会談
「これから第4回ブルー・パレス復興会議を始める。議長は引き続きこの私、サイエム・ドール。そして副議長はカイン・グラストイラ=シャウデール王国騎士長殿に務めてもらう。この街をより良く健全に復興するために皆の衆、宜しく頼む」
円卓の席に座った議長のサイエムと、隣の席に座ったカインは頭を下げる。それに続いて、円卓に座った残りの八名も挨拶をすると頭を下げていった。
ここはブルー・パレスの国王接待の館。デス・フォール騒動の件の後に作られた週に一度の定例会議の始まりである。
国王接待の館と言われるが、現在国王は迎えていない。
単にこの館が会議にうってつけの場所であったためにここで開催しているのだ。というか、まずこの館以外で大きい会議の場を開ける場所がこの街に無い。
だからこの場所しか選べなかった、という方がどちらといえば正しいだろう。当然国王には許可をいただいている。
議長のサイエムは重々しく声を張る。
「時間は有限であり諸君らは忙しいだろう。そのため早速だが本題に入る。今日の本題は、先々週から国内各地、この街の中で起きている怪奇殺人の件である」
「…………」
それを聞いた議員達のほとんどは浮かない表情をする。今日の議題がその話になることは全員が分かりきっていた。そしてその議題こそ喫緊の重要な話題の一つであり、最も話したくない話題の一つでもあった。
「ではまず破壊状況について話そう。この街においての先々週からの被害者数の総和は、ざっと見積もっても400である。そして今もなお被害は続いており、行方不明、未発見の者を見積もって合わせると、その数は700にも達する」
「700人だと……!?」
ある程度の数を見越していた議員達もこれには予想外だった。度肝を抜かしている者もいればオウム返しのように数を口走る者もいる。それは騎士長であるカインにとっても同じであった。
カインは苦い表情をして右手を固く握る。
騎士長としてこの被害者数は前から知っていた。しかし改めて口に出されるとやはり動揺は隠せない。近くの副騎士長のアデルと後ろで控えているシーナも同様の顔をしていた。
それにしても、たったの二週間でこの街からおおよそ700の命が何者かに奪われるとは一体どうなっているのだろうか。デス・フォールの件がやっと収束したというのにすぐにまたこれだ。しかも今度は国全体の話。
これはまさに泣きっ面に蜂という言葉が合っている。
王国第一騎士団や新たに配備された衛兵達には厳戒態勢をもって、警備や見回りをさせている。
それでもこれほどの損害を出してしまっている現状。なおかつ犯人は未に捕らえられてはいない。
これはエリート部隊と恐れられ、謳われていた王国第一騎士団にとっての汚点であり、その名に傷が付きかねない。
この国一番の精鋭部隊が無様な醜態を晒す。それはこの国の軍事が危機に瀕するという事と同義。何より国王の威信を汚す事になりかねない。
自分が情けない姿を見せる。それはカインとしてはなんとも思っていない。しかし国王の尊厳に泥を塗る。これだけは軍事面のトップである自分として、何としても食い止めなければならない。
だからカインは必死なのだ。
そんな事を考えていると隣の議長は話し出す。
「この事案について諸君らの意見、対策を伺いたい。
何か考えのある者はいるか?」
すると少し離れた席の者が声を上げる。
「これだけの被害が遭っても敵は不明。一体何者の仕業だと考えられるのでしょうか?」
それは臨時で来た財務副大臣であった。
ただ視線は議長の方を向いておらず、自分を捉えている。どうやら軍事担当面の自分に聞いているみたいであった。だからカイルもそれに応じた。
「恐らくですが相手は人間では無いでしょう」
「人間では無いと……?」
「はい。今我々の中では犯行者は三つの種族のうちどれかではないかとされています。一つ目は魔人種、続いて亜人種、最後に獣人種」
カインは話を続ける。
「なぜ犯人が人間ではないと私が推察した理由として不審死の遺体の大部分は、身体のどこかの部位を欠損させているからです」
身体の部位が欠損だと?
傍聴していた関係者がそう口々に発した。
「そうです。失った部位は人様々ですが明らかに人間を食べているような形跡が見つかっております。この点から犯人はおおよそ人間では無いと窺えます」
てっきり人間の犯行だと思っていた議員達は明らかに動揺する。財務副大臣もその中の一人であった。
「ちなみに魔人種であればヴァンパイアが、亜人種であればオークやトロールが、獣人種であれば人狼が、人間を食べます」
「……で、ではその三つの種族で犯行を行った可能性が最も高いのはどの種族でしょうか?」
財務副大臣がそう聞いてくる。
「圧倒的に魔人種ですね。まず亜人種のオーガやトロール、ゴブリンなどは人間に比べて圧倒的に知能が劣ります。ですからまずこの街に入ることすら叶わないかと。それほどの知能がございませんので。そうなるとやはり可能性が高いのは魔人種のヴァンパイアです。人間と知能は同等、もしくはそれより高い者も存在し、圧倒的な身体能力と魔法の才能、何より人間より凶暴な点。これを踏まえると相手がヴァンパイアであると言って間違いないかとこちら側は踏んでおります」
「ヴァンパイアですか。しかし、それほど恐ろしい存在相手に我々だけで対処できるのでしょうか」
「うーん……正直なところ難しいですね。通常のヴァンパイアが少数いるのでしたら対策も容易ではあります。しかし今回はたったの二週間で、尋常では無い数の被害者が出ております。700という人間はヴァンパイア1匹2匹では到底食い切れる数ではありません。この事から相手はかなりの集団、または真祖レベルの強敵がいるとみて間違いないかと」
「そうですか……」
この国トップのカインが断言した事により、この場の雰囲気が沈んでいった。
中には「どうするんだ」「もうこの街は終わりでは無いのか」と言っている者までいる。
それほどまでにヴァンパイアは恐ろしい存在であると議員達は知っていた。
中でも先程触れた真祖とは吸血鬼の王。真祖はヴァンパイアとしての弱点を全て克服し、人間を食した数と質に比例して無限に強くなっていくと言われる。
そんなのに挑むのは丸腰の人間が体重300kgを超える熊に挑むのと同じ意味だ。いや、むしろそれであれば熊に挑んだほうが助かるかもしれない。熊は知能が人間に劣るがヴァンパイアはそうではない。
人間同様の脳みそに数十メートルを跳躍するような人間をはるかに超える身体スペック。そんな恐ろしい相手に、果たして人間はどう対応すればいいのだという話だ。
カインは頭を抱える。
まずいな。それにこの件には何かとても大きい第三者の陰謀が絡んできている気がする。
カインは陰謀論者ではない。しかしこの国だけが謎の化け物に狙われている現状を鑑みるに、そう思わざるを得ない状況なのも仕方がなかった。
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