する事が配下のあるべき姿だとは思わないか?」
「確かに、そうかもしれません」
「そして重ねて問いたい。シーナは最近の陛下はおかしいとは思わないか?」
「実は……私もそう思っていました」
「そうだろう?最近の陛下は明らかに様子がおかしいんだ。だから……」
そう言っているところで自分に対して驚く。
かつての自分ならば陛下に対する雑言はなんであろうとも許さなかった。しかし今は違う。今の陛下のやり方は間違っていると自信を持って言える。
ではなぜそんな心代わりしたのだろうか。
もしかしたら、今の陛下の現状を見てそう思っていた事が咄嗟に出てしまったのかもしれない。
……そう思うと俺も人の事は言えないか。
「どうかしましたか?」
「いや……なんでもない。とにかく本当に信じられるのはこの場にいる三人しかいない。だから俺たちだけでこの国を変えるしかないんだ」
「あぁそうだな」
アデルが頼もしいように肯定してくれた。
「そのためにサイエム議長の協力が必要です。協力していただけますか?」
「ああもちろんだ!!この国の君達のような若者に言われたらそう言うしかないだろう、私もぜひ協力させてくれ!!」
「ありがとうございます」
カインは深く頭を下げる。隣で「俺はもう30歳過ぎてるが…」などと言っている男は無視をしていく。
「まずこの四人で役割分担をします。私とシーナはこの街で引き続き怪奇殺人の件を調査します。わかったねシーナ?」
「はい」
「続いてアデルさんは第一騎士部隊の一定数を引き連れて王国各地へ赴き、12からなる王国騎士部隊やその他の騎士達をまとめてください。それとヴァレジストの手の者がいたら警戒と同時に監視もお願いします」
「分かったぜ」
「最後に、サイエム議長は王都へと戻り、権力闘争をしている貴族達に争いを止めるよう説得をお願いします。またその時に私の名前を使えば通りも良いでしょう」
「分かったよ。だが今、貴族の方々を説得する必要があるのか?」
「はい。こんな時にでさえ自分達の身の可愛さ故に貴族達が争い合っていては、この国もまとまりません。
あの連中は少し大人しくさせておく必要があります」
「なるほど、分かった。だが一つ気になる事がある。
むしろカイン君の方は大丈夫なのかな?」
「えっ?」
「君はこの国には三つの軍事的危機が迫っていると言った。一つ目がこの国に化け物が潜んでいるという件、二つ目に隣国のガラン帝国が攻めてくるかもしれない件、最後に魔法部隊が他国と内通しており、この国を寝返るかもしれない件。これら三つの危機が同時に襲ってきたら、この国の兵や君の部隊で守り切れるのか?」
「はっきり言ってそれは難しい、というか無理でしょう。一つ目のヴァンパイア、特に相手が真祖クラスの者がこの国にいるとするならば、それだけでも抑えるのが今の我々では手一杯です。だから三つ目の問題はまだしも、隣国のガラン帝国が本格的にこちらに攻めてくるとなれば、それはもうこの国のお終いです」
「なるほど……」
「それはやばいな」
「我々はそんなに追い詰められていたんですか……」
それを聞いた三人は深いため息を吐く。
実際、この国が完全に勝つという道はない。あくまでこれら三つのことを抑えられたら被害が最小限に留められるということであり、もしこのうち一つでも抑えられなければこの国が滅ぶ。
つまり最初からこの国の命運は引き分けか負けしかないのだ。
しかしここで引き分け、つまり被害を最小限にとどめることができるのならばこの国は存続していける可能性が高まる。またこれらの三つが必ず発生するということでもない。
二つ目と三つ目の軍事的危機はあくまで可能性という話である。帝国が踏み留まる可能性だってあるし、そもそも魔法部隊が裏切っていない可能性もある。
しかしそれとは別に、これから降り掛かってくるであろう困難に対して三人が落ち込むのは無理はない。
ただ不思議な点を挙げるとするのならば、一番この先の状況を想像できるであろうカインが平気な顔をしていたことだ。
そんなカインが口を開いた。
「今こんなことを言ってしまいましたが、実はこの国を救う手立てはあります。私は少し前からある方に接触しようと奔走していました。そして先日、ようやく彼と会うことができた」
「誰なんだその人は……?」
サイエムは不思議そうにこちらに尋ねてくる。それに対してカインは自信満々に答える。
「彼の名は"蒼翠の"フェンリル"。この街を救ってくれた英雄ですよ」
「フェンリルだと!?」
「!?」
三人は驚愕する。
しかしそれも無理はない。その者は五公爵のうち一人を倒し、この街を救った者なのだ。そして自分達は彼に会っている。
「しかし大丈夫なのかね?そんな者を連れてきて……」
サイエムは非常に不安そうな顔をする。
ただカインとしては彼が安全で理念を持っていることを知っている。少なくとも先日自分一人で話し合った時、彼はこちらに対して胸の内を明かしてくれた。だから彼が安全だということを弁明しなければならない。
「この街や我々は彼によって助けられたと言っても過言ではありません。正直に言ってしまえば、私ですら五公爵は手に負える相手ではありませんでしたから」
しかしサイエムも譲らない。
「だからこそ危険なのではないか?もしその者がこの国で暴れれば文字通り崩壊してしまう。誰もそんな者を制御できないのでは?」
「私は彼が信用するに足りる人物だと確信しています。そして彼を敵に回すことがどれほど愚かという事かも知っています。どうせこのまま何も手を打たずにいたら、この国は崩壊してしまう。だったら、少しでもこの国が助かる可能性に賭けてみませんか?」
「たしかに……」
念を押すようにカインは説得を続ける。
「それに彼は私に似ていた。常に恐ろしいような雰囲気をまとっているのに、彼の笑った時の雰囲気が、どことなく夢を抱いた無邪気な少年のようでした。私は信じています。彼がこの国を救ってくれると……」
彼の目は本気だった。このような強い意志に何を言っても、もはや揺らぎはしないだろう。だからサイエムは何も言えなくなった。
それに彼の言う通りこの国が少しでも存続する可能性があるならば、どんなに細い糸でもたどってみせようではないか。
彼の信念に心を動かされたこちらの負けだ。
「分かった。君の言う通りそのフェンリルというものに託してみようではないか」
「ありがとうございます!」
カインは立ち上がって頭を下げる。
そして両脇の二人を見た。彼らは驚いた表情をしていた。
「まさかあの危険な存在に独断で接近していたとは……正直驚いたぜ。やはり隊長さんはすげーな」
「アデルさんほどじゃありませんよ」
「ふっ、そうか……?」
彼は頭をポリポリと掻く。まるで少し恥ずかしがっているようであった。
「カインさんはやはりこの国の未来を見ていますね!」
「そう思ってくれると嬉しい」
「ふふっ……」
シーナは優しげな笑みを浮かべる。そこにサイエムも立ち上がる。
これでこの国を救うメンバーが揃った。四人でこのこの国に潜んでいる危機的状況を脱して再び強い王国へと戻すのだ。全員の瞳に強く熱い炎が燃え上がる。ここにいる皆が国を救おうと気持ちを一つにした瞬間であった。
「これからどんな危険が我らを襲うか分かりません。
もしかしたら次に会う時は、全員が揃う事はもはや不可能になるかもしれない」
遠回しに言っているがつまり言いたいことは、この中で誰かが死ぬかもしれないということだ。全員がその意味を悟る。
「ですがこれからの子供達の未来のために我々だけでも立ち上がりましょう。そして全てが終わったら、その時はまたここに集まって色々な話をして笑い合いたいものです」
「あぁ、そうだな。全てが終わったらみんなで楽しく語り合うではないか!!」
まるでこれから困難に立ち向かう態度でも表情でもない。全員が生き残ると信じているからこその、前向きな対応だ。そんな勇ましい心にもはや怯えや心配といったマイナスな感情は誰も持ち合わせていない。あるのは前向きな気持ちと再会した時の喜びだ。
四人は手を合わせる。
全員がここに戻れることを信じて。
この部屋から出た全員の瞳は、鷹の如き鋭さを持ち合わせて前だけを向いていた。
クライマックスみたい雰囲気ですが、ちなみに言っとくとまだこれは魔人編の前半でしかないです。
それとネタバレかもしれませんが、彼ら全員が揃う事はもう無いです。ですが生き残る人もいます。
それを考えてこれからの物語も読み進めていただけると、楽しめるかと思います。
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