敵に回してはいけない者
「他愛ない有象無象達だ」
山のてっぺんで杖を片手に俺はそうカッコつける。
もちろんエイラを除いて、誰もこんな山にはいない。
ここは、敵を倒すカッコいいダークヒーローのシーンなのだ。誰にも邪魔させるわけにはいかない。
「何やってんのアンタ…」
しかしやはり邪魔が入る。
雑木林で、戦いの一部始終を見ていたエイラがこちらに歩いてきた。
「今の連中一体なんだったんだい?」
「もしかして知らずにやっつけちゃったの?」
「うん」
あんな連中初めて見た。
そうなのだ。
初めましての、敵か味方かも分からない奴を倒したのだ。
やってることはかなりやばいかもしれないが、まぁ問題は無いだろう。
だって村人を騙すとかなんとか言ってたし。
少なくとも、こちらの味方で無いのは確実だし、悪役なのも確実だ。
むしろ、村で変な事をされる前に倒したのは上出来ではないだろうか。
「さっきの連中はね、たびたび村に来ては怪しい宗教の勧誘をして、村人達にヘンテコな偶像売りつけて荒稼ぎしていた薄汚い連中よ」
「そうだったんだ」
よくは分からないが、なんと悪い連中だろう。
同じ村に住んでいると言うのに、気づかなかった自分が恥ずかしい。
連中はライアン様?ロイ様?
とか、訳の分からない事を言っていた。
もしかしたら他にも大勢いるのかもしれない。
それに儀式とも言っていた。
なんの儀式かは知らないが、ミスミスそれを逃してしまったら、村に大変な事が起きるかも分からない。
この問題を解決できるのは自分達しかいない。
これは自分達の村を守る戦いなのだ。
それと同時に、これはちょうど良い機会なのかもしれない。
何がだ?
そんなのは決まっている、闇の組織結成の良い機会だ。
闇の組織が悪の組織を倒す。
なかなかにカッコいい。
「そういえばさっき儀式とか言ってたわよね。
これがその儀式に関係する道具とかじゃないのかしら?」
そこには石で作られた未知の装置が置かれていた。
壊すのは簡単だ。
しかし、果たしてこれは壊してもいいものなのか。
もしかしたら、自分が計画している儀式に使えるかもしれない。
連中の悪趣味な儀式に使われるには、少しもったいない。
やはりこうして作られたからには、俺みたいな崇高なネクロマンサーの手によって、アンデッドや化物を量産できるために使われるべきなのだ。
しかし、これ放置したら最悪なことが起きるかもしれないもまた事実。
かなりの重さがある以上、二人でこんなのは持っていけない。
自分が敵を倒す前に使われたら最悪だ。
そう考えるとやむを得ないが、壊すしか無いだろう。
本当に悔しい、本当に。
できれば持って帰って、自分の部屋のど真ん中に置きたい。
「これは壊した方がいいんじゃないかしら?」
「本当は壊したく無いけど、背に腹はかえられぬ。
クッ…!仕方ない」
「何言ってんのよあんた…」
エイラは"お前の頭大丈夫か?"みたいな表情をする。
「しかしどうやって壊す?」
「まぁまぁ見てなさい」
ただでは帰らない。
悪人達が飛び上がるような惨状にして帰ってやる。
立つ鳥跡を濁さず。
というが、そんなものは関係ない。
悪役には、目には目を歯には歯を、という言葉ふさわしい。
三流小物悪徳商売悪党が、闇の組織に喧嘩を売ったらただでは済まないということの良い宣伝になる。
ここには沢山のアンデッドやスケルトンを置かせてもらおう。
そしてこの山を存分に荒らしてもらうのだ。
先ほどの発言から、エイラにもOKサインは貰ったとみて判断していいだろう。
これで心置きなく召喚できる。
魔法を唱えた。
「サモンアンデッド、ゾンビ、スケルトン、腐肉の神官、夜の騎士」
恐ろしい数々のアンデッドが二人の目の前に現れる。
10体以上のゾンビとスケルトンに、ボロボロに汚れたローブを着ている、腐肉の神官、そして最後に漆黒の鎧を纏ったアンデッドの騎兵、夜の騎士。
もはやそれは一人のネクロマンサーが創り出していい量のアンデッドを超えていた。
素晴らしい、素晴らしいぞ!
もはやこのアンデッド軍団を止められる者はいない!
はっはっはっは!!
「何この化け物たち…。
おぞましいなんてもんじゃないわ」
襲わないと分かっていても、凄まじい化け物の迫力だ。まるで近くにライオンの集団がいるような感覚に近い。
エイラが戦慄するのも無理はないのだ。
「俺から見たら全て芸術作品だよ」
図鑑で見たけどやっぱこの目で見た方がいいよな。
「ステータスオープン」
腐肉の神官と、夜の騎士のステータス情報が映り出される。
腐肉の神官 (Lv10)
種族 アンデッド(ゾンビ系)
職業 神官Lv3
特性 闇、光耐性。状態異常、即死無効化。
炎、打撃弱点。知能向上(中)。
種族スキル
呪いの法衣
打撃、斬撃を与えてくる者に一定確率で呪い、精神攻撃を加える。
職業スキル
大神官の祈り (プレイヤーオブプリースト)
一定範囲にいる味方全体にダメージ低下、魔法ダメージ低下の加護を与える。
夜の騎士 (Lv13)
種族 アンデッド(ゾンビ系)
職業 戦士Lv4 騎士Lv2 槍士Lv1
特性 闇、光耐性。状態異常、即死無効化。
炎、打撃弱点。知能向上(中)。
種族スキル
生前の栄光
ダメージアクション、吹き飛ばしを無効化する。
職業スキル
身代わり
一定範囲の味方の攻撃を代わりに全て引き受ける。
常時、自分に入るダメージ5%低下。
歴戦の一突き
自分の力+武器攻撃力の1.5倍のダメージを与える。
ここまでのレベルのアンデッドになってくると、もはやスキルの数々も大したものである。
このまま俺たちが帰った後に暴れさせても面白いが、どうせなら一つ技を見てみたい。
「ブラックナイト、お前が持っている職業スキルであの石柱を破壊しろ」
ガァァア。
鳴き声とも了解とも分からない声で叫ぶと、馬を走らせて石柱を、一閃のもとで突く。
石柱は粉々に破壊され崩壊していった。
「すげぇ!」
「なんて力なの!?」
あれは職業スキルでしかない。
他にもスキルや魔法なども持っているので、かなりの期待ができそうだ。
やることは終わった。
あとは帰って残りの残党の対策を考えるだけだ。
「エイラ帰るぞ」
「……はいはい」
――――
ジーク達が帰った3時間後。
ライアンとロイは儀式最終準備のために、ヒルレ山の山頂に戻ってきた。
「おーい戻ったぞ!」
ロイがそう呼びかけるも誰も反応しない。
「あいつらはどうした?」
「おかしい、少し見てくる」
そこでライアンは驚愕の光景を見た。
山頂の自分達が用意した儀式の道具が完膚なきまでに破壊されているのだ。
それも地面がところどころ陥没している。
自分達がいない間に果たして何があったというのか。
「ど、どうなってるんだ!?」
その声に驚いたロイも駆けつける。
「お、おいおい。これはどういうことだ!?
ここにいた二人はどうした!?」
「分からん。どこにも見当たらない」
「な、なんだあれは?」
見るも無残に破壊された儀式の装置。
そしてその上に、手紙が置かれていた。
それを強引に破ると、中の本文を読んでいく。
―――
もしここでこの手紙を読んでいる者がいるのならば、それは幸運だ。
貴殿は助けられた。
それこそ神の巡り合わせによって。
本当に君が神を信仰しているならば、これに従ってすぐにこの山から、村から立ち去るべきである。
もしこの警告に従わない場合、君は君の神によって罰を受けるだろう。
たとえ君の後ろに神が立っていたとしても、我々、闇の組織は君の神さえ殺す死神にもなるであろう。
P.S.
俺もマルチ商法は勧誘されたことがあるよ!!
―――
――マルチ商法…?
「ふ、ふざけやがって!!
誰だこんな手紙を書いた奴は!!」
「どうするこの村から離れるか…?」
いつも強気なライアンが少し怖気付いている。
いったい何があったというのだろうか。
「じ、実はな、この山に置いていた魔獣が全て消滅させられてるんだ」
「な、なんだと!?」
ライアンは、しばらく前からこの山に魔獣を配置していた。目的はここの山に許可なく来た者を殺すため。
儀式の情報が漏れる危険性を考慮してだ。
多大な財産、物を犠牲にして魔獣を生み出したのだ。
自分は召喚士でも死霊系召喚士でもない。そのような才能も力もないからだ。
それらが全て倒されていた。
それこそ自分の力よりも強い魔獣もいた。
それが倒されたのだ。
言いたいことは分かるだろう。
つまりこの手紙を書いた者は、少なくとも自分より強い存在だということだ。
そんな者に狙われている。
もしかしたら、いつでも俺たちを殺せるようにあたりの森に隠れているかもしれない。
ライアンは嫌な汗を一筋かく。
しかしロイはそんな気分ではなかった。
「だからな、儀式は失敗かもしれないが、一度撤退すべきだろ?」
「うぅ…そんな事しるか!!我々は儀式を行う!
もし本当に手紙の奴が来るならば俺が排除してやる!」
その瞬間、二人の命運は決まってしまった。
二人はまだ知らない。
自分達が地獄の片道切符に乗っているとは。
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